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一目惚れとは

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大学に向かう途中に
小さなお花屋さんがある



白い壁に

緑の屋根

両脇には綺麗に手入れされた大きな木



そこで働くお兄さんは、いつも甲斐甲斐しくお花の世話をしていて

いつも
優しく微笑んでいて



すごく魅力的な人だなって思ってた









.



.



.





「つまり、一目惚れってこと?」

「え」

「え?」

「一目惚れ?そうなの?」

「俺が聞いてんだけど」

「うーん…そうなのかなぁ…」

「何だよ。はっきりしないな」




講義が始まる10分前

教授が来るまで、友達の 世呉せいごと雑談をする


いつもならテレビ番組の話や美味しい食べ物の話をするんだけど

今日はふと、お花屋さんのお兄さんの話をしたくなった


それに対する世呉の反応は、先程の"何だよ"という呆れたような一言だ




「だって、いつも遠くから見るだけだし。これが恋かどうかなんてわからないよ」



一目惚れって

一目見ただけで恋に落ちるってことでしょう?


お兄さんへの気持ちはまだ、名前をつけられるようなものではなくて


ただ

何となく気になる



それだけだ






「どんな人?そのお兄さん。イケメンなの?」

「うん。イケメン…というか、綺麗な人」

「男に対して綺麗って」

「本当に綺麗なんだもん。色白で、端正な顔立ちで、花に触れる指の先まで美しい」

「…あれ?さっきは"遠くから見るだけ"って言わなかった?
詳細までしっかりチェック済みじゃん」

「……」



遠くから見ているのは嘘じゃない

毎日のように見てるから、徐々に細かいところまで見えてきたってだけ



そう

ただ、それだけ




向日葵ひまりが見知らぬ男に一目惚れって、なんか違和感だな」

「一目惚れじゃないってば」

「はいはい」

「ていうか…違和感って何。私だって恋ぐらいするよ」

「それはそうだろうけど、お前どっちかと言うと慎重な性格じゃん」

「あー…」

「だからこそ彼氏できたことないし」

「それは禁句」

「慎重で奥手な向日葵が、まだ喋ったこともない男を気にして毎日こっそり観察して」

「やめてよ。まるでストーカーみたいじゃん」

「あぁ なるほど。向日葵はストーカーだったのか」

「違うってば!」

「シッ」

「……」



そこで話は中断


教授がやって来たのを見た世呉は
ノートを開き、口を閉じたのだ



急に真面目ぶって。ちゃっかりしてるなぁ


世渡り上手な世呉に心の中で拍手を送り、私もノートを開いた








____


___





「はぁ~ 終わった」

「終わったね。お疲れ様」

「優等生でいるのも楽じゃない。肩が凝る」

「でもすごいじゃん。
教授たちは誰も気づいてないよ?世呉が成績と就職のために優等生を演じてるってこと」

「俺の演技は完璧だから」

「これで本当に頭も良いんだからムカつくよ~」

「俺で良ければいつでも勉強教えてあげるけど?」

「…結構です。
タダじゃないのもわかってるし、バカにされそうで嫌だ」

「人聞きが悪いな」


そう言ってケラケラ笑う世呉にイラッとしていたら

同じ学科の友だちが私の方へ駆け寄って来た



『向日葵~
ごめん、ちょっと良い?』

「どうしたの?美奈。そんなに慌てて」

『バイトしない?カフェ店員、時給1000円』

「へ?」

「唐突だな。人足りてないの?」

『鋭いね!世呉。

人手が少ない所為で私が毎回残業しなきゃいけなくてさぁ』

「うわ。それは大変」

『もう身も心もボロボロ。私を助けると思って一緒にバイトしてくれない?』

「んー…バイトかぁ」


親が学費を負担してくれているから、私は勉強に集中しようと思ってたけど

大学生だし、みんなバイトくらいしてるよね


「…うん

やろうかな」

『本当!?』

「向日葵がやるなら俺もやる」

『えぇ!?良いの!!?』

「どうせ暇だし。金も無いし」

『やった~!
ありがとう2人共!じゃあ、履歴書だけ準備しておいてね。詳しいことはメールする』

「うん、わかった」

『本当にありがとね~ 向日葵大好き!』


私をぎゅーっと抱きしめた後

美奈は猛ダッシュでバイト先へ向かった






「向日葵ってバイト自体初めて?」

「うん。世呉は?」

「コンビニ、ビラ配り、居酒屋」

「えぇ!そんなに?」

「何事も経験だから」

「へぇ…」

「でも向日葵はビラ配りも居酒屋もダメ。コンビニも夜中はダメ」

「なんで?」

「なんでダメなのか、理由がわかってないから絶対にダメ」

「何それ~」

「……本当に鈍感(これだから放って置けない。カフェでも変な男が向日葵に近づかないよう見張ってないと)」

「ねぇ世呉。バイトの面接ってスーツを着るべき?」

「え?いや、私服で良いでしょ」

「そうなんだ」

「緊張することないよ。ただ聞かれたことに答えれば良いだけ。
てか
向こうが人手不足で困ってんだから、余程のことがない限り雇うだろ」

「確かに」



人生経験の浅い私からしたらバイトなんて大冒険

面接だけでもめちゃくちゃ緊張するけど…
世呉がいるから大丈夫かな



「頼りにしてます」

「大袈裟だな」





世呉との出会いは大学に入ってから





あの頃の世呉は金髪だったし

背が高くて顔も良いから常に目立ってた



第一印象は"チャラくて怖そうな人"





