魔王の娘としては大変不本意ではございますが、勇者と結婚することになりました。

春音優月

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19、ロイヤルプロポーズ?

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 感傷を打ち消そうと早足で歩き、アデルに先程おまけでもらったハート型のうずまきケーキを差し出す。
 
「くれるの?」
「おまけだそうだ」
「へぇ。このハート型のうずまきはね、好きな人に告白する時にあげるんだよ」
「キャー! 素敵ですねぇ、ミアさま」
「は、はぁ!? あの女はそのようなことは申してなかったぞ!」
 
 頬を染めるリリス、楽しそうなアデルにミアは地団駄を踏み、思わず先程の中年女性をにらみつける。すると、女性からニコニコと手を振られ、ミアはますます怒りが湧いてきた。
 
「ありがとう、ミアの気持ちもらっておくね」
「か、返せ! お前にはこっちの丸い方をやるから」
「ダメだよ。もうもらっちゃったから、返せないよ」
「アデル!!」
 
 ミアとアデルによるハート型のケーキの奪い合いが始まったが、熱が入ったミアがついアデルの名前を大声で呼んでしまった。
 その瞬間、近くにいた六歳くらいの男の子がピタリと足を止める。
 
「……にいちゃん? やっぱりアデルにいちゃんだ~」
「あ~、見つかっちゃったか……」
 
 アデルは苦笑いを浮かべながらも、突進してきた男の子を笑顔で受け止めてやっていた。
 
「にいちゃんこんなとこで何してんだ? 今日も仕事か?」
「ううん、今日はプライベートだよ」
「そうなのか……、あ、もしかしてデートかっ? そっちの可愛いねえちゃんは、にいちゃんの彼女なの?」
「このお姉さんは、俺の大切な人なんだ」
 
 両の拳を顔の前で握り、キラキラと瞳を輝かせる男の子にアデルはサラリとそう応える。
 
「へぇ~、なんかかっけ~。大人の響きだ……」
「何がだ」
 
 尊敬の眼差しでアデルを見つめる男の子にミアが眉をひそめる。
 
「じゃあさ、じゃあさっ、にいちゃんとねえちゃんは結婚するのか?」
「いづれはね」
「まじか。アデルにいちゃんと結婚出来るなんて、ねえちゃんは幸せだな~。
にいちゃんはな、すっげー強くて一人で悪いやつをぜーんぶ倒しちゃうんだぞ。あと、すっげー優しいし、とにかくにいちゃんはすっげーんだ」
 
 男の子からそう言われたミアは思わずアデルをチラリと見ると、アデルは少し照れたように頬をかく。
 
「ええ、ええ、アデルさまは素晴らしいお方ですわ。ですが、ミアさまもとっても素晴らしいお方ですのよ」
「子どもと張り合うな、リリス」
「こら、勝手に走っていっちゃダメじゃない。すみません、ご迷惑をおかけして」
 
 そんなやりとりをしていると、男の子の母親らしき人がやってきて、男の子の手を掴んでから頭を下げる。
 
「いいえ、大丈夫ですよ」
「本当にすみませんでした」
 
 アデルが笑顔で応対すると、母親はもう一度頭を下げ、男の子を引っ張っていく。
 
「またな~」
 
 男の子は母親に引っぱられながらも顔だけで振り向き、ミアたちの方に向かって大きく手を振る。ミアは腕を組んで男の子を見ているだけだったが、リリスとアデルは男の子に手を振り返してやっていた。
 
「そろそろ帰ろうか」
「そうだな」
 
 男の子を見送ったあと、アデルに促されるような形でミアたちは歩き出す。
 名残惜しいような気もするが、アデルも色々と忙しいのだろう。そう納得したミアは、先程食べ損ねてしまったうずまきケーキを歩きながら一口かじる。
 
 ふわふわのケーキともっちりとしたパンの良さを両方取り入れたような感触で、甘すぎずとても優しい味わいだ。
 
「魔界の豪快なお料理も素晴らしいですが、人間界の食べ物も美味しいですね~」
「……うむ、そうだな」
 
 リリスに同意を求められたミアは、こくりと頷く。アデルはミアが素直に人間界のものを褒めたことに一瞬驚いたようだったが、すぐに優しい眼差しでミアたちを見つめる。
 
「どうだった? 楽しかった?」
「ああ、……悪くは、なかった」
「良い人間もたくさんいるでしょ?」
「そこまでは言ってないが、しかしあの子ども、一国の王子に対し馴れ馴れし過ぎるのではないか?」
「ああ、あの子は俺が王子だって知らないからね」
「は?」
「町では、冒険者ってことになってるんだ。
盗賊討伐や洞窟探索の依頼を受けたり、モンスターを倒したりね。あの子とも、依頼を受けた時に知り合ったんだよ」
「それで、レベルが100を超えていたのか。しかし、お前の父はよくそんなことを許したものだな」
 
 ミアは納得したようにうなずきながらも、呆れたような目でアデルを見る。
 
「姉上が魔界に行ったから俺が王位を継ぐことになったけど、元々俺は王位継承者じゃなかったからね。自由にやらせてもらってたよ」
「いくら王位継承者じゃなかったとはいえ、冒険者の真似事をするなんて自由過ぎるだろう」
「そうだね、でも楽しかったよ。町の人の声も生で聞けたし、自分の目で直接世界を見て回れた」
 
 楽しそうに語るアデルにため息をつき、ミアは神妙な顔で眉を寄せる。
 
「そうか。しかし、王位を継ぐことにして本当に良かったのか? いづれ王となれば、確実に今よりも不自由な生活になるぞ」
 
 王になれば今よりも自由になるものが増える反面、それ以上に不自由も増える。アデルはうーんと少し考えてから、ミアの方を見てにっこりと笑った。
 
「そうだけど、ミアと一緒ならそれも悪くないかな。ミア、俺と一緒にこの国を治めてくれる?」
「は、はぁっ!? なぜ私が人間の国を治めねばならぬのだ!」
「ミアさまっ、今のってプロポーズでございますよね? 一緒にこの国を治めて、だなんて……っ! キャー、まさにロイヤルプロポーズ!」
 
 アデルの発言の後にリリスとミアが同時に騒ぎ始めたが、左手にハートのうずまきを持っていたアデルが空いていた右手でミアの手を握ったので、ますますミアは動揺する羽目になった。
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