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5、愛のある結婚なのでしょうか?
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自室に戻った私は、窓を開けて夜風を浴びていました。
時間が経てば経つほど情けなさが増し、涙が止まりません。
ポロポロと涙を流していたら、ドアをノックする音が聞こえました。
私はハンカチで涙を拭い、鼻をすすります。
「……はい」
私の返事から一呼吸置いて、ドアが開きました。
部屋に入ってきたのは、予想通りエマでした。
エマは、ティーセットの乗ったトレイを持っています。
私の顔は、きっと涙の痕でグチャグチャになっているかと存じます。
エマは私が泣いていたことにきっと気付いたでしょう。ですが、それについては一切触れず、ただいつものようにうやうやしく頭を下げました。
「ハーブティーにございます」
エマは私の元に近づき、ティーカップを差し出しました。
「ありがとうございます」
私はもう一度鼻をすすり、小花の描かれたティーカップをエマから受け取ります。息をはいてから、温かいティーカップに口をつけました。
良い匂いと優しい味が口に広がり、心がほんの少し和らぎます。
「殿下がお出しするようにと」
「ラオニール殿下はお怒りになっているでしょうね」
私はティーカップの中身から窓の外へ視線を移し、もう一度エマに視線を戻します。
エマは首を振り、「いいえ」と言いました。
「気を遣って頂かなくてもいいんです。殿下のお顔に泥を塗ってしまいましたもの」
「たぶん、ものすごく、勘違いしていらっしゃいます!」
……え? 今のは、エマの声?
私は驚いて、エマのお顔をじっと見てしまいました。
いつも無表情のエマとは思えません。信じられないものでも見るような目つきで、私を見ています。
目の前にいるのは、本当にエマなのでしょうか。
「いえ、ですから、殿下はご自身の体面を保たれるため、素敵なドレスもご用意くださったのに。私が全て台無しにしてしまい……」
動揺してしまい、私はしどろもどろに説明します。
私の拙い説明を聞き終えたエマは額をおさえ、大げさにため息をつきました。
「違います!」
「え?」
「魔王子様の妻として、ユシェル様がお恥ずかしい思いをなさらないように、ドレスをご用意なさったのです」
エマは呆れたような視線を私に向けました。
えっと、それは、つまり?
イマイチ意味を理解しきれず、私は首を傾げます。
「ラオニール様は、第六魔王子としてお立場のあるお方。あの方自身は体面など気にされなくとも、周りはそうではありません」
幼い子に言い聞かせるようにして、エマは言いました。
「ユシェル様がお辛い思いをされないように、ラオニール様は数々のお心配りをなさっていたんです」
「私のために……?」
呟いて、私はティーカップを机の上のトレイに置きます。ほぼ同時に、エマが「そうです」と頷きました。
「私、ラオニール様がお生まれになる前から存じております。出過ぎた発言は控えておりましたが、もうじれったくて……」
う、生まれる前から? 同じ年頃かと思っていましたのに、エマは何歳なのでしょうか。
気になりましたが、とても聞ける雰囲気ではありません。エマはわなわなと手を震わせ、興奮している様子です。私はラオニール様だけでなく、エマまでも苛立たせてしまっていたのでしょうか。
「ラオニール様はユシェル様は溺愛なさっているのに、全くお気持ちが伝わっていません」
「まさか、あの方が私を溺愛だなんて……」
ラオニール様が私にお気遣いくださったのは確かですが、溺愛されているとはどうしても思えません。
「嘘だと思われるのなら、ラオニール殿下の翼を良くご覧になってください」
「翼を?」
「ユシェル様とお話しされている時のラオニール様の翼、よく動いていらっしゃいますから。魔王族の方たちの翼は、大切な方の前でしか動かないのですよ」
内緒話をするようにして、エマは言いました。
そういえば、ラオニール様の翼が動いていらっしゃるのは時々お見かけしました。まさか、大切な人の前でしか動かなかったなんて……。
お顔の怖さに気を取られて、私はラオニール様の他の部分まできちんと見ることができていませんでした。ラオニール様は、私のこともよく見てくださっていたというのに。
彼が私を愛してくださっているかは分かりませんが、あの方を理解しようとする努力が足りなかったのかもしれません。エマの話を伺って、そう思いました。
「ありがとうございます、エマ。ラオニール様と一度お話ししてみます」
「不躾な物言いをしてしまい、申し訳ございません」
エマは深々と頭を下げました。
とんでもないことでございます。私は、頭を上げるように彼女に伝えました。
「これからも今みたいに気さくにお話しして頂けたら嬉しいです。私、お友達があまりいないので」
にっこりと微笑み、私はお部屋を後にしました。
時間が経てば経つほど情けなさが増し、涙が止まりません。
ポロポロと涙を流していたら、ドアをノックする音が聞こえました。
私はハンカチで涙を拭い、鼻をすすります。
「……はい」
私の返事から一呼吸置いて、ドアが開きました。
部屋に入ってきたのは、予想通りエマでした。
エマは、ティーセットの乗ったトレイを持っています。
私の顔は、きっと涙の痕でグチャグチャになっているかと存じます。
エマは私が泣いていたことにきっと気付いたでしょう。ですが、それについては一切触れず、ただいつものようにうやうやしく頭を下げました。
「ハーブティーにございます」
エマは私の元に近づき、ティーカップを差し出しました。
「ありがとうございます」
私はもう一度鼻をすすり、小花の描かれたティーカップをエマから受け取ります。息をはいてから、温かいティーカップに口をつけました。
良い匂いと優しい味が口に広がり、心がほんの少し和らぎます。
「殿下がお出しするようにと」
「ラオニール殿下はお怒りになっているでしょうね」
私はティーカップの中身から窓の外へ視線を移し、もう一度エマに視線を戻します。
エマは首を振り、「いいえ」と言いました。
「気を遣って頂かなくてもいいんです。殿下のお顔に泥を塗ってしまいましたもの」
「たぶん、ものすごく、勘違いしていらっしゃいます!」
……え? 今のは、エマの声?
私は驚いて、エマのお顔をじっと見てしまいました。
いつも無表情のエマとは思えません。信じられないものでも見るような目つきで、私を見ています。
目の前にいるのは、本当にエマなのでしょうか。
「いえ、ですから、殿下はご自身の体面を保たれるため、素敵なドレスもご用意くださったのに。私が全て台無しにしてしまい……」
動揺してしまい、私はしどろもどろに説明します。
私の拙い説明を聞き終えたエマは額をおさえ、大げさにため息をつきました。
「違います!」
「え?」
「魔王子様の妻として、ユシェル様がお恥ずかしい思いをなさらないように、ドレスをご用意なさったのです」
エマは呆れたような視線を私に向けました。
えっと、それは、つまり?
イマイチ意味を理解しきれず、私は首を傾げます。
「ラオニール様は、第六魔王子としてお立場のあるお方。あの方自身は体面など気にされなくとも、周りはそうではありません」
幼い子に言い聞かせるようにして、エマは言いました。
「ユシェル様がお辛い思いをされないように、ラオニール様は数々のお心配りをなさっていたんです」
「私のために……?」
呟いて、私はティーカップを机の上のトレイに置きます。ほぼ同時に、エマが「そうです」と頷きました。
「私、ラオニール様がお生まれになる前から存じております。出過ぎた発言は控えておりましたが、もうじれったくて……」
う、生まれる前から? 同じ年頃かと思っていましたのに、エマは何歳なのでしょうか。
気になりましたが、とても聞ける雰囲気ではありません。エマはわなわなと手を震わせ、興奮している様子です。私はラオニール様だけでなく、エマまでも苛立たせてしまっていたのでしょうか。
「ラオニール様はユシェル様は溺愛なさっているのに、全くお気持ちが伝わっていません」
「まさか、あの方が私を溺愛だなんて……」
ラオニール様が私にお気遣いくださったのは確かですが、溺愛されているとはどうしても思えません。
「嘘だと思われるのなら、ラオニール殿下の翼を良くご覧になってください」
「翼を?」
「ユシェル様とお話しされている時のラオニール様の翼、よく動いていらっしゃいますから。魔王族の方たちの翼は、大切な方の前でしか動かないのですよ」
内緒話をするようにして、エマは言いました。
そういえば、ラオニール様の翼が動いていらっしゃるのは時々お見かけしました。まさか、大切な人の前でしか動かなかったなんて……。
お顔の怖さに気を取られて、私はラオニール様の他の部分まできちんと見ることができていませんでした。ラオニール様は、私のこともよく見てくださっていたというのに。
彼が私を愛してくださっているかは分かりませんが、あの方を理解しようとする努力が足りなかったのかもしれません。エマの話を伺って、そう思いました。
「ありがとうございます、エマ。ラオニール様と一度お話ししてみます」
「不躾な物言いをしてしまい、申し訳ございません」
エマは深々と頭を下げました。
とんでもないことでございます。私は、頭を上げるように彼女に伝えました。
「これからも今みたいに気さくにお話しして頂けたら嬉しいです。私、お友達があまりいないので」
にっこりと微笑み、私はお部屋を後にしました。
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