文字の大きさ
大
中
小
18 / 46
嫌じゃねぇから
「あれ…?」
目が覚めると、ベッドの中にいた。
千冬が戻るまで…、と思ってソファで横になるつもりだったのに、いつの間に?
スマホで時間を確認する。
時間は朝の6時。
俺がこんな時間に、アラームも無しに起きれるなんて珍しい。
「千冬はもう起きてっかな」
ベッドを出て、廊下に出る。家の中は静まり返っていて、リビングの扉を開けてみるが、千冬はいねぇ。
廊下に戻って、作業部屋の扉をノックする。
「千冬?またここで寝てるのか?」
返事はねぇけど、そっと扉を開けて覗く。
「やっぱり…」
日の光を嫌うような薄暗い部屋。
唯一の明かりはモニターの青白い光のみ。その前で突っ伏して眠るピンク髪には、モニタの光に照らされ不思議なグラデーションがかかっている。
眠っている顔は少しあどけないけど、やはり整っていて、本当に俺と同じ次元に生きているのかと疑うくらい、夢幻的な光景だ。
「千冬、ベッドで寝ろ。…千冬」
肩を叩くも、全く起きる気配はない。
「あんまり寝なくても平気って、ほんとか?」
俺はため息を一つ吐いて、側にあったカーディガンをかけてやる。たっぷりした生地のデカめのカーディガンだから、寒くはねぇだろ。
リビングに戻って、キッチンを拝借する。
千冬に世話になってばかりだから、今朝は俺が作ろう。
と言っても、俺は千冬みたいな料理スキルはねぇけど…。
目玉焼きと、味噌汁。
冷蔵庫の中の、目についたものを適当に火にかける。
「あと米…、あ?」
炊飯器の中にも、米びつの中にも米がねぇ。
というか、主食っぽいものが何もねぇ。
少し悩んだ末に、スマホで近くのコンビニを検索する。
「おにぎりでも買ってくるか…」
徒歩で5分ちょっとくらい。
この家のロックは暗証番号式。番号を知らない俺は、千冬が起きなければその辺を散歩でもして時間を潰すしかねぇけど…、千冬は授業あるだろうし、多分戻る頃には起きてんだろ。
千冬のスマホに出かける旨のメッセージを入れて、念の為、作業部屋のドアを開けて千冬に声をかける。
「千冬、買い物行ってくるな。戻ったら連絡するから、鍵開けてくれねぇか?」
「………」
「……ま、いっか」
上着とスマホだけ持って家を出る。
昨日は一日中家にいたし、ほぼ寝てたし、少し運動するのも悪くねぇな。
コンビニで、おにぎりを何個かと、目が合ってしまった肉まんを2つ。
「千冬、今日の授業は何限からなんだろ…」
誰に言うわけでもない独り言と共に店を出た瞬間、横から何かが思い切りぶつかり、そのまま身体を抱きしめられた。
「ぅぐッ!?」
「伊織先輩っ…!!」
「っ、ち、千冬…?」
「先輩、先輩…!どこ行っちゃったかと思った…」
「く、くるし…」
ぎゅうう、と腕の拘束が強くなる。
ここまで走って来たのか、千冬の心臓がバクバクいっている音も聞こえるし、上下する肩と荒い呼吸も身体で感じる。
しかも、声は今にも泣き出しそうな声で、震えている。
「僕が、告白なんかしたから…、我慢できなくて、手なんか握ったから…!…僕のこと、嫌になって出てったのかもって…、」
「千冬…」
ぐすぐす言っている千冬の身体を優しく叩いて、「とりあえず放せ」と伝えると、千冬は慌てて俺を解放した。
ピンクの髪は寝癖がついたままだし、服だって部屋着にダボついたカーディガン。足元も、くるぶしが見えていて寒そうだ。
「落ち着け、千冬」
「…っ、はい、…」
「俺、コンビニ行くって、連絡入れたぞ?」
「…え?…そう、でしたか……ごめんなさい…」
スマホも持たずに家を出てきたらしい千冬に、苦笑する。
慌てすぎだろ。
