嫌われ者の僕

みるきぃ

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無口ワンコ書記

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【井上煌Side】


今、寮の自分の部屋のベッドにて横になっている。生徒会の特権で、もちろん一人部屋。俺の名前は井上煌。生徒会の書記をやっている。

普段は上手く話せなくて周りから無口なワンコとか言われてる。ま、実際そうなんだけど…。決して話せないとかじゃなくて下手なんだ。

『何言ってるかわからない』や『ちゃんと喋れよ』とか言われるのが一番怖い。だから、喋るのは基本的苦手。

…でもそんなある日、光が差し込んだ。


花園瑞希。突然、咲紅学園に来た転校生。俺の言葉も理解できて初対面で俺の話し方を別に指摘しなくて普通に接してきた。とにかく元気な子。


瑞希を気に入ったのは俺だけじゃない。生徒会皆がライバル。だけど、最近、瑞希はあの嫌われ者と一緒にいる。もっと、瑞希といろいろ話してみたいのに。


ジリリリリ。気がつくと、7時を知らせる目覚まし時計が鳴った。今日は目覚ましよりもちょっと早く起きてしまった。俺はベッドから体を起こし、周りを見渡す。…あれ?


「ラ、ブ?」

いつもベッドの隅に丸くなって寝ているはずのペットの猫がいない。




名前はラブと言って、背中にはハート形の模様がある。だから、ラブ。ペットなんて本当は持ち込んではいけないけどなんとか許可をもらって飼っている。しかし、ラブは気まぐれですぐにいなくなるけどこんな朝早くからいなくなるとは珍しい。まあ、気づいたら外のベランダから入ってきて何事もなかったようにご飯を食べに来る。ちなみにラブは俺以外の人間になつかない。だから俺だけがラブの面倒を見ることしかできないし家に置いておくことはできなかった。


きっと、今ごろ朝ごはんも食べないでお腹を空かせているに違いない。俺はそう思ってお風呂を入り着替えてご飯を食べて終えた。そして、片手にキャットフードが入った小さな袋を持って部屋から出た。


俺は猫好きであり、それは誰にも教えていない。 




─────
───────
……。




ラブを探しながら廊下を歩いてると



「み、ずき…?」


前方から瑞希の姿が見えた。

今日は一人みたいだ。ラッキーと心の中で思いながら、俺は急ぎで駆け寄った。




「瑞、希…っ!」


後ろから頑張って大きな声で呼んだら、そしたら瑞希も気づいてくれたみたいで足を止めてくれた。




「うるさい!…と思ったらなんだお前か!」



あからさまに期待はずれみたいな顔をされたけど瑞希だからしょうがない。でも俺だとわかってくれたみたいだ。



「ど、こ…行くの?」



「俺は今あおいは探してんだ!」


え、またあいつ…?




「なん、で…?」


休みの日まで一緒にいるの?




「あおいは俺のこと大好き過ぎるから俺がいないとダメなんだ!なのに、あおいの奴探してもいねぇし!!全く彼氏は疲れるぜ!」




か、彼氏…?瑞希が一瞬何を言ったかわからなくなった。



「つ、付き、合って…るの…?」



ありえない。なんで、瑞希とアイツが…どう見ても釣り合わない。



「へ、誰が教えるかよ!てか、俺は探してる途中なんだよ!!邪魔すんな!!」




「ちょ、…待っ」




瑞希は、俺の声なんて耳に入っていないように立ち去って行った。瑞希とアイツが付き合ってるなんてきっと嘘だ。だ、だって、肯定なんてしてなかったしただ教えないって言っただけ。動揺は少ししたけど絶対違うと思う。ぎゅっと持っていたキャットフードが入った小さな袋を強く握る。で、でも気になる…。俺は瑞希が立ち去って行った方向に向かって足を進めた。




───────
……。




…いない。

あれから何分か歩いてみたけど、瑞希の姿なんて見えなかった。もう半分、諦めかけ最初のラブを探すのに戻ろうとしていた時だった。




『────もうこんなところにいたのかよ!!』





「……?」



この声は…。どこからか瑞希の声が聞こえ、その声を追ってみるとそれは外から聞こえてきたものだった。廊下の窓から覗いて、中庭のベンチの方に瑞希の姿が見えた。


─い、いた。





俺は見つけたのと同時に急いで中庭へと移動した。中庭に着くと、いっそう瑞希の声が響いてきた。

…誰かといるのかな?話し声が聞こえてくる。こっそりと茂みに隠れて伺った。あれは…あの嫌われ者と瑞希?



「あおい!なんで俺に内緒でこんな誰もいないところにいるんだよ!許さないぞ!!」



「あ、あのえ、えっと、ご、ごめんね…っ」




「全くあおいは世話が焼けるな!!まあ、謝ったから許してやるけどな!………ん?なんだそれは!」




「え、えっと、ね、猫さんだよ…。こ、この前珍しい猫さんと会ったって言った時の…」




っ!?待て、あ、あれはラブ?背中にはハート形の模様があったので間違いない。よく見てみると、嫌われ者の膝にラブが乗っていた。ラブは俺以外の人間になつかないし、近づかない。何が起きてるんだと不思議でしょうがない。しかもこの前って…ラブに前にも会ったことがあるのか?



「へぇー、またコイツあおいの膝に座っているのか!」




「え、…は、花園くん!?」





すると、瑞希は



「猫の分際で生意気だ!」


と言って嫌われ者の膝からラブの首根っこを掴んで引き離した。大人しかったラブが急に気性を荒くした。




「急に暴れやがって本当生意気だ!!」



瑞希は見るからに苛立って、ラブの首根っこを掴んでいた手を離して地面へと投げた。






「ね、猫さん…っ」



慌てて嫌われ者がラブに駆け寄る。


そ、そんな…瑞希があんなことするなんて…そんな。ラ、ブ…。信じたくなくて、途端に頭が痛くなった。





「もうあおい!そんな猫に構ってないでこっちこい!!」



すぐに瑞希は嫌われ者の腕を掴んで自分のところに引き寄せた。




「俺を見ないあおいは嫌いだ!!」


そして、ぎゅっと閉じ込めるように抱き締めた。




「は、花園くん…く、苦し…い…っ」



「ほら、もう行くぞ!」



「あ、まっ、待って…」




瑞希は嫌われ者の手を強引に引っ張って行った。



「い、…今の…なに」



呆然となり、驚いて足が動かない。二人が立ち去ったあとも、何が起きたのかわからない。…いや、わかりたくない。


 
っ!そうだッ!ラブ!

ハッとなり、ラブのことを思い出して




「ラ、ブ…っ!」


中庭に急いで走った。




「…ラ、ブ…っ」


すぐにラブに駆け寄り抱き抱える。いつものと想像がつかないほどにラブの毛が立っていた。威嚇していたものだと考えられる。『ニャー』とラブは俺の顔見ると、落ち着きを取り戻した。




「ラ、ブ…大丈夫…か?」




そう問うと、ラブは俺の顔を舐めた。瑞希はもしかして猫嫌いなのかな…。猫好きな俺にとってはとても残念な気持ちだった。


それにしても、ラブがあの嫌われ者になついて見えたのは気のせいだよ、…ね?だって、ラブは今まで俺以外の人間になついたことないから…。





『ニャー』


「そ、…うだ。ラ、ブ…餌」



そういえば、ラブの餌を持っていたことに気づく。


朝ごはんも食べてないみたいだからきっとお腹を空かせているに違いない。


ラブを地面に下ろし、袋から餌を出そうとしたら




「ラ、ブ…?」



ラブはベンチの方に行った。俺は不思議に思ってラブの所に移動した。



「…本?」



何やらベンチに本らしき物が置いてあった。



忘れ物?と思ってその本を手に取った。





「あ、…こ…の本…」


…この本読んだことある。表紙の絵に見覚えがあった。


『勇気で強くなる』


タイトルを確認するとやっぱり、昔小さいときに読んだことある本だった。多分、これと同じのが俺の家にも置いてある。何度も読んでいた本だったから覚えていた。懐かしい…。ふと、小さい頃を思い出した。小さい頃から、人と話すのが苦手だった俺はこの本の主人公の少年に憧れていた。だけど、それはもう昔の話。今は内容だって曖昧にしか覚えていない。




それにしても、


「誰の…だろ、?」


今どき、絵本みたいな本を読む高校生っているのかと思った。 さっきまでこの場にいたのは瑞希とアイツ…。多分、瑞希は違う。さっき会ったとき、手には何も持っていなかったから。ということは、あの嫌われ者のものか…。俺には別に関係ないやと、ベンチに再び戻した。…別にどうでもいい。


そして、ラブにご飯をあげるため、袋からキャットフードを取り、手のひらに乗せてラブの顔に近づける。



「ほら、…ラブ、お腹…空いてる…だ、ろ、」



そう言って、ご飯をあげようとしてもラブはそれに目を向けず、さっき俺が戻した本の匂いを嗅いでいる。その途端、風が吹きペラペラとページが捲られていった。ラブにそれは食べ物じゃないよ、と言おうとして本を取り上げようとしたら


「ラ、ラブ…っ !」


ラブが急にその本に噛みついて、ページを破いてしまった。





『ニャー』



「ラ、ラブ…」



さ、最悪だ…。俺は取り合えず、ラブにいい子になるようにと頭を撫で本から離れさせた。

…しかし、どうしよう。このまま、放っておけば俺には関係ないものだったのにラブが破いてしまったせいで俺に責任が出来てしまった。一旦、手に乗っていた餌を袋に戻し、本を手に取る。




