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キラキラ
しおりを挟む『お待たせしました。こちらチーズケーキです』
「ありがとうございます」
お兄さんが慌てて選んだのは
メニューに"オススメ"と書いてあったチーズケーキ
「これ…本当に良いんですか?」
「もちろんです!感謝の印ですから!」
「気を遣わせてしまってすみません。
…でも
美味しそうですね、このケーキ」
「そうですね。すごく美味しそうです」
申し訳なさそうにしながらも、キラキラな目でケーキを見つめるお兄さん
そんなお兄さんを見て私は幸せになる。もうお腹いっぱい
「それでは、せっかくなので」
「どうぞ!召し上がってください(私が作ったわけじゃないけど)」
「いただきます」
フォークを手にして
それをケーキにちょこっとだけ刺して
そのまま動きが止まった
…うん?
何だろう
急に食欲が無くなった?実はケーキが苦手?
私の押し売りの所為で無理をさせてしまっているのだろうか
「あの…」
「は、はい」
「お名前
お聞きしても良いですか?」
「へ…?」
「ケーキをご馳走になるのにお名前も知らないなんて、と気になって」
「!」
なんと
まさかまさかの
お兄さんの方から名前を聞いてくださるとは!!
「…も、申し遅れました。
私は 吉田向日葵といいます」
「向日葵さん。素敵なお名前ですね」
不思議だ
お兄さんの口から聞くと、聞き慣れたはずの名前が特別なものに感じる
「僕は 五十嵐零と申します」
「五十嵐…零さん」
お花屋さんのお兄さんは
零さんっていうんだ
やった
やったよ!世呉
お兄さんの名前がわかったよ~!!
世呉へ視線を送り、心の中で大きくガッツポーズ
「そういえば
向日葵さんのお友だちは、向こうに1人で座っていて寂しくないですか?」
「大丈夫です。世呉が寂しがることなんてありませんから」
「そうですか?」
「はい!心配ご無用です!
お気になさらず、ケーキを召し上がってください」
「あっ、そうだ。チーズケーキ」
刺さったままだったフォークを動かしてパクッと一口
「ん~!美味しいです。ふわふわな食感に優しい甘さ」
「ふふ」
「うん?」
「あ、すみません…ふふ。
すごく幸せそうな表情だったので」
「あはっ
なんか恥ずかしいですね」
零さんの笑顔は
可愛らしくて、美しくて、キラキラしてる
「零さんは、このカフェによくいらっしゃるんですか?」
「はい。毎日来てます」
「毎日!わぁ…常連さんなんですね!」
「そうなんです~
ここのコーヒーと抹茶ラテが大好きで。
オススメですよ」
「今度飲んでみます!」
「向日葵さんもよく来るんですか?」
「いえ。私は今日が初めてなんです」
「そうなんですか~」
「…実は、ここでアルバイトを始める予定でして」
「おぉ!」
「まだ決まったわけではないのですが、近いうちに働き始めると思います」
「もしも働くことになったら、また会えますね。僕たち」
「へ」
"また会えますね"
"僕たち"
零さんの言葉が脳内でリピート再生される
「僕はこれからもこのカフェに通いますし、いつか向日葵さんが淹れたコーヒーを飲めるかもしれないってことですよね。
楽しみです」
「……」
「向日葵さん?大丈夫ですか?」
「…だ、大丈夫、です。
ご注文…お待ちしていますね」
「はい。是非」
.
.
.
「なるほどね。それで胸キュンして、慌てて逃げ帰って来たのか」
「うん」
カフェから家までの帰り道
世呉に零さんとの会話を全て報告した
「せっかく話が弾んでたのに勿体無い」
「もう、だって、あれは」
「やば。顔真っ赤じゃん」
「うぅ~~~」
「会話したくらいで大袈裟だな」
キラキラの笑顔を思い出すだけで熱くなる顔
これはもう否定出来ない
完全に 恋だ
「…
零さん、コーヒーと抹茶ラテが好きなんだって」
「へぇ」
「私が淹れるコーヒーを飲むのが楽しみなんだって」
「ふーん。良かったじゃん」
「……どうしよう」
「何が?」
「毎日通ってるってことは、バイトの日はほぼ毎回零さんに会えるってことだよね」
「そうだね。時間が合えば」
「いっぱいバイトすれば、それだけ零さんに会う機会が増えるってこと?」
「確率は高くなるだろうな」
「……」
「やる気出た?」
「うん…緊張とか不安とか言ってる場合じゃないかも。
出来る限りシフト入れてもらおうかな」
「単純だな。
零さんのおかげで向日葵が金持ちになりそうだ」
毎日のようにあの笑顔を見れるなんて
それだけで、なんて幸せなことだろう
_______
_____
____
「お待たせ致しました。
こちら、カフェラテになります」
あれから1週間
無事面接に受かった私は、週5のペースで働いている
「向日葵
また顔引き攣ってる」
「うーん…」
「緊張しすぎなんだよ。散々笑顔の練習したじゃん」
「だって、知らない人ばっかりで」
「当たり前でしょ。お客さんなんだから」
「…そのうち慣れるもん」
「本当かなぁ」
『世呉くん~ 遊びに来たよ』
「あ、ミサキさん。いらっしゃいませ」
『今日も格好良いね』
「ありがとうございます。ミサキさんは今日も綺麗ですね」
『ふふ』
世呉に褒められて嬉しそうに笑うこのお姉さんは、バイト初日からずっと世呉目当てで通っているお客さんだ
目がハートになってる
「ご注文はいかがなさいますか?」
『ん~そうね。アイスコーヒーにしようかな』
「かしこまりました。少々お待ちください」
『ねぇねぇ世呉くん
そろそろ連絡先教えてくれない?』
出た
お決まりのセリフ
毎回断られてるのに、諦めの悪い人だ
「すみません。店の決まりで教えられないんです」
『え~』
「もしプライベートで会うことがあれば、そのときにもう一度聞いて頂けると嬉しいです」
『プライベートで…ふふ。なんかそれ運命っぽくて良いね』
「街中で偶然出会えばお教えしますよ」
『わかった。楽しみにしてる』
「ご理解頂きありがとうございます。
お待たせ致しました。こちらアイスコーヒーになります」
『ありがと。また来るね?』
「はい。お待ちしております」
お姉さんは笑顔でコーヒーを受け取り、軽やかな足取りで去って行った
「わー…さすが世呉」
「何が?」
「結局連絡先は教えてないのに、お姉さんはすごく満足そうだったよ。
モテる男は違うね。女の人の扱いが上手」
「聞き分けの良い人で助かった」
「他のお客さんにも連絡先聞かれる?」
「何人かいるね。誰にも教えないけど」
「相手に恥をかかせず自分のこともしっかり守る…
世呉ってホストに向いてそう。すぐナンバーワンなれるね」
「香水くさいお姉さんたちに囲まれて、笑顔で愛想良く?
やればできると思うけど、したくはないな」
「嫌なの?得意そうなのに」
「香りが強すぎると頭痛くなるじゃん。しかもそういう店に来るお姉さんたちって押しが強いだろうから、長時間相手するのは疲れる」
「あぁ…確かに」
「俺は楽な気持ちで働きたい」
「この仕事は楽なの?」
「うん、結構楽しい。
向日葵は香水キツくないし。やっぱこの自然な香りが良い」
「わっ、ちょっ、匂いを嗅ぐなー!」
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