「俺こそごめんな。一緒に戻ろうぜ」
「…はい」
怒られた子供のように俺の横をトボトボ歩く千冬に、小さく笑う。
「お前やっぱ睡眠足りてねぇんじゃねぇの?ちゃんと休めよ」
「…ごめんなさい」
「怒ってねぇよ。今日授業、何限から?」
「伊織先輩が家にいるのに、学校なんて行きません」
「俺を口実にサボるな。バイトだってあんだろ?」
「…今日は2限だけです」
「じゃあ、朝メシ食ったら少しでもベッドで寝とけ」
「大丈夫です、僕…」
「ダメだ」
千冬の腕に触れ、顔を下から覗き込む。
「千冬のこと、…心配してんだよ」
「っ…」
「あと…、」
無防備な千冬の手に、そっと指先だけ触れた。
心臓が、ドキドキ言ってる。
「告白も、手も、……嫌じゃねぇから…」
「…え……、」
小声で呟くと、赤くなって立ち止まった千冬を取り残し、先へ進む。
「俺が寝かしつけてるから、ちゃんと寝ろよ!」
「へ……は、…?」
「あ、肉まん食うか?」
「…あ、えっと…、い、いただきます…」
「おう」
小走りで追いついた千冬の手に、温かい肉まんを乗せる。
「家着いたら、朝メシできてるからな」
「え!そうなんですか?」
「大したもんじゃねぇけど」
「ふふ、嬉しいです。ありがとうございます」
照れたように笑う千冬に、俺も笑って返す。
肉まんは、いつもよりずっと美味しく感じた。
腹が減ってるからか、それとも、千冬と一緒に食ってるからか…。
千冬といられる時間は、あと3時間。
なんか、全然足りねぇな…。
もっと、一緒にいてぇ…な。
感想 0
あなたにおすすめの小説
【完結】君を上手に振る方法
社菘「んー、じゃあ俺と付き合う?」
「………はいっ?」
ひょんなことから、入学して早々距離感バグな見知らぬ先輩にそう言われた。
スクールカーストの上位というより、もはや王座にいるような学園のアイドルは『告白を断る理由が面倒だから、付き合っている人がほしい』のだそう。
お互いに利害が一致していたので、付き合ってみたのだが――
「……だめだ。僕、先輩のことを本気で……」
偽物の恋人から始まった不思議な関係。
デートはしたことないのに、キスだけが上手くなる。
この関係って、一体なに?
「……宇佐美くん。俺のこと、上手に振ってね」
年下うさぎ顔純粋男子(高1)×精神的優位美人男子(高3)の甘酸っぱくじれったい、少しだけ切ない恋の話。
✧毎日2回更新中!ボーナスタイムに更新予定✧
✧お気に入り登録・各話♡・エール📣作者大歓喜します✧
俺にだけ可愛い幼馴染みの本性は、甘くて重い
月城雪華高校二年になって少ししたある日。
幼馴染みの聖(ひじり)が女子に呼び出された。
蓮弥(れんや)は瞬時に「ああ、告白されるのか」と理解する。
しかし基本的に「断ったよ」と報告してきて、傍にいてくれる。
これからもこうした関係が続くんだろうな、と漠然と思っていた時、蓮弥に告白してくる下級生の女子が現れた。
唐突だった事もあり、相手のことをよく知らないため「まずは友達から」と断ったものの、なぜかその日を境に聖から避けられるようになって──
癒やし系攻め×クーデレ系受けによる、青春の一幕のお話。
✼••┈┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈┈••✼
当作品は「ノベマ!」に投稿しているものですが、あちらは全年齢向けです(番外編でR‐15なお話を投稿するかも)
アルファポリスでは、本編後の番外編としてキス〜セッ久までの経過、途中で初めて(?)のデート編も書きます\アクマデヨテイデス/
入社1ヶ月のワンコ系男子が、知らずのうちに射止めたのはイケメン社長!?
