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Stage3 敵か味方か

story35 非日常の中の日常

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「うん。......うん、平気だよ。大丈夫だから、心配しないで。絶対に元気になって帰ってくるから」

 あれから時が過ぎて、いつのまにかもう十二月。最も気温が上がる三月に向けて暑さが厳しくなってきたナイロビも雨季に入って、急なスコールも増えてきた。
 
 早いもので、戦いに行くまで残り三ヶ月。
 この研究所での生活もすっかり私の日常になってきた今日この頃。週一の約束になっている両親への国際電話を研究所でかけてから、宿舎へと戻る。

 一応スマホあるし、お母さんたちがアプリ入れてくれれば日本にかけられるんだけど、アプリの入れ方分からないとかで入れてくれないんだ。いちいち研究所の電話を借りなきゃいけないのはしんどいけど、仕方ないかな。

 お母さんとお父さんには、御堂先生が上手く事情を説明してくれた。とはいっても、まさか本当のことを言えるわけもない。

 原因不明の病気を専門に研究している医師と偶然知り合い、ケニアで治療に専念している......という設定になっている。

 騙していることになるので罪悪感はあるけど、本当のこと言ったらさらに混乱させちゃうだろうし。

 お母さんは治療方法が見つかったと聞いて、電話の向こうで泣いていた。当たり前だけど、すごく心配かけてるんだと改めて思ったよ。

 ケニアに行く当日、泣きそうな顔をしながらも私を止めなかったお母さんやほとんど会話もないまま空港まで送ってくれたお父さんを思い出すと、今も胸が痛い。

 こんなこと言える立場でもないかもしれないけど、もし無事に地球に帰ってくることが出来たら、また家に戻りたいな。

 少しだけホームシックになりながらも自分の部屋に戻ると、なんとなくテレビの電源をつける。

 一応部屋は一人につき一部屋与えられていて、豪華で広いというわけじゃないけど、生活するのに十分な広さと物は揃っていた。ベッドにテレビに冷蔵庫、シャワー付きトイレ、台所はないけれど電子レンジはある。

 チームリーダーのブレットや千明はともかく、下っ端の私はてっきり相部屋かと思ってたけど、そうでもなかった。

 私一人しかいない部屋の中で、英語放送版のテレビからはニュースが流れている。アフリカのどこかの国で過激派武装テロ集団がアメリカ人の旅行者を人質にした、とか。

 私が小さい頃から———もっと言うと生まれるずっと前からこの手のテロ集団はたくさんいて、それぞれに主義主張があるらしい。

 でも私には、この人たちが一体何を要求しているのか、何のために戦っているのかもよく分からない。よく分からないけど、もう何十年も前からずーっとこの手の争いやテロ行為は絶えてない。

 こっちは地球を守るために宇宙人との戦いに備えているっていうのに、地球人同士で争ってるの見るとなんかね。
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