「ラ、ラブ…これ、…どうす…んの、」


本の一ページ分、無くなってしまった。ふと、ため息が出る。…アイツのことは嫌いだけど、この本俺も好きだったし弁償した方がいいよね。



「ラ、ラブ…帰る…よ」


ページを破いたから、ご飯は寮へ帰ってからな。そしてラブを抱き抱え、本を片手に持った。本を見て何とも居たたまれない気持ちになり、すぐに寮へと帰った。





─────
──────

……。







そして次の日。また朝起きたらラブがいなくなっていた。全く、反省の欠片もないな…。


昨日あまり外に出るなって言って、きちんと外のドアだって閉めたはずなのに…。


じゃあどこから出ていったのかと探れば、まさかの窓が開いていたことに気づかなかった。多分、ここから出たんだなとすぐに理解した。


本当、頭がよく働く猫だなと感心し、とりあえずまた戻ってくると思うので窓は開けたままにしておく。今日も学校が休みだけど、書記がやる仕事の資料を生徒会室に忘れてきたため、寄らないといけなくなった。


まあ、ラブは気まぐれだし、お腹が空いたら帰ってくるだろう。

俺は準備を済ませ寮を出て、資料を取るために生徒会室に向かった。




─────
………。




生徒会室で無事に資料を取ることができ仕事をしようとまた寮へ戻ろうとした時だった。




あ、…

ふと、窓に目線が行く。




そこにはラブらしき猫がいた。…あれはラブに違いない。ラブは特徴的な猫なのですぐわかる。またなんであんなところに…。変なやつに捕まえられたらどうするんだと思いながらため息を吐く。

とりあえず、寮に戻るついでなのでラブを拾っていくことにした。廊下を抜けて、ドアから外へ出てさっきラブが歩いていた方向に向かう。





「…あ、」


そういえば、ここ昨日瑞希とあの嫌われ者がいた場所だと気づいた。…もしかして、ラブは中庭が好きなのか?同じところにまた行くなんてそれしか考えられない。多分、ラブにとってお気に入りの場所なんだな。覚えておこうなんて、そう思った時だった。






…あ。またアイツだ。俺は足が止まる。

昨日と同じ場所に、あの嫌われ者が今度は一人だけでいた。






…?

キョロキョロと周りを見渡して何かを探してるようだった。





「あ、また猫さん来てくれたの?」


「ニャー」



嫌われ者は、ラブに気づくとしゃがんでラブを撫でた。ラブもラブで気持ち良さそうに目を細めている。…嫌われ者の分際でラブに触れるな。でも、本当にラブが俺以外に対して威嚇をしないのが不思議でたまらない。




「き、昨日はごめんね…。大丈夫だった?」


「ニャー」



…大丈夫?あぁ、あれね。瑞希がラブを投げたやつ。まあ、瑞希があんなことするなんてちょっと驚いたけど猫が苦手っぽいから仕方ない…。嫌われ者は、昨日のことを心配しているみたいだ。





「そっかぁ…大丈夫なんだね。良かった」


安心したように肩の力が抜けたようだった。



すると、ラブは奴の手から順に自分の匂いをつけるかのように嫌われ者の体にスリスリとし出した。飼い主の俺にでもやらないことなのに何でアイツに超甘えてんの。



「ふふ、あ、そうだ。猫さん、ここに置いてあった本知らないかな?」



奴は思い出したかのようにラブにそう聞いた。


…本?

あ。




俺はそこで重大なことに気づいた。







「って、猫さんに聞いてもわからないか」


ごめんねと言いながら、ラブを撫でていた。きっと、昨日ラブが破いたあの本のことだ。俺は別にどうでも良かったけど良心が痛む。アイツは瑞希に付きまとって嫌いだけどラブになつかれてるみたいだから気になった。そして自然と無意識に体が動き奴のところまで足を進めた。




「…お、い」


そう声をかけると、ラブの頭を撫でる手が止まった。



「…え、…ぁ、」


俺に気づき、顔を見るなり少し怯えた様子になり声が若干震えてた。まぁ、そういう反応するのはわかってたけど。





「…ラ、ブ…おいで」


とりあえず俺は屈んでラブにこっちにくるよう促す。だけどラブは俺に目もくれず奴に体をスリスリさせて動かない。飼い主の俺を初めて無視したことに驚いた。



「ラブ…?も、もしかして猫さんの名前ですか…?」


つい、ラブが来ない苛立ちで奴を睨み付けた。



「ご、ごめんなさい…っ!」



八つ当たりだった。今までこいつのことゴミと同じようなものだと思っていた。瑞希を利用して俺たちに近づく悪い奴って副会長が言っていたけどそうは見えない。

こいつのことは嫌いだけどそんな悪い奴にラブは近づかないと思う。




それと、あれも気になる。

付き合ってるかどうかはわからないけど瑞希がアイツの彼氏と言っていた。


問いかけたら瑞希は教えないって言っていたけど、実際真実がわからない。








とりあえず今は、本のことを伝えるか。

 


「お前…本、さがしてた?」


さっそく本題に入る。


「え…?」


急に話しかけられて驚いてる様子だった。こいつと話なんて嫌だけど仕方ない。



「さがして…た、だろ」


「あ、…は、はい!…だ、だけど無くて…その」


「それ、…俺が、持ってる」


「ほ、本当ですか…っ!?」




さっきまで怯えてたくせに嬉しそうにして…イライラする。



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