強面魔王子様は幼馴染婚した小動物系令嬢を溺愛しています

春音優月

文字の大きさ
1 / 6

1、幼馴染婚することになりました

しおりを挟む
「申し訳ございません、お父様。もう一度おっしゃって頂けないでしょうか」

 夕食後、お父様から呼ばれ、わたくしはお父様のお部屋へと参りました。けれど、椅子に座ったお父様がおっしゃられた内容に耳を疑ってしまいました。いえ、信じたくなかったのです。

「魔界をべるシタン家から、我がマルダンヌ家の娘に婚姻こんいんのお申し出があったんだよ」

 困ったような顔をしたお父様の眉は、いつもよりもさらに下がって見えました。

 周りくどい言い方をなさりましたが、マルダンヌ家の娘は私だけです。そして、シタン家の方で面識があるのは、あのお方しかいません。

「第六魔王子殿下が直々にユシェルを望まれたそうだ」

 ああ、やはり。なんとなく想像がついてはいました。ですが、お相手を伺った瞬間に私はクラリとして、倒れそうになりました。

「ラオニール、さま、が、私を……?」
「突然で驚いただろう。私もそうだよ」

 お父様は、私を気遣うようにおっしゃいます。さらに、こう付け足されました。

「ユシェルも、ラオニール殿下も、今年で十八歳。ちょうど良い年頃だよね」

 お父様は、私が結婚自体に驚いていると勘違いしていらっしゃるみたいです。

「幼馴染のラオニール殿下なら気の置けない仲だろうし、良かったんじゃないかな」

 今すぐ首を横に振って、「ちっともよくありません」と叫びたい気持ちになりました。

 だって、ラオはーーいえ、ラオニール殿下はとってもこわい方なのです。

 魔王陛下の六番目のご子息であらせられる、ラオニール・シタン殿下。

 百九十近くある大柄なお身体はがっしりとされていて、遠くからでも人目を引きます。凛々しく精悍なお顔をしていらっしゃいますが、いつも怒っているように見まがうほどの強面こわもてです。

 血のように赤い瞳、頭には髪の色と同じ黒いツノが二本、お背中には黒い翼。 寡黙かもくで、冷静沈着。
 外見も性格も、まさに魔王子様としての風格がある方です。

 対する私は、百五十二と小柄な体型。
 タレ目がちな濃いピンクの瞳、わずかにウェーブのかかったピンクブロンドの腰まである髪。いつもオドオドしていることもあり、うさぎに似ているとよく言われます。

 小動物系の私が強面魔王子様の隣に並んだら、きっと彼の獲物にしかみえないかと存じます。

 しかしながら、見た目の問題よりも、もっと気にするべき事柄が私にはございます。

 ラナンス王国の王宮より遥か遠くに位置するマルダンヌ地方は、古くから魔界との交流がありました。
 マルダンヌ地方の中で一番お金がない土地ではありながらも、最ものどかで戦乱とは程遠い町がここ――ダルバイです。

 魔界と人間界との友好を保つため、第六魔王子のラオニール様は側仕えの方たちと共に、幼い頃からダルバイに派遣されていらっしゃりました。私とも幼馴染みなのですが、私は昔からあの方が苦手なのです。

 私が話しかけても、大抵は無視をなさるか、一言二言お言葉を返されるのみ。お茶会などでめずらしくあの方から話しかけてくださったと思ったら、「手際が悪い」などとおっしゃられ、私の仕事を奪っていかれます。

 きっと私は、殿下に嫌われているのです。

 気の置けないどころか、あの方と結婚なんてしたら、気が休まる暇もないでしょう。そっけない態度をとられ、毎日お叱りを受けるに違いありません。

 ラオニール様はどのようなおつもりで、私を妻としてお望みになったのでしょうか。他に手頃のお相手がいないから、仕方なく? マルダンヌ家にお金がないことは、幼馴染ならよくご存知でしょうし……。

 考えていたら、震えが止まらなくなりました。
 そんな私を見て、お父様はおっしゃいます。

「ユシェルが嫌なら、無理に結婚しなくてもいいんだ」

 娘の私に対し、お父様は困り笑顔を向けます。
 お父様なら娘の私にもっと強く出ても良いはずなのに、どこまでも優しいお方なのです。

「私からお断りしておこう。ゴホ、ゴホ……ッ」

 お言葉の途中で、お父様が咳き込まれました。

「お父様、ご無理なさらないでください」

 急いでお父様のお側にかけ寄り、お背中をさすります。

「ありがとう、ユシェル。本当に優しい娘に育ってくれた」

 お父様はお苦しそうにしながらも、微笑まれます。
 私は、胸が苦しくなりました。
 
 地方名の『マルダンヌ』と名がついているにも関わらず、数々の不運が重なり、我がマルダンヌ家の治める土地はお父様の代でダルバイ町だけになってしまいました。

 私たちのお母様が早くに亡くなられてからは、お父様は心労がたたり、ご病気がちです。そんなお父様にシタン家からのお申し出の辞退を願い出るのは、どれだけのご負担をかけることでしょうか。

 幼馴染とはいえ、ラオニール殿下は魔界を統べられるシタン家の王子様。かたや私は、田舎の小さな町を治める貧乏男爵の娘。

 本来であれば、あちらからのお申し出をお断りできる立場ではないのです。

 お父様、私、決心いたしました。

「 不肖ふしょうながら私、ラオニール殿下との婚姻を謹んでお受けいたしますわ」

 お父様をまっすぐに見つめ、私は申しました。

 私は令嬢としての社交能力にも欠けていれば、勉学の才も、マルダンヌ家を助けられる政治の才もありません。出来の悪い娘の私がお父様とマルダンヌ家のために出来ることといえば、きっと少しでも家柄の良いところに嫁ぐのみ。

