61 / 91
完璧な幼なじみ
3
しおりを挟む「神影にはここに来るって言ってあるから待っててね!」
「わ、わかりました。色々本当にありがとうございます」
光姫さんは良い人だ。僕はゆっくりと裏口のドアを開け、後ろを振り返って光姫さんに軽く会釈し中へと入っていった。き、緊張する…。
中に入ると誰もいなく、僕は隅に椅子が並べられていたのでそこにゆっくりと座った。できれば誰とも会いたくないな…。
そう思った瞬間、
ガタンッ
すると、裏口ではない方の別のドアから物音が聞こえてきた。う、嘘…、だ、誰かいる?
僕なんかがこんなところにいてこんな格好してたらきっと嫌な気持ちにさせてしまう。できるだけバレないように息を凝らした。
「ニャー」
静寂な空間に猫の鳴き声が響いた。
にゃ、にゃー…?
「ね、猫さん…?」
僕の足元に白色のハートの黒の模様がついてる猫さんがやってきた。こ、この猫さん、書記さんの…。
「ラブ、どこ」
ビクッ
「…っ」
書記さんが猫さんを探している。前に元同室の中野くんに言われたことを思い出した。
『書記の無口野郎もお前のこと大嫌いなんだってー』
きっと今僕に会ったら…。僕のせいで書記さんは花園くんにお腹を殴られ、傷つけた。合わせる顔がない。
「ニャー、ニャー」
猫さんは、僕に体をスリスリとする。ど、どうしよ…隠れられない。
「ね、猫さん…」
「ラブ、ここにいた…──だ、れ?」
間に合わなかった。
すぐに逸らしたけど、バッチリと目が合ってしまった。
「あ…っ、えっと…」
戸惑いを隠せない。
「もしかして、…」
書記さんは驚いた表情をしながらそう言って足を止め、僕の頬に優しく手を当てる。
「…あおい?」
「…へ?」
「…あおいだ。あおいの匂いがする。ラブも懐いてるし間違いない」
書記さんは嬉しそうな顔をして僕に抱きついた。
「あおい…っすごっく綺麗。びっくりした…心臓変に、なる」
「あ、あの…?」
書記さんは僕にスリスリと体を寄せてくる。怒っている様子はない。お、怒ってないの…?僕はてっきり怒られるのかと思っていた。
「久しぶりのあおい。…まさかこんなところで会うなんて」
「あ、あの…!書記さん」
謝らなきゃ。合わせる顔がないけど、きちんと謝りたい。
「書記さんなんてやめて前みたいに名前で呼んで。…どうした?」
「そ、その…っ、今更で、ごめんなさい。僕のせいで書記さんを傷つけてしまって本当にごめんなさい!」
「あ、もしかして、前のこと…」
書記さんは思い出したみたいだった。
「謝って済むことじゃないってわかっています…でもどうしても謝りたくて…本当にごめんなさい」
僕がいなければ、書記さんは花園くんにお腹を殴られずに済んだ。全部、僕のせいだ。
「なんで…あおいが謝るの?何も悪いことしてない」
「で、でも…」
「…あの時のことはもういい。あおいの方がきっと酷い目にあった」
「ぼ、僕はなんとも…」
「だから決めたんだ。頼りないけど、次は俺が守ってあげる。…あおいのこと」
優しい声。そっと僕の手を温かく包み込む。ぼ、僕を…守る?
「しょ、書記さん…?」
握られた手がとても温かい。でも少し震えていた。
「全然頼りないってわかって、る。けど、ずっとあれからあおいのことばかり考えて、本当はすぐに会いたかったけど…今まであおいに酷いことしてきたから、合わせる顔がなくて、」
「そ、そそんな…僕なんか別に」
「あおいにそんなこと言わせなくない。そんな顔させなくない」
「え?」
「あおいは全部が可愛くて綺麗。声も話し方も性格も行動も仕草もまるごと全て。そして、初めてみる素顔にこんなにも緊張している」
書記さんは僕の手を取って自分の心臓の方にもっていった。そして手のひらから伝わってくる鼓動。とてもはやい。
「俺を…こんなにしたから…、“僕なんか”って言っちゃだめだよ」
優しい言葉をまた僕に。勿体無い言葉だったけど、とても嬉しかった。書記さんは少し照れた表情で僕を見つめ、数秒経ったら目線を下に向け、猫さんを抱きあげた。
「ニャーニャー!」
書記さんの腕の中で猫さんは暴れて僕の足に体を寄せた。猫さん…?
