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1、幼馴染婚することになりました
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「申し訳ございません、お父様。もう一度おっしゃって頂けないでしょうか」
夕食後、お父様から呼ばれ、私はお父様のお部屋へと参りました。けれど、椅子に座ったお父様がおっしゃられた内容に耳を疑ってしまいました。いえ、信じたくなかったのです。
「魔界を統べるシタン家から、我がマルダンヌ家の娘に婚姻のお申し出があったんだよ」
困ったような顔をしたお父様の眉は、いつもよりもさらに下がって見えました。
周りくどい言い方をなさりましたが、マルダンヌ家の娘は私だけです。そして、シタン家の方で面識があるのは、あのお方しかいません。
「第六魔王子殿下が直々にユシェルを望まれたそうだ」
ああ、やはり。なんとなく想像がついてはいました。ですが、お相手を伺った瞬間に私はクラリとして、倒れそうになりました。
「ラオニール、さま、が、私を……?」
「突然で驚いただろう。私もそうだよ」
お父様は、私を気遣うようにおっしゃいます。さらに、こう付け足されました。
「ユシェルも、ラオニール殿下も、今年で十八歳。ちょうど良い年頃だよね」
お父様は、私が結婚自体に驚いていると勘違いしていらっしゃるみたいです。
「幼馴染のラオニール殿下なら気の置けない仲だろうし、良かったんじゃないかな」
今すぐ首を横に振って、「ちっともよくありません」と叫びたい気持ちになりました。
だって、ラオはーーいえ、ラオニール殿下はとってもこわい方なのです。
魔王陛下の六番目のご子息であらせられる、ラオニール・シタン殿下。
百九十近くある大柄なお身体はがっしりとされていて、遠くからでも人目を引きます。凛々しく精悍なお顔をしていらっしゃいますが、いつも怒っているように見まがうほどの強面です。
血のように赤い瞳、頭には髪の色と同じ黒いツノが二本、お背中には黒い翼。 寡黙で、冷静沈着。
外見も性格も、まさに魔王子様としての風格がある方です。
対する私は、百五十二と小柄な体型。
タレ目がちな濃いピンクの瞳、わずかにウェーブのかかったピンクブロンドの腰まである髪。いつもオドオドしていることもあり、うさぎに似ているとよく言われます。
小動物系の私が強面魔王子様の隣に並んだら、きっと彼の獲物にしかみえないかと存じます。
しかしながら、見た目の問題よりも、もっと気にするべき事柄が私にはございます。
ラナンス王国の王宮より遥か遠くに位置するマルダンヌ地方は、古くから魔界との交流がありました。
マルダンヌ地方の中で一番お金がない土地ではありながらも、最ものどかで戦乱とは程遠い町がここ――ダルバイです。
魔界と人間界との友好を保つため、第六魔王子のラオニール様は側仕えの方たちと共に、幼い頃からダルバイに派遣されていらっしゃりました。私とも幼馴染みなのですが、私は昔からあの方が苦手なのです。
私が話しかけても、大抵は無視をなさるか、一言二言お言葉を返されるのみ。お茶会などでめずらしくあの方から話しかけてくださったと思ったら、「手際が悪い」などとおっしゃられ、私の仕事を奪っていかれます。
きっと私は、殿下に嫌われているのです。
気の置けないどころか、あの方と結婚なんてしたら、気が休まる暇もないでしょう。そっけない態度をとられ、毎日お叱りを受けるに違いありません。
ラオニール様はどのようなおつもりで、私を妻としてお望みになったのでしょうか。他に手頃のお相手がいないから、仕方なく? マルダンヌ家にお金がないことは、幼馴染ならよくご存知でしょうし……。
考えていたら、震えが止まらなくなりました。
そんな私を見て、お父様はおっしゃいます。
「ユシェルが嫌なら、無理に結婚しなくてもいいんだ」
娘の私に対し、お父様は困り笑顔を向けます。
お父様なら娘の私にもっと強く出ても良いはずなのに、どこまでも優しいお方なのです。
「私からお断りしておこう。ゴホ、ゴホ……ッ」
お言葉の途中で、お父様が咳き込まれました。
「お父様、ご無理なさらないでください」
急いでお父様のお側にかけ寄り、お背中をさすります。
「ありがとう、ユシェル。本当に優しい娘に育ってくれた」
お父様はお苦しそうにしながらも、微笑まれます。
私は、胸が苦しくなりました。
地方名の『マルダンヌ』と名がついているにも関わらず、数々の不運が重なり、我がマルダンヌ家の治める土地はお父様の代でダルバイ町だけになってしまいました。
私たちのお母様が早くに亡くなられてからは、お父様は心労がたたり、ご病気がちです。そんなお父様にシタン家からのお申し出の辞退を願い出るのは、どれだけのご負担をかけることでしょうか。
幼馴染とはいえ、ラオニール殿下は魔界を統べられるシタン家の王子様。かたや私は、田舎の小さな町を治める貧乏男爵の娘。
本来であれば、あちらからのお申し出をお断りできる立場ではないのです。
お父様、私、決心いたしました。
「 不肖ながら私、ラオニール殿下との婚姻を謹んでお受けいたしますわ」
お父様をまっすぐに見つめ、私は申しました。
私は令嬢としての社交能力にも欠けていれば、勉学の才も、マルダンヌ家を助けられる政治の才もありません。出来の悪い娘の私がお父様とマルダンヌ家のために出来ることといえば、きっと少しでも家柄の良いところに嫁ぐのみ。
「受けてくれるか、ユシェル」
お父様は明らかにホッとしたように胸を撫で下ろされました。