monteriCM制作会社の新入社員、藤白純太は入社1ヶ月で教育係の先輩が過労で倒れたため、特別なクライアントの担当を引き継ぐことになる。
そのクライアントは、女子禁制ミーハー厳禁の芸能事務所だった。
主人公の無知で純なところに、翻弄されたり、骨抜きにされるイケメン社長と、何も知らない純太がドキドキするお話です。
※今回の表紙はAI生成です
※小説家になろうにも公開してます
親に虐げられてきたβが、Ωと偽ってαと婚約してしまった話
さるやま◆瑞希(受け)語り
□アキ(攻め)語り
攻め→→→→←←受け
眞鍋秋人(攻め)
優秀なα。真鍋家の次期当主。本質は狡くて狡猾だが、それを上手く隠して好青年を演じている。瑞希にはアキさんと呼ばれている。
高宮瑞希(受け)
Ωと偽っている平凡なβ。幼少期の経験からか自己肯定感が低く、自分に自信がない。自己犠牲的。
有栖蕾
花の精のように美しいと名高い美少年のΩ。アキさんの元婚約者(と言っても、正式な婚約関係になく、幼少期の口約束程度)であり、アキさんのことをまだ好いている。瑞希のことを秋人の婚約者として紹介され、許せない相手になった。
脱落モブ男が人気アイドルに愛されるわけがない
綿毛ぽぽ アイドルを夢見るも、デビューできずオーディション番組に出演しても脱落ばかりの地味男、亀谷日翔はついに夢を諦めた。そしてひょんなことから事務所にあるカフェで働き始めると、かつて出演していた番組のデビューメンバーと再会する。テレビでも引っ張りだこで相変わらずビジュアルが強い二人は何故か俺に対して距離が近い。
━━━━━━━━━━━
現役人気アイドル×脱落モブ男
表紙はくま様からお借りしました
https://www.pixiv.net/artworks/84182395
今日もBL営業カフェで働いています!?
卵丸ブラック企業の会社に嫌気がさして、退職した沢良宜 篤は給料が高い、男だけのカフェに面接を受けるが「腐男子ですか?」と聞かれて「腐男子ではない」と答えてしまい。改めて、説明文の「BLカフェ」と見てなかったので不採用と思っていたが次の日に採用通知が届き疑心暗鬼で初日バイトに向かうと、店長とスタッフ達とBL営業をして腐女子や腐男子たまに普通のお客様を喜ばせて!?ノンケBL初心者のバイトと同性愛者の店長のノンケから始まるBLコメディ
※ 不定期更新です。
オメガ嫌いのアルファと、嘘つきなオメガ
万里路地裏の小さなイタリアンカフェ&バー『AMBRA(アンブラ)』をワンオペで営む宮瀬琥珀(38)は、世間からベータと思われているが、実は「いつか運命の番に会える」と信じ続ける健気なオメガ。
ある日、親友のオメガ・柚希の紹介(旦那の黒塚マネージャーの推薦)で、天才的な腕を持つ若い料理人・佐伯航一郎(24)を雇うことになる。
しかし、店に現れた航一郎こそ、琥珀が三十八年間待ち続けた「運命の番(アルファ)」だった。あまりの衝撃にときめく琥珀だったが、航一郎が放った最初の言葉は「俺、オメガが死ぬほど大嫌いなんです」という強烈な呪詛。
過去のトラウマからオメガを激しく憎む航一郎を前に、琥珀の恋心は出会ってわずか五分で粉砕される。だが、彼の料理人としての才能を守るため、そして彼が抱える深い傷を察した琥珀は、「俺はベータだ」と人生最大の嘘をついて彼を雇い入れることを決意する――。
👥 主要キャラクター紹介
🐱 宮瀬 琥珀(みやせ こはく) / 38歳・オメガ
属性: オメガ(極端にフェロモンが薄く、周囲からは『ベータ』だと思われている)
職業: カフェ&バー『AMBRA』の店長兼オーナー
性格: 口は悪いが曲がったことが大嫌いな男気溢れる性格。
🐺 佐伯 航一郎(さえき こういちろう) / 24歳・アルファ
属性: アルファ(焦げたビターチョコレートのような、非常に強くて極上のフェロモンを持つ)
職業: 『AMBRA』の新人料理人
外見・性格: 身長185cmオーバー、黒いライダースが似合う鋭利で彫刻のようなイケメン。無愛想で冷徹、周囲を拒絶する「野良犬」のような目をしている。
🦊 柚希(ゆずき) / 38歳・オメガ
属性: オメガ(大手飲食グループの統括マネージャー・黒塚と番っている)
職業: 専業主婦
外見・性格: ふんわりとした栗色髪のタレ目。いくつになっても愛嬌があり、マイペース。
ポジション: 琥珀の十代からの悪友で、数少ない「オメガの親友」。琥珀の前では一切気取らず、毎度キレのあるのろけ話を投下していく良き相棒。