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2、白い結婚なのでしょうか?

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 正式に婚姻が決まってから、数ヶ月後。
 ダルバイ町の教会で結婚式を済ませ、私はラオニール様の元へと参りました。

 ラオニール様のお住まいは、町の中心部から離れた湖のほとりにあり、ダルバイで一番大きなお城です。部屋数も多く、幼馴染の私でも迷ってしまいそうなくらい。

 第六魔王子様の妻となった私のためにとあてがって頂いたお部屋は、驚くほどの広さでした。マルダンヌ家の私の部屋でしたら、三つは軽く入りそうです。
 
 広さだけではなく、備え付けられている家具もとびきり上等そうなものばかり。

 きらびやかなシャンデリアがぶら下げられられたクリーム色の天井には、上品な金色の模様が入っていて、それが壁にまで続いています。
 
 可愛い小花の刺繍が施された天蓋ベッドは、私が持参したネグリジェと同じ薄ピンク色。白とピンク色を基調としたドレッサーや机などの家具は愛らしいながらも、光り輝いていました。

 どこを見渡しても、私の身には余るものばかり。
 ああ、実家に帰りたい。使い込まれた木の机と質素なベッドが懐かしいです。

 派手すぎない可憐な装飾は素敵ですが、それでも私は落ち着きませんでした。こんなに贅沢なお部屋で私のような者が暮らすなんて、バチが当たるんじゃないかしら。

 ふかふかの天蓋ベッドの上に横たわった私は、これで何度目になるか分からないため息をつきました。

 結婚式を終えた今夜は、初夜です。きっと、もうすぐラオニール様がこのお部屋にいらっしゃるはずですわ。

 知識だけではあるものの、初夜を迎えた男女の営みは私も存じております。まさか私とラオニール様がそうなるとはこれまで想像さえもしませんでしたが、もう私はシタン家のラオニール様に嫁いだ身。

 お父様のため、マルダンヌ家のため、この身を捧げる覚悟はございます。

 ソワソワしながらも、私はラオニール殿下のお越しを待ちました。

 ほどなくして、廊下からコツコツと足音が響きました。

 ラオニール様でしょうか。
 私の心臓がドキンと飛び跳ね、自然と身体がこわばります。

 何度かドアをノックされた時、つい目をぎゅっとつむってしまいました。お返事もろくにできず、とても不作法だったかもしれません。

 目を閉じてはいても、ラオニール様が私のいるベッドに近づかれるのが気配で分かりました。

 覚悟はしていましたが、やはり怖いですわ。
 まるで今から食べられるのを待つ獲物の気分です。
 
「ふ、ふつつかものですが、よろしくお願いいたしますっ」

 相変わらずベッドに横たわったままの私は両手を胸の前で握り、両眼をますます固くつむって、運命の時を待ちます。

 しかし、しばらく待ってみても、何の反応もありません。

 おそるおそる私は目を開けました。
 すると、私を見下ろしているラオニール様と目が合いました。

「ひっ」

 いつも通り怖いお顔をされていて、私は小さく悲鳴を上げてしまいました。

 そうしたら、ラオニール様はため息をつかれました。
 こころなしか、お背中の翼も下がっている気がします。

 旦那様に対して悲鳴をあげるなんて、呆れられたことでしょう。申し訳ございません、と私が謝罪しようとしていた時でした。

「おやすみ」

 ラオニール様は低い声でぽつりとつぶやかれ、私の部屋を後にしました。……あら?
 
「おやすみなさい、ませ」

 私がようやく声を発せたのは、殿下の足音さえもすっかり聞こえなくなった時でした。

 私たちは夫婦となったはずなのに、床を共にするどころか、少しも触れられていません。

 もしかして、これは『白い結婚』というものなのでしょうか。

 実家が裕福なわけでもなく、特別な才があるわけでもない私を殿下がなぜ望まれたのかは分かりません。ラオニール様にとっては、この結婚は何の利益もないはずです。

 しかし、これではっきりしました。
 やはり、ラオニール様は私をお嫌いなのです。

 何もなくて少しホッとしましたが、同時に複雑な気持ちにもなりました。どうして愛してもいない私を妻としたのでしょうか。

 貧しいながらも、マルダンヌ家のお父様も、兄上も、亡くなったお母様も、私を愛してくれていました。けれど、ここには私を愛してくれる方は一人もいらっしゃいません。

 場違いなお部屋の中で心細い思いをしながら、私はシタン家で初めての夜を過ごしたのです。
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