「受けてくれるか、ユシェル」
 
 お父様は明らかにホッとしたように胸を撫で下ろされました。

 ラオニール殿下との結婚生活を思うと気が重くなります。ですが、お父様のご安心なされたお姿を拝見して、これで良かったのだと私は思いました。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

天然だと思ったギルド仲間が、実は策士で独占欲強めでした

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話+後日談7話⭐︎ ギルドで働くおっとり回復役リィナは、 自分と似た雰囲気の“天然仲間”カイと出会い、ほっとする。 ……が、彼は実は 天然を演じる策士だった!? 「転ばないで」 「可愛いって言うのは僕の役目」 「固定回復役だから。僕の」 優しいのに過保護。 仲間のはずなのに距離が近い。 しかも噂はいつの間にか——「軍師(彼)が恋してる説」に。 鈍感で頑張り屋なリィナと、 策を捨てるほど恋に負けていくカイの、 コメディ強めの甘々ギルド恋愛、開幕! 「遅いままでいい――置いていかないから。」

魔力ゼロと捨てられた私を、王子がなぜか離してくれません ――無自覚聖女の王宮生活――

ムラサメ
恋愛
伯爵家で使用人同然に扱われてきた少女、エリナ。 魔力も才能もないとされ、義妹アリシアの影で静かに生きていた。 ある日、王国第一王子カイルの視察で運命が動き出す。 誰も気づかなかった“違和感”に、彼だけが目を留めて――。

図書館でうたた寝してたらいつの間にか王子と結婚することになりました

鳥花風星
恋愛
限られた人間しか入ることのできない王立図書館中枢部で司書として働く公爵令嬢ベル・シュパルツがお気に入りの場所で昼寝をしていると、目の前に見知らぬ男性がいた。 素性のわからないその男性は、たびたびベルの元を訪れてベルとたわいもない話をしていく。本を貸したりお茶を飲んだり、ありきたりな日々を何度か共に過ごしていたとある日、その男性から期間限定の婚約者になってほしいと懇願される。 とりあえず婚約を受けてはみたものの、その相手は実はこの国の第二王子、アーロンだった。 「俺は欲しいと思ったら何としてでも絶対に手に入れる人間なんだ」

身代わり令嬢、恋した公爵に真実を伝えて去ろうとしたら、絡めとられる(ごめんなさぁぁぁぁい!あなたの本当の婚約者は、私の姉です)

柳葉うら
恋愛
(ごめんなさぁぁぁぁい!) 辺境伯令嬢のウィルマは心の中で土下座した。 結婚が嫌で家出した姉の身代わりをして、誰もが羨むような素敵な公爵様の婚約者として会ったのだが、公爵あまりにも良い人すぎて、申し訳なくて仕方がないのだ。 正直者で面食いな身代わり令嬢と、そんな令嬢のことが実は昔から好きだった策士なヒーローがドタバタとするお話です。 さくっと読んでいただけるかと思います。

「転生したら推しの悪役宰相と婚約してました!?」〜推しが今日も溺愛してきます〜 (旧題:転生したら報われない悪役夫を溺愛することになった件)

透子(とおるこ)
恋愛
読んでいた小説の中で一番好きだった“悪役宰相グラヴィス”。 有能で冷たく見えるけど、本当は一途で優しい――そんな彼が、報われずに処刑された。 「今度こそ、彼を幸せにしてあげたい」 そう願った瞬間、気づけば私は物語の姫ジェニエットに転生していて―― しかも、彼との“政略結婚”が目前!? 婚約から始まる、再構築系・年の差溺愛ラブ。 “報われない推し”が、今度こそ幸せになるお話。

《完結》「パパはいますか?」ある日、夫に似た子供が訪ねて来た。

ヴァンドール
恋愛
嫁いですぐに夫は戦地に赴いた。すると突然一人の男の子が訪ねて来た「パパはいますか?」 その子供の顔は戦地に行った夫にそっくりだった。

白い結婚のはずが、旦那様の溺愛が止まりません!――冷徹領主と政略令嬢の甘すぎる夫婦生活

しおしお
恋愛
政略結婚の末、侯爵家から「価値がない」と切り捨てられた令嬢リオラ。 新しい夫となったのは、噂で“冷徹”と囁かれる辺境領主ラディス。 二人は互いの自由のため――**干渉しない“白い結婚”**を結ぶことに。 ところが。 ◆市場に行けばついてくる ◆荷物は全部持ちたがる ◆雨の日は仕事を早退して帰ってくる ◆ちょっと笑うだけで顔が真っ赤になる ……どう見ても、干渉しまくり。 「旦那様、これは白い結婚のはずでは……?」 「……君のことを、放っておけない」 距離はゆっくり縮まり、 優しすぎる態度にリオラの心も揺れ始める。 そんな時、彼女を利用しようと実家が再び手を伸ばす。 “冷徹”と呼ばれた旦那様の怒りが静かに燃え―― 「二度と妻を侮辱するな」 守られ、支え合い、やがて惹かれ合う二人の想いは、 いつしか“形だけの夫婦”を超えていく。

【完結】番としか子供が産まれない世界で

さくらもち
恋愛
番との間にしか子供が産まれない世界に産まれたニーナ。 何故か親から要らない子扱いされる不遇な子供時代に番と言う概念すら知らないまま育った。 そんなニーナが番に出会うまで 4話完結 出会えたところで話は終わってます。

処理中です...