Missing You

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偶然の出会い

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「あの

すみません」

『ん?』



しつこいお兄さんたちに困り果てていたら


近くの席に座っていた1人の男性が、遠慮がちに声を掛けてくれた



「そちらの方、困ってるみたいですよ。

強引に話を進めるのではなく、きちんと意見を聞いてはいかがですか?」

『何なんですか急に』

『てか誰?』

「…

あ」



見覚えのある端正な顔立ち



「それに、連れがいるっておっしゃってるじゃないですか」

『うわ。盗み聞き?』

『気持ち悪いな』



あの綺麗な指先も…



そうだ

間違いない



「不快な思いをさせてしまったならすみません。ですが お二人共声が大きかったですし、とても目立っていたので自然と聞こえてきてしまったんです」

『え?』



辺りを見回すと

お客さんたちの視線が私たちに集中している



『うわ…何か見られてる』

『何だよこの空気』

『気まずいから帰ろうぜ』

『そうだな』



居た堪れなくなったお兄さんたちは
私のことなんて忘れ、足早にその場を去って行った




「大丈夫ですか?」

「あ……あ、あの、」



どうしよう


え?

私……どうしよう



すごく

緊張する




「すみません。もしかして余計なことをしてしまいましたか?」

「ち、違います!違うんです!た、助かりました。すごく。本当に」

「それなら良かったです」


しどろもどろになって若干怪しい私に対して、優しく笑いかけてくれる



肌が白くて
全体的に透明感があって
ぱっちり二重で


やっぱり、すごく綺麗な人だなぁ…






「向日葵?何してんの?」

「あ!世呉」

「その人は?」

「世呉がトイレに行ってる間にナンパされちゃって。そしたらこの方が助けてくださったの」

「はぁ?ナンパ?」

「そうそう。男の人2人が来て、"相席お願いしても良いですか?"って。
断ってもなかなか諦めてくれなくて困ったよ」

「そいつら今どこにいる?」

「もう帰ったよ~
店内中の人に見られて気まずくなったみたい」

「…そっか。

ごめん、1人にして」

「えぇ?なんで世呉が謝るの。トイレ行っただけじゃん」

「向日葵は警戒心が足りないから、俺が見張ってなきゃいけないんだよ。保護者みたいなもん」

「保護者って何~ 私子どもじゃないのに」

「ふふ、優しくて素敵な彼氏さんですね」

「かっ、彼氏なんかじゃありません!!
全然…そんなんじゃないんです!私たちはただの友だちで…その…」

「そんな全力で否定することないだろ」

「それは…だって…」

「友だちを助けてくれてありがとうございました」

「いえいえ、そんな。大したことはしてませんよ」



柔らかい声

優しい笑顔



耳からも目からも入って来る彼の情報全てが
私の胸を高鳴らせる




「それでは僕はこれで」

「本当にありがとうございました」

「あ、ありがとうございました!」



その優しい男性はペコッと頭を下げてから席に戻り

飲みかけだったと思われるコーヒーらしきものを少し口に含んだ後


ふわっと頬を緩ませた



わぁ…
きっと美味しかったんだろうな

一体どんな味なんだろう







.




.




.





「向日葵

おーい、向日葵。しっかりしろ」

「わぁっ!な、何?」


目の前で手のひらが大きく揺れていることに気がつき、ハッと我に返った



「どうしたんだよ。ぼけーっとして」

「……」

「あの人に見惚れてた?」

「へっ!?いや、ちがっ、別に…そ、そんなんじゃないよ」

「嘘つくの下手なんだから正直に言った方が良いよ。もうバレバレ。

で、何?また一目惚れしたの?」

「え」

「花屋のお兄さんの次はカフェのお兄さん?いつの間にそんな惚れっぽくなったんだ」

「ち、違う!そうじゃなくて」

「誤魔化したって無駄。あの人のことを見る目がハートだったもん」



ハート?

嘘でしょ


私ってそんなにわかりやすいの?気をつけなきゃ…



「まぁ、男の俺から見ても格好良かったからな」

「綺麗だった」

「ん?」

「近くで見ると、より一層綺麗だった」

「…

…え

まさか」

「うん」

「あの人が、花屋のお兄さん?」

「そう」

「……マジか」



普段ポーカーフェイスでわりと何事にも動じない世呉

さすがに今のは驚いたらしい


目を丸くして固まっている



「へぇ…あの人が」

「あんまりジロジロ見ないで。気づかれたらどうするの」

「どの口が言ってんだよ」

「う…」

「なるほど。あの顔であの優しさなら向日葵が恋に落ちてもおかしくない」

「そうでしょ?雰囲気が、何かこう…」

「ふわふわしてる」

「そう!ふわふわ!声も良かったなぁ」

「向日葵がニヤニヤしてる」

「し、してない!気の所為よ」

「せっかくだから名前でも聞いとけば?」

「無理」

「なんで」

「だ、だって…いきなりだもん。気味悪がられちゃう」

「"助けてもらったお礼がしたい"とか適当な理由つけて聞き出せばいいじゃん。今後こんなチャンス無いかもよ?」

「チャンス…」

「気になるんでしょ?あの人のこと。

ここで声を掛けたら仲良くなれるかもしれないのに、何もしないまま終わっていいのか?」

「……」

「後悔しない?」





世呉の言葉を聞き

慎重になっていた心も身体も、ゆっくりと動き出した




「…

行く。行きます」

「それでよし。焦らずしっかりな」

「うん。頑張る」





まずは、今 時間があるか確認して


それからお礼がしたいって話して


それで名前を聞いて…



よし


いざ出陣!!





「…

ゴホンッ


あ…あぁ
ぁ、あの!」



うわ~~~

かなり吃った


というか、今のか細い声は何?自分でもびっくりなんですけど




「……」



お花屋さんのお兄さんは
スマホの画面に視線を向けたまま、こちらを見る気配がない


私のことを気味が悪い人だと思っただろうか

私の恋は……始まる前に幕を閉じるの…?





もう一度チャレンジするかどうか迷っていたら

お兄さんがゆっくりと顔を上げた



「あっ」

「…

うん?」

「えっと…その…」

「もしかして、僕のこと呼びました?」

「へ?

…は、はい!
そうです!あなたです!」



私が不気味だから無視したのではなく

自分が声を掛けられてるということに気づかなかっただけらしい


よかった







それにしても…


綺麗で整ったお顔立ちだとは思ってたけど

私を見上げる表情が
なんだか異常に可愛らしい


一体どれだけ魅力のある人なんだ





「わ~
すぐに気づかなくてごめんなさい」

「いえ!良いんです!気にしないでください。
むしろ私の方こそ…突然話し掛けたりしてすみません。

それで…その……今、少しお時間宜しいですか?」

「はい、大丈夫ですよ。どうぞ座ってください」

「あ、ありがとうございます!」



何の用かもわからないのに

私の素性も知らないのに


快く受け入れて、その上 椅子を引いてくださった



なんて親切なんだろう




「向日葵
俺、あっちで待ってるから」

「うん!すぐ行く」

「急がなくていい。ちゃんと話して来て」

「…うん。ありがとう」


世呉は少し離れた席に座り
スマホゲームをしているだけなのに、女性客からの視線を集めていた

罪な男だ



「彼氏さん、一緒に座ってもらいますか?」

「彼氏じゃないです!」

「あ。ははっ、すいません。お友だちでしたね」



あぁ

笑うと笑窪が出るんだ。すごく可愛い



「えっと…

先程は、助けて頂き 本当にありがとうございました」

「いえいえ。何事もなくて良かったです」

「何かお礼をしたいのですが…」

「え~?お礼だなんて、気にしなくて大丈夫です。僕はただ少しお話しただけですから」

「ですが……それでは、私の気持ちが収まらない…と言いますか」

「義理堅い方なんですね」

「甘いものはお好きですか?もし良かったら、何かご馳走させてください」

「甘いものは好きですけど…やっぱり申し訳ないですよ。感謝の言葉だけで充分です」

「負担に思わないでください!私がどうしてもお礼をしたくて、そうしないと気が済まないってだけですから」

「んー…でも」

「ドーナツなんてどうですか?それともスコーン?ケーキもありますね。どれが良いですか?

答えてくださらなければ全種類買って来ます」

「え!あ、わわ、どうしよう」



お礼だと言っているのに、これではまるで脅しのようだ



感謝の押し売りなんて

ありがた迷惑でしかない


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