平凡にひっそりと生活したかった私は

世呉と目を合わせないように関わらないように、なんて呪文のように心の中で唱えてたっけ



それが今では一緒に講義を受けるほどの仲良しに



私が困ってたらすぐに助けてくれて
偶にムカつくこともあるけど優しくて

同い年なのに頼れるお兄さんみたい








「ところでさ、美奈がバイトしてるカフェってどこにあんの?」

「たしか駅の方だったと思うけど」

「ふーん。
ちょっと行ってみる?客として」

「それ良いね!お店の雰囲気わかった方が働きやすいかも」



ということで

私たちはカフェの見学に行くことにした






_



『いらっしゃいませ…

あれ?
向日葵!世呉も。何?どうしたの?』

「どんなお店か気になって見に来ちゃった」

「今日はまだお客」

『あ~ そういうことね!

ではお客様、ご注文をお伺い致します』

「俺 カフェラテ」

「私はミルクティーで!」

『はい。カフェラテお一つとロイヤルミルクティーお一つでよろしいですね。かしこまりました』

「美奈すごい。仕事してる」

『へへ』

「講義中に口開けて寝てる人とは思えないな。あの間抜け面といったらもう」

『お客様、聞こえてますよ』

「おっと」

『出来上がりまで少々お待ちくださいね』



営業スマイルを残して注文品を準備する美奈



「格好良いなぁ」

「そんな他人事みたいに。向日葵もあれをやるんだよ」

「…上手くできるかな?全く自信ない」

「大丈夫だって。慣れれば何でもできる」

「そりゃ世呉は器用だからいいけどさぁ」

「大丈夫。向日葵にはこの完璧人間の俺がついてるじゃん」



まぁ

確かに


困ったときは世呉に助けてもらうとしよう




「頼むよ?完璧人間さん」

「任せなさい」



その後

それぞれの飲み物を受け取り、空いている席に座った



「店内綺麗だし良い雰囲気だね」

「仕事内容もそんなに難しくなさそうだった」

「え、見ただけでわかるの?」

「大体ね」

「わー…さすが。

世呉なら仕事覚えるのも早いだろうし、営業スマイルも得意だよね。すぐ有名になりそう」

「有名?」

「"あのカフェにイケメン店員がいる"って噂になるよ。女の子ってそういうの目的でお店通ったりするから」

「へぇ。俺って向日葵から見てイケメンなんだ~」

「好みのタイプじゃないけどね」

「うわ。今の余計」



そんな風にくだらない話をしながら、美味しいミルクティーをあっという間に飲み切った




「帰る前にトイレ行って来るわ」

「わかった。待ってるね」



世呉がトイレに行っている間
私は1人で店員さんたちの観察をする



髪色とかアクセサリーとか規則は特になさそう

服装は白いブラウスに黒いパンツで統一。そこに指定のエプロンをつければいいみたい


お客さんはそれなりに多いけど、店員さんたちを見ると慌ただしい様子はない

これくらいなら私にもできそう…?




あ、ケーキもあるんだ。美味しそう

バイトを始めたら食べてみようかな







『あの、すいません』

「…

へ?

あっ
はい。私、ですか?」


ケーキに見惚れていた私の前に現れたのはニコニコしたお兄さん2人組


知り合い……じゃないと思う。たぶん



『ここ、席空いてます?もし良かったら相席お願いしても良いですか?』

「え?でも…」


奥の方、空席あるけどな

まぁ いっか。どうせ帰るし


「私 もう帰るところだったので、この席は自由に使ってください。それでは…」

『待って』

『一緒にお茶しない?飲み物奢るからさ』


荷物を持って立ち上がると、腕を掴まれて引き止められる


うん?

まさか、これ
ナンパってやつでは?


ナンパなんて人生で初めて!すごい!



……じゃなくて



「えっと…
飲み物はもう飲んだので結構です。失礼します」

『そんな警戒しないで少しお話しようよ』

「私、連れがいるんです。今トイレに行ってて」

『そんな嘘ついたってダメだよ~』

『ほらほら、そこ座って』



どうしよう。全然諦めてくれない


世呉!早く戻って来て!!


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