ラオニール殿下との結婚生活を思うと気が重くなります。ですが、お父様のご安心なされたお姿を拝見して、これで良かったのだと私は思いました。
夕食後、お父様から呼ばれ、私はお父様のお部屋へと参りました。けれど、椅子に座ったお父様がおっしゃられた内容に耳を疑ってしまいました。いえ、信じたくなかったのです。
「魔界を統べるシタン家から、我がマルダンヌ家の娘に婚姻のお申し出があったんだよ」
困ったような顔をしたお父様の眉は、いつもよりもさらに下がって見えました。
周りくどい言い方をなさりましたが、マルダンヌ家の娘は私だけです。そして、シタン家の方で面識があるのは、あのお方しかいません。
「第六魔王子殿下が直々にユシェルを望まれたそうだ」
ああ、やはり。なんとなく想像がついてはいました。ですが、お相手を伺った瞬間に私はクラリとして、倒れそうになりました。
「ラオニール、さま、が、私を……?」
「突然で驚いただろう。私もそうだよ」
お父様は、私を気遣うようにおっしゃいます。さらに、こう付け足されました。
「ユシェルも、ラオニール殿下も、今年で十八歳。ちょうど良い年頃だよね」
お父様は、私が結婚自体に驚いていると勘違いしていらっしゃるみたいです。
「幼馴染のラオニール殿下なら気の置けない仲だろうし、良かったんじゃないかな」
今すぐ首を横に振って、「ちっともよくありません」と叫びたい気持ちになりました。
だって、ラオはーーいえ、ラオニール殿下はとってもこわい方なのです。
魔王陛下の六番目のご子息であらせられる、ラオニール・シタン殿下。
百九十近くある大柄なお身体はがっしりとされていて、遠くからでも人目を引きます。凛々しく精悍なお顔をしていらっしゃいますが、いつも怒っているように見まがうほどの強面です。
血のように赤い瞳、頭には髪の色と同じ黒いツノが二本、お背中には黒い翼。 寡黙で、冷静沈着。
外見も性格も、まさに魔王子様としての風格がある方です。
対する私は、百五十二と小柄な体型。
タレ目がちな濃いピンクの瞳、わずかにウェーブのかかったピンクブロンドの腰まである髪。いつもオドオドしていることもあり、うさぎに似ているとよく言われます。
小動物系の私が強面魔王子様の隣に並んだら、きっと彼の獲物にしかみえないかと存じます。
しかしながら、見た目の問題よりも、もっと気にするべき事柄が私にはございます。
ラナンス王国の王宮より遥か遠くに位置するマルダンヌ地方は、古くから魔界との交流がありました。
マルダンヌ地方の中で一番お金がない土地ではありながらも、最ものどかで戦乱とは程遠い町がここ――ダルバイです。
魔界と人間界との友好を保つため、第六魔王子のラオニール様は側仕えの方たちと共に、幼い頃からダルバイに派遣されていらっしゃりました。私とも幼馴染みなのですが、私は昔からあの方が苦手なのです。
私が話しかけても、大抵は無視をなさるか、一言二言お言葉を返されるのみ。お茶会などでめずらしくあの方から話しかけてくださったと思ったら、「手際が悪い」などとおっしゃられ、私の仕事を奪っていかれます。
きっと私は、殿下に嫌われているのです。
気の置けないどころか、あの方と結婚なんてしたら、気が休まる暇もないでしょう。そっけない態度をとられ、毎日お叱りを受けるに違いありません。
ラオニール様はどのようなおつもりで、私を妻としてお望みになったのでしょうか。他に手頃のお相手がいないから、仕方なく? マルダンヌ家にお金がないことは、幼馴染ならよくご存知でしょうし……。
考えていたら、震えが止まらなくなりました。
そんな私を見て、お父様はおっしゃいます。
「ユシェルが嫌なら、無理に結婚しなくてもいいんだ」
娘の私に対し、お父様は困り笑顔を向けます。
お父様なら娘の私にもっと強く出ても良いはずなのに、どこまでも優しいお方なのです。
「私からお断りしておこう。ゴホ、ゴホ……ッ」
お言葉の途中で、お父様が咳き込まれました。
「お父様、ご無理なさらないでください」
急いでお父様のお側にかけ寄り、お背中をさすります。
「ありがとう、ユシェル。本当に優しい娘に育ってくれた」
お父様はお苦しそうにしながらも、微笑まれます。
私は、胸が苦しくなりました。
地方名の『マルダンヌ』と名がついているにも関わらず、数々の不運が重なり、我がマルダンヌ家の治める土地はお父様の代でダルバイ町だけになってしまいました。
私たちのお母様が早くに亡くなられてからは、お父様は心労がたたり、ご病気がちです。そんなお父様にシタン家からのお申し出の辞退を願い出るのは、どれだけのご負担をかけることでしょうか。
幼馴染とはいえ、ラオニール殿下は魔界を統べられるシタン家の王子様。かたや私は、田舎の小さな町を治める貧乏男爵の娘。
本来であれば、あちらからのお申し出をお断りできる立場ではないのです。
お父様、私、決心いたしました。
「 不肖ながら私、ラオニール殿下との婚姻を謹んでお受けいたしますわ」
お父様をまっすぐに見つめ、私は申しました。
私は令嬢としての社交能力にも欠けていれば、勉学の才も、マルダンヌ家を助けられる政治の才もありません。出来の悪い娘の私がお父様とマルダンヌ家のために出来ることといえば、きっと少しでも家柄の良いところに嫁ぐのみ。
「受けてくれるか、ユシェル」
お父様は明らかにホッとしたように胸を撫で下ろされました。
ラオニール殿下との結婚生活を思うと気が重くなります。ですが、お父様のご安心なされたお姿を拝見して、これで良かったのだと私は思いました。
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