「俺もっ、あおいに…スリスリしたい」
「わっ!」
書記さんも突然、僕の頬に自分の頬を寄せた。それが数分も続き僕は身動きが取れない状態に戸惑い焦っていた。
「あおい、ラブを抱っこして」
その後、書記さんは、カゴを持ってきて僕にそう言った。言われた通りに猫さんを抱きあげた。
「このカゴの中にゆっくりと入れて」
「わ、わかりました…」
そっと、猫さんをカゴの中に入れるのを手伝った。
「にゃー」
寂しい声で鳴く猫さん。少し胸が痛くなった。
「ごめんね…猫さん」
「にゃー…っ」
僕の声が届いたのか少しだけ大人しくなってくれた。
「よしっ。ラ、ブはお留守番。手伝ってくれてありがとう」
「い、いえ…とんでもないです」
書記さんは、猫さんが入ったカゴを机の上に置いた。
「ねぇ、あおいっ。俺と、少し付き合って」
「へ?」
「ちょっとだけ、でいいから」
お願い、と続けて言った。
ど、どうしよう…。戸惑う僕。そう言ってくれるのは嬉しいけど、
「で、でも…か、会長さんが来るのをその待っていて」
僕は会長さんと約束しているためまた待たせると申し訳がない。
「神、影…?もしかして、あおいがドレス着ている理由って」
「か、会長さんに鬼ごっこで捕まれて…それで…」
ダンスなんて踊れない。でもドレスを会場さんがわざわざ選んでくれたのに台無しになんてできない。
「…そっか。でも神影はまだ時間かかりそうだったから、その間だけあおいの時間ちょうだい。だめ?」
書記さんは眉を曲げて困った様子だった。
「だ、だだめという訳では…っ」
「じゃあ、いい、よね」
「え、えっと…」
書記さんは嬉しそうに笑って僕は到底断ることなんてできなかった。
─────
────────
───────────
……。
書記さんが僕の手を引いて連れて着たのはパーティーが行われている会場。まだ始まってはいないがもうすでに人が溢れていた。
食べ物も多く並べられていて豪華な雰囲気が漂ってくる。庶民な僕にとっては別世界の空間。
そ、それに僕なんかが書記さんと一緒にいるを見られたら皆黙っていない。だからなるべく離れて歩く。ただでさえ嫌われているのにこんな格好してたら…なんて言われるだろう。もう少し考えてここに来るべきだったと後悔しても今更遅い。
なるべく目立たないよう会場に入ってからは、努めて平静を装う。
挙動不審にならないようにしながら自然に振る舞うというのは、思っていたよりも難しいかもしれなかった。
「おい見ろよ、すげー美人。誰か声かけろよ」
「まじやべぇ。…惚れた」
「一応、あれ男だよな…?美少年すぎ…だろ。俺あの子ならイける」
こ、怖い…。ひそひそ話が聞こえて、顔を少しあげると多くの生徒の視線を浴びていた。
「うお、こっち見た」
「一瞬だけ目合った。すげえ色気…」
「…名前なんて言うんだろ」
や、やっぱり変なんだ…。体がビクビクと震える。明らかに挙動不審に見える。来たばかりなのに書記さんには申し訳ないけど帰りたくなってしまった。こんな華やかなところ、僕には釣り合わない。自分が目立っていることに気づいて、今すぐにでも逃げ出したかった。
「…あおい?」
みんなの視線が突き刺さって痛い。
「あおい…大丈夫?」
僕の前を数メートル先歩いていた書記さんが駆け寄り心配してくれた。
「へっ、あ、だ、大丈夫です!」
「そっか。なら、いい」
僕のこと心配してくれて書記さんはやっぱり優しいな…。なのに、僕は帰りたいなんて思ってしまう最低な奴。自分が情けない。
『待って、あの子の隣にいる人って…井上様じゃない?』
『うそ!気づかなかった』
『ど、どういう関係…?』
さらに会場が騒めく。
「…あおい。もっと、近づいて」
「え?」
「離れると危ないから」
「で、でも周りが黙っていないというか…そのえっと恐れ多いです…っ」
「それは大丈夫。あおいは俺が霞むくらい綺麗だから誰も文句は言えない」
そう言って、僕の手を握った。すると、その途端『きゃー』と甲高い声が響き渡る。
「しょ、書記さん…やっぱり」
「周りなんて気にしなくて、いい」
「で、でも…」
「ほら、一緒に美味しいもの、食べよ」
「…つ」
これ以上何も言えず僕は頷くことしかできなかった。
「あおい、食べたいものある?」
書記さんが僕にそうたずねる。目の前にはビュッフェ形式で色々な種類の食べ物がたくさん並べてあった。目の前には美味しそうなデザートがあるけど僕なんかが頂いていいのかなって思ってしまう。どうしようかと逡巡する。
「これで、いい?」
デザートを見つめすぎていたせいか書記さんに気づかれてしまった。本当に申し訳ない…。
「は、はい!ありがとうございます」
どうぞ、と苺ののったパフェを渡された。美味しそう…。見ているだけでお腹いっぱいになる。
「いただきます」
一口、食べる。っ!美味しい…っ。一気に幸せな気持ちになった。
「美味しい?」
「はい!とても美味しいです」
「じゃあ、俺も食べさせて」
書記さんはそう言って、僕が使ったスプーンを持って苺のパフェを食べた。
「しょ、書記さん…スプーン」
「…ん。とても美味しい」
書記さんがにっこりと笑顔を浮かべる。まさか、書記さんが僕が使ったスプーンでそのまま食べてしまうなんて驚いた…。ふ、普通のことなのかな。一つ一つの行動に驚いてばかりではいけないなって思った。そんなことを考えている時だった。キャーと先ほどより会場が騒めいた。
ガシッー
何だろうって考える暇もなく僕は誰かに背後から腕を回された。突然のことでビクッと体が震える。
「…おい、煌。何、人のもんに手ぇ出してんだ?」
低い声が僕の耳元に響く。
58
あなたにおすすめの小説
ビッチです!誤解しないでください!
モカ
BL
男好きのビッチと噂される主人公 西宮晃
「ほら、あいつだろ?あの例のやつ」
「あれな、頼めば誰とでも寝るってやつだろ?あんな平凡なやつによく勃つよな笑」
「大丈夫か?あんな噂気にするな」
「晃ほど清純な男はいないというのに」
「お前に嫉妬してあんな下らない噂を流すなんてな」
噂じゃなくて事実ですけど!!!??
俺がくそビッチという噂(真実)に怒るイケメン達、なぜか噂を流して俺を貶めてると勘違いされてる転校生……
魔性の男で申し訳ない笑
めちゃくちゃスロー更新になりますが、完結させたいと思っているので、気長にお待ちいただけると嬉しいです!
劣等アルファは最強王子から逃げられない
東
BL
リュシアン・ティレルはアルファだが、オメガのフェロモンに気持ち悪くなる欠陥品のアルファ。そのことを周囲に隠しながら生活しているため、異母弟のオメガであるライモントに手ひどい態度をとってしまい、世間からの評判は悪い。
ある日、気分の悪さに逃げ込んだ先で、ひとりの王子につかまる・・・という話です。
悪役令息シャルル様はドSな家から脱出したい
椿
BL
ドSな両親から生まれ、使用人がほぼ全員ドMなせいで、本人に特殊な嗜好はないにも関わらずSの振る舞いが発作のように出てしまう(不本意)シャルル。
その悪癖を正しく自覚し、学園でも息を潜めるように過ごしていた彼だが、ひょんなことからみんなのアイドルことミシェル(ドM)に懐かれてしまい、ついつい出てしまう暴言に周囲からの勘違いは加速。婚約者である王子の二コラにも「甘えるな」と冷たく突き放され、「このままなら婚約を破棄する」と言われてしまって……。
婚約破棄は…それだけは困る!!王子との、ニコラとの結婚だけが、俺があのドSな実家から安全に抜け出すことができる唯一の希望なのに!!
婚約破棄、もとい安全な家出計画の破綻を回避するために、SとかMとかに囲まれてる悪役令息(勘違い)受けが頑張る話。
攻めズ
ノーマルなクール王子
ドMぶりっ子
ドS従者
×
Sムーブに悩むツッコミぼっち受け
作者はSMについて無知です。温かい目で見てください。
とある金持ち学園に通う脇役の日常~フラグより飯をくれ~
無月陸兎
BL
山奥にある全寮制男子校、桜白峰学園。食べ物目当てで入学した主人公は、学園の権力者『REGAL4』の一人、一条貴春の不興を買い、学園中からハブられることに。美味しい食事さえ楽しめれば問題ないと気にせず過ごしてたが、転入生の扇谷時雨がやってきたことで、彼の日常は波乱に満ちたものとなる──。
自分の親友となった時雨が学園の人気者たちに迫られるのを横目で見つつ、主人公は巻き込まれて恋人のフリをしたり、ゆるく立ちそうな恋愛フラグを避けようと奮闘する物語です。
俺がこんなにモテるのはおかしいだろ!? 〜魔法と弟を愛でたいだけなのに、なぜそんなに執着してくるんだ!!!〜
小屋瀬
BL
「兄さんは僕に守られてればいい。ずっと、僕の側にいたらいい。」
魔法高等学校入学式。自覚ありのブラコン、レイ−クレシスは、今日入学してくる大好きな弟との再会に心を踊らせていた。“これからは毎日弟を愛でながら、大好きな魔法制作に明け暮れる日々を過ごせる”そう思っていたレイに待ち受けていたのは、波乱万丈な毎日で―――
義弟からの激しい束縛、王子からの謎の執着、親友からの重い愛⋯俺はただ、普通に過ごしたいだけなのにーーー!!!
主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。
小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。
そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。
先輩×後輩
攻略キャラ×当て馬キャラ
総受けではありません。
嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。
ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。
だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。
え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。
でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!!
……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。
本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。
こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。
ノリで付き合っただけなのに、別れてくれなくて詰んでる
cheeery
BL
告白23連敗中の高校二年生・浅海凪。失恋のショックと友人たちの悪ノリから、クラス一のモテ男で親友、久遠碧斗に勢いで「付き合うか」と言ってしまう。冗談で済むと思いきや、碧斗は「いいよ」とあっさり承諾し本気で付き合うことになってしまった。
「付き合おうって言ったのは凪だよね」
あの流れで本気だとは思わないだろおおお。
凪はなんとか碧斗に愛想を尽かされようと、嫌われよう大作戦を実行するが……?
【完結】君を上手に振る方法
社菘
BL
「んー、じゃあ俺と付き合う?」
「………はいっ?」
ひょんなことから、入学して早々距離感バグな見知らぬ先輩にそう言われた。
スクールカーストの上位というより、もはや王座にいるような学園のアイドルは『告白を断る理由が面倒だから、付き合っている人がほしい』のだそう。
お互いに利害が一致していたので、付き合ってみたのだが――
「……だめだ。僕、先輩のことを本気で……」
偽物の恋人から始まった不思議な関係。
デートはしたことないのに、キスだけが上手くなる。
この関係って、一体なに?
「……宇佐美くん。俺のこと、上手に振ってね」
年下うさぎ顔純粋男子(高1)×精神的優位美人男子(高3)の甘酸っぱくじれったい、少しだけ切ない恋の話。
✧毎日2回更新中!ボーナスタイムに更新予定✧
✧お気に入り登録・各話♡・エール📣作者大歓喜します✧
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる