4 / 19
1、シンデレラ代わってくださいと言われましても
EP4 身代わりシンデレラ
しおりを挟む
「しかし、この格好では舞踏会に行けるわけがないだろう」
ドレスはどうにかしたとしても、騎士として生きる私には、他の貴族の娘たちのように長くて美しい髪がない。どうみても女らしさの足りない見た目では、舞踏会でも門前払いだろう。
当たり前のことを告げると、シンデレラは「それならご安心ください」と不敵に笑った。
「私には日本に戻るほどの魔力はありませんが、王子様と結ばれるためならば簡単な魔法を使うことができるのです」
「は?」
なんだそれはと聞き返す暇もないくらいに、それは瞬く間の出来事だった。
壁に立てかけてあったほうきを手に取ったシンデレラがそれを一振りすると、一瞬で自分の身に変化が起きたのだ。
新調する金もないため、時代遅れな上にごく簡素でありきたりのデザインの男装用の軽装は、あっという間に着心地も良く美しいドレスへと変わる。
「なんてお美しい……」
うっとりと私を見つめるシンデレラに促され、全身の映る姿見で自分を見つめると、そこには私とは思えない美しい娘が立っていた。
自分で言うのもおかしいが、まるでどこかの国のお姫様のようだ。
一目で高価だと分かるほどに美しい繊細なレースの刺繍が施された淡いグリーンのドレスは、腰からふわっと広がったスカート部分に何重にもフリルが重ねられていた。
それから、手入れをする暇も金もなくパサパサに傷んでいるはずの短い髪は、下の方だけゆるくウェーブがかかった長く美しい髪に変わり、つやつやと黄金色に輝いている。
足下を見ると、うっとりするくらいに美しい透明のグリーンのガラスの靴が光っていた。
一体何が起きたのか分からないが、信じられないほどに美しく変わった自分の姿をまじまじと見つめてしまう。
十の頃から騎士として生きることが定められた私には、妹たちのように女らしい格好をすることも髪を長く伸ばすことも許されなかった。
それに逆らうことが許されることではないことと分かっていたため、そうしたいと一度でも口にすることはなかったが、本当は私は……。
家に余裕がないことは分かっていたから、ふんだんにフリルやレースが施された高価なドレスを着たいとは言わないが、ひとつだけでも良いからリボンが付けたかった。妹や他の娘たちのように長く髪を伸ばし、髪を結いたかった。
一瞬で姿を変える魔法が使えるとは、シンデレラは一体何者なのだ? ニホンジンは、魔力の高い方たちなのだろうか?
シンデレラの正体も気になったが、小さな頃から無理矢理抑えつけていたはずの夢が唐突に叶い、鏡の中の自分から目を通すことができない。
「透き通るような白い肌、キラキラと輝く黄金色の髪、宝石そのもののエメラルドグリーンの瞳。普段からお美しいですが、ドレスを着られたお姉さまはますますお美しくて、まばゆいくらいです」
うっとりと私の長い髪を撫でるシンデレラの顔をちらりと見やると、やはり相変わらず、すすで汚れている。しかし、……。
「お前も身綺麗にしたら肌は白いし、私と同じように緑色の目に金髪だろう」
顔立ちは違うものの、緑色の目に金髪といった特徴は、きょうだいの中では私とシンデレラのみだ。
「ええ。ですから、同じ瞳と髪を持つ私とアンディお兄様が入れ替わるのは必然なのです」
「なんと破天荒な。私たちの顔立ちは似ても似つかぬというのに、それは無茶があるというものだ」
したり顔をするシンデレラに、思わず頭を抱えたくなった。
この目の前にいる娘は、本当に私のよく知るシンデレラなのか? 姉たちに言い返すこともできないほどに内気な灰かぶり娘なのだろうか?
普段のシンデレラとはまるで違う様子に、このシンデレラは偽者で、すでに魔女に入れ替わっているのではないかとさえ思えてきた。
「しかしこの格好では馬にも乗れないし、まさかお前が馬に乗れるわけはないだろう? 一体どうやってお城まで行くというのだ」
この格好から門前払いされることもないだろうが、また別の問題が出てきた。
このドレスでは到底馬に乗れるわけもないし、この繊細なガラスの靴ではまさか歩いていくわけにもいかない。
今度こそ無理だろうと思ったのに、お任せくださいとシンデレラは再び不敵に笑う。
床を這いずり回っていた薄汚いネズミを手づかみで捕まえたシンデレラがそれを撫でると、ネズミは一瞬で衣服を身につけた従者へと変わった。
「馬車は外に用意してあります、シンデレラ様」
「なんということだ……」
人の言葉を話し上品に頭を下げる元ネズミを目の当たりにし、驚きの余りそれ以上の言葉を紡ぎ出すことができなかった。
「シンデレラ、お前は一体……」
丁重に私を外へとエスコートしようとする従者から視線を外し、シンデレラに視線をやると仕上げとばかりにまたほうきを一振り。
すると、長い髪は美しく結い上げられ、頭にはエメラルドがついている髪飾りがのせられた。
「舞踏会では、普段のご自分はお忘れになり、シンデレラとお名乗りください。しかし、真夜中になると魔法の効果が切れてしまいますので、どうか12時の鐘が鳴り終わるまでにはお戻りくださいますよう」
シンデレラはしっかりと念をおすと、従者にエスコートされる私に深々と頭を下げる。
信じられないことばかりでどう反応をしていいのかも分からず、私をエスコートする従者を止めることも、シンデレラに何か言葉を返すこともできないまま、私はただシンデレラに頷き返すことしかできなかった。
ドレスはどうにかしたとしても、騎士として生きる私には、他の貴族の娘たちのように長くて美しい髪がない。どうみても女らしさの足りない見た目では、舞踏会でも門前払いだろう。
当たり前のことを告げると、シンデレラは「それならご安心ください」と不敵に笑った。
「私には日本に戻るほどの魔力はありませんが、王子様と結ばれるためならば簡単な魔法を使うことができるのです」
「は?」
なんだそれはと聞き返す暇もないくらいに、それは瞬く間の出来事だった。
壁に立てかけてあったほうきを手に取ったシンデレラがそれを一振りすると、一瞬で自分の身に変化が起きたのだ。
新調する金もないため、時代遅れな上にごく簡素でありきたりのデザインの男装用の軽装は、あっという間に着心地も良く美しいドレスへと変わる。
「なんてお美しい……」
うっとりと私を見つめるシンデレラに促され、全身の映る姿見で自分を見つめると、そこには私とは思えない美しい娘が立っていた。
自分で言うのもおかしいが、まるでどこかの国のお姫様のようだ。
一目で高価だと分かるほどに美しい繊細なレースの刺繍が施された淡いグリーンのドレスは、腰からふわっと広がったスカート部分に何重にもフリルが重ねられていた。
それから、手入れをする暇も金もなくパサパサに傷んでいるはずの短い髪は、下の方だけゆるくウェーブがかかった長く美しい髪に変わり、つやつやと黄金色に輝いている。
足下を見ると、うっとりするくらいに美しい透明のグリーンのガラスの靴が光っていた。
一体何が起きたのか分からないが、信じられないほどに美しく変わった自分の姿をまじまじと見つめてしまう。
十の頃から騎士として生きることが定められた私には、妹たちのように女らしい格好をすることも髪を長く伸ばすことも許されなかった。
それに逆らうことが許されることではないことと分かっていたため、そうしたいと一度でも口にすることはなかったが、本当は私は……。
家に余裕がないことは分かっていたから、ふんだんにフリルやレースが施された高価なドレスを着たいとは言わないが、ひとつだけでも良いからリボンが付けたかった。妹や他の娘たちのように長く髪を伸ばし、髪を結いたかった。
一瞬で姿を変える魔法が使えるとは、シンデレラは一体何者なのだ? ニホンジンは、魔力の高い方たちなのだろうか?
シンデレラの正体も気になったが、小さな頃から無理矢理抑えつけていたはずの夢が唐突に叶い、鏡の中の自分から目を通すことができない。
「透き通るような白い肌、キラキラと輝く黄金色の髪、宝石そのもののエメラルドグリーンの瞳。普段からお美しいですが、ドレスを着られたお姉さまはますますお美しくて、まばゆいくらいです」
うっとりと私の長い髪を撫でるシンデレラの顔をちらりと見やると、やはり相変わらず、すすで汚れている。しかし、……。
「お前も身綺麗にしたら肌は白いし、私と同じように緑色の目に金髪だろう」
顔立ちは違うものの、緑色の目に金髪といった特徴は、きょうだいの中では私とシンデレラのみだ。
「ええ。ですから、同じ瞳と髪を持つ私とアンディお兄様が入れ替わるのは必然なのです」
「なんと破天荒な。私たちの顔立ちは似ても似つかぬというのに、それは無茶があるというものだ」
したり顔をするシンデレラに、思わず頭を抱えたくなった。
この目の前にいる娘は、本当に私のよく知るシンデレラなのか? 姉たちに言い返すこともできないほどに内気な灰かぶり娘なのだろうか?
普段のシンデレラとはまるで違う様子に、このシンデレラは偽者で、すでに魔女に入れ替わっているのではないかとさえ思えてきた。
「しかしこの格好では馬にも乗れないし、まさかお前が馬に乗れるわけはないだろう? 一体どうやってお城まで行くというのだ」
この格好から門前払いされることもないだろうが、また別の問題が出てきた。
このドレスでは到底馬に乗れるわけもないし、この繊細なガラスの靴ではまさか歩いていくわけにもいかない。
今度こそ無理だろうと思ったのに、お任せくださいとシンデレラは再び不敵に笑う。
床を這いずり回っていた薄汚いネズミを手づかみで捕まえたシンデレラがそれを撫でると、ネズミは一瞬で衣服を身につけた従者へと変わった。
「馬車は外に用意してあります、シンデレラ様」
「なんということだ……」
人の言葉を話し上品に頭を下げる元ネズミを目の当たりにし、驚きの余りそれ以上の言葉を紡ぎ出すことができなかった。
「シンデレラ、お前は一体……」
丁重に私を外へとエスコートしようとする従者から視線を外し、シンデレラに視線をやると仕上げとばかりにまたほうきを一振り。
すると、長い髪は美しく結い上げられ、頭にはエメラルドがついている髪飾りがのせられた。
「舞踏会では、普段のご自分はお忘れになり、シンデレラとお名乗りください。しかし、真夜中になると魔法の効果が切れてしまいますので、どうか12時の鐘が鳴り終わるまでにはお戻りくださいますよう」
シンデレラはしっかりと念をおすと、従者にエスコートされる私に深々と頭を下げる。
信じられないことばかりでどう反応をしていいのかも分からず、私をエスコートする従者を止めることも、シンデレラに何か言葉を返すこともできないまま、私はただシンデレラに頷き返すことしかできなかった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
27
1 / 2
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる