文字の大きさ
大
中
小
17 / 46
妬けちゃうな
ダイニングに座り、向かいの席には千冬。
机の上には、千冬お手製料理。夕飯は、鶏の照り焼きだ。
醤油ベースの甘辛いタレがマジで美味い。俺は毎日これでもいい。
「やっぱり美味ぇ…。天才か?」
「ふふ、ありがとうございます。ネットのレシピ通りに作っただけですよ」
「お前さ、顔も良くて性格も良くて料理も上手ぇ。しかも音楽もできる…」
「え!?な、なんですか急に」
「モテねぇわけがねぇよな」
「褒めてくれてるんですか…?」
「まぁな。僻みとも言う」
「ええ?」
なんつうか、千冬は器用なんだと思う。
…ほんとに俺と同じ男子大学生か?
わざと胡散臭い笑顔を返すと、千冬はクスクス笑った。
「はぁ…、でも僕が惚れられたいのは、世界中で伊織先輩だけですけどね」
「え…」
「そんなに言ってもらえるなら、期待して、いいんでしょうか?」
顔を上げると、千冬が、不敵な笑みを浮かべながら首を傾げた。ピンクの髪がふわっと流れる。
俺は、口の中の物をよく噛まないまま飲み込んだ。
「そ、そういえば、俺の相手ばっかしてて、動画の方は全然時間取れてねぇだろ?いいのか?」
「ふふ。心配してくれて、ありがとうございます。夜に作業してますから大丈夫ですよ」
「それ、寝れてんのか?」
「僕はそんなに寝なくても平気なんです。それに、投稿も、曲ができた時に上げてるだけですし」
いつの間にか俺の皿の中は、ほぼない。
また作って欲しいってリクエストしとこう。
「てかさ、千冬は顔出して動画投稿すれば、爆発的に人気出んじゃねぇの?その顔面パワーで」
「………」
「ん?なんか変なこと言ったか?」
「…あの、伊織先輩って、もしかして僕の顔、好きなんですか?」
「は?」
「さっきからすごく褒めてくれるので」
「いや、誰が見ても美形だって言うだ…ろ」
俺が話してる途中にも関わらず、千冬が俺に手を伸ばす。
俺の顎下に手を添え、軽く持ち上げると、千冬の栗色の瞳とバチっと視線が合った。
「俺の顔、見て?」
「…な、何だよ…?」
何をする気か知らねぇけど、受けて立ってやる。
そんな気持ちで、険しい顔で千冬を見つめ返す。
すると千冬は、こっくりした焦茶の瞳を細め、柔らかく微笑んだ。
俺の変な対抗意識さえ溶かすような、優しい声。
「…大好き」
「~っ、」
「顔、赤いですよ?」
「うるせ…」
目が泳ぐ。
そんなストレートに言われて、動揺しねぇ方がおかしいだろ…。
「目、逸らさないで。俺の顔、見て」
「……っ、」
「ふふ、先輩、かわいい」
「……もう、いいだろ」
千冬の手をやんわりどけて、顔ごと逸らす。
千冬の表情はどんどん生き生きしてきて、それに比例して、俺の顔は火照って、鼓動も高鳴った。
…俺、千冬の顔が好きなのか…?
「いいこと知りました」
「うるせぇ」
なんか負けた気がして、話題を逸らす。
千冬に断り冷蔵庫を開けると、俺が厚海で買った、カゲヤン達の土産のプリンが綺麗に並んでいる。
「カゲヤン達のお土産のプリン食うぞ」
「え!食べちゃっていいんですか?」
「いい。もう期限近ぇし。アイツらもプリンくらいでごちゃごちゃ言わねぇし」
「そういうものですか…?」
「うるせ!お前のせいだからな」
「ええ~?」
そう言って千冬の前にプレーンとかぼちゃ味のプリンを置き、蓋を開ける。
「ほら、俺が食わせてやる。食え、ガキンチョ」
「え…」
「……えっと、…あ、…あーん………」
「………」
スプーンにひとすくいして、千冬の口元に近付ける。母親が小さい子供にやるみたいに。
仕返しのつもりで仕掛けたけど、……ものすごく恥ずかしい。
情けねぇことに、顔は赤くなるし、声も弱々しくなる。
千冬の反応がないのが、余計、羞恥心を煽られ、上目遣いになりながら様子を伺った。
「食べねぇの…?」
「…っ、…わいい……」
「え?」
「かわ、いい…っ!もう…、やめてください…!我慢してるって、言ったじゃないですか…!」
手で顔を隠し、顔を逸らす千冬。
指の間から覗く頬は赤くなっている。
……仕返し、成功…なのか?
千冬に差し出していた一口を、自分で食べる。
千冬に勝ったらしい喜びと、甘いプリンが口の中で蕩ける食感に、頬が緩む。
「フッ、あまり年上をからかうなよ?」
「……」
とりあえず勝利宣言。
赤い顔のまま、ジトっとした目で俺を見る千冬を他所に、俺は自分の分のプリンを食べ始めた。
うまぁ。
*
プリンを食べ終えた後は、千冬は風呂。
俺は皿洗いを終わらせて、ソファでスマホを見ていた。
YouTubeで、「フユ」と検索する。
表示された動画一覧の中から、千冬のオリジナル曲を選んで再生していく。
「……優しい、声…」
ギターの音色と、千冬の声に聴き入る。
千冬の動画は、特に喋ることもなく、演奏して、歌うのみ。
それでも10万前後は再生されているし、コメントも寄せられている。
固定ファンが、ちゃんと付いてんだろうな…。
興味が湧いて、動画についたコメントも眺めてみると、千冬を恋慕うようなコメントも散見される。
ラブソングの時なんかは、特に多い。
なんか、ちょっと、つまんねぇ感じがする。
「…千冬にとっては、大事なファン…だもんな…」
モヤモヤした気持ちを割り切るように呟き、コメント欄を閉じる。
千冬の甘く響く優しい声に、胸の内側を撫でられる。
「…指、きれい……」
画面に映るのはギターを弾く手元のみ。
弦を抑える細長い指と、手の甲には時折血管の凹凸が浮かぶ。
千冬の、手……。
手を繋いだ時の感触を思い出して、鳩尾のあたりがきゅんとする。
…もう一度、手をつなぎたい…。
体温がじりじり上がって、頭の中はぽわんとしてくる。
自分の手を無意識に口元に当てた、その時。
背後から伸びてきた手に、スマホを取り上げられた。
「千冬、出てたの…か、っ…」
振り返ると、風呂から上がったばかりの千冬が、至近距離にいた。
背もたれに肘をつき、頭を乗せて俺の顔を覗く。
「本物はこっちですよ。……妬けちゃうな」
水分を含んだピンクの髪と、ほんのり赤く染まる湿った肌。甘い目元と、いじわるそうに微笑む唇。
掠れた声が、俺の背中をゾクゾクさせる。
「……ごめ、ん…」
硬直したまま口走る。
なんで謝っているのか、自分でも分からねぇ。
「歌が聴きたいなら、僕に言ってください」
千冬は、愛おしそうに俺を見つめながら、取り上げたスマホを俺の手に戻す。
「いつでも、先輩のためだけに歌いますから」
清潔な石鹸の香りの中に混ざる、危なげな色気を感じて、俺の心拍数が勝手に上がっていく。
顔、熱ぃ……。
「ありがと…な。……髪、早く乾かしてこいよ」
「はい。そうしますね」
立ち上がった千冬は、いつものような可愛らしく微笑みだけを残して、背を向ける。
「ふぅ……」
千冬の背中を見送って、俺はため息をついた。
ソファにドサリと倒れこむ。
今日1日が、濃過ぎた。
千冬に告白されて、混乱して泣いて。
それから、手を、繋いだ。
「なんか…熱ぃ……」
熱を持つ頭を休めようと、目を瞑っても、思い出すのは千冬のことばかり。
甘い微笑み、優しい声、手の温度……。
心臓がトクトク鳴る。
そんなつもりはなかったはずなのに。
千冬の言葉が、行動が、俺に千冬を意識させていく。
「……好き、なのか?…俺……」
熱くなる顔を腕で隠し、自問自答する。
…好き、なの、かも……。
また深いため息をついて、思考の海に沈む。
結局俺は、そのまま眠りに落ちていった。
感想 0
あなたにおすすめの小説
【完結】君を上手に振る方法
社菘「んー、じゃあ俺と付き合う?」
「………はいっ?」
ひょんなことから、入学して早々距離感バグな見知らぬ先輩にそう言われた。
スクールカーストの上位というより、もはや王座にいるような学園のアイドルは『告白を断る理由が面倒だから、付き合っている人がほしい』のだそう。
お互いに利害が一致していたので、付き合ってみたのだが――
「……だめだ。僕、先輩のことを本気で……」
偽物の恋人から始まった不思議な関係。
デートはしたことないのに、キスだけが上手くなる。
この関係って、一体なに?
「……宇佐美くん。俺のこと、上手に振ってね」
年下うさぎ顔純粋男子(高1)×精神的優位美人男子(高3)の甘酸っぱくじれったい、少しだけ切ない恋の話。
✧毎日2回更新中!ボーナスタイムに更新予定✧
✧お気に入り登録・各話♡・エール📣作者大歓喜します✧
俺にだけ可愛い幼馴染みの本性は、甘くて重い
月城雪華高校二年になって少ししたある日。
幼馴染みの聖(ひじり)が女子に呼び出された。
蓮弥(れんや)は瞬時に「ああ、告白されるのか」と理解する。
しかし基本的に「断ったよ」と報告してきて、傍にいてくれる。
これからもこうした関係が続くんだろうな、と漠然と思っていた時、蓮弥に告白してくる下級生の女子が現れた。
唐突だった事もあり、相手のことをよく知らないため「まずは友達から」と断ったものの、なぜかその日を境に聖から避けられるようになって──
癒やし系攻め×クーデレ系受けによる、青春の一幕のお話。
✼••┈┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈┈••✼
当作品は「ノベマ!」に投稿しているものですが、あちらは全年齢向けです(番外編でR‐15なお話を投稿するかも)
アルファポリスでは、本編後の番外編としてキス〜セッ久までの経過、途中で初めて(?)のデート編も書きます\アクマデヨテイデス/
入社1ヶ月のワンコ系男子が、知らずのうちに射止めたのはイケメン社長!?
monteriCM制作会社の新入社員、藤白純太は入社1ヶ月で教育係の先輩が過労で倒れたため、特別なクライアントの担当を引き継ぐことになる。
そのクライアントは、女子禁制ミーハー厳禁の芸能事務所だった。
主人公の無知で純なところに、翻弄されたり、骨抜きにされるイケメン社長と、何も知らない純太がドキドキするお話です。
※今回の表紙はAI生成です
※小説家になろうにも公開してます
親に虐げられてきたβが、Ωと偽ってαと婚約してしまった話
さるやま◆瑞希(受け)語り
□アキ(攻め)語り
攻め→→→→←←受け
眞鍋秋人(攻め)
優秀なα。真鍋家の次期当主。本質は狡くて狡猾だが、それを上手く隠して好青年を演じている。瑞希にはアキさんと呼ばれている。
高宮瑞希(受け)
Ωと偽っている平凡なβ。幼少期の経験からか自己肯定感が低く、自分に自信がない。自己犠牲的。
有栖蕾
花の精のように美しいと名高い美少年のΩ。アキさんの元婚約者(と言っても、正式な婚約関係になく、幼少期の口約束程度)であり、アキさんのことをまだ好いている。瑞希のことを秋人の婚約者として紹介され、許せない相手になった。
脱落モブ男が人気アイドルに愛されるわけがない
綿毛ぽぽ アイドルを夢見るも、デビューできずオーディション番組に出演しても脱落ばかりの地味男、亀谷日翔はついに夢を諦めた。そしてひょんなことから事務所にあるカフェで働き始めると、かつて出演していた番組のデビューメンバーと再会する。テレビでも引っ張りだこで相変わらずビジュアルが強い二人は何故か俺に対して距離が近い。
━━━━━━━━━━━
現役人気アイドル×脱落モブ男
表紙はくま様からお借りしました
https://www.pixiv.net/artworks/84182395
今日もBL営業カフェで働いています!?
卵丸ブラック企業の会社に嫌気がさして、退職した沢良宜 篤は給料が高い、男だけのカフェに面接を受けるが「腐男子ですか?」と聞かれて「腐男子ではない」と答えてしまい。改めて、説明文の「BLカフェ」と見てなかったので不採用と思っていたが次の日に採用通知が届き疑心暗鬼で初日バイトに向かうと、店長とスタッフ達とBL営業をして腐女子や腐男子たまに普通のお客様を喜ばせて!?ノンケBL初心者のバイトと同性愛者の店長のノンケから始まるBLコメディ
※ 不定期更新です。
オメガ嫌いのアルファと、嘘つきなオメガ
万里路地裏の小さなイタリアンカフェ&バー『AMBRA(アンブラ)』をワンオペで営む宮瀬琥珀(38)は、世間からベータと思われているが、実は「いつか運命の番に会える」と信じ続ける健気なオメガ。
ある日、親友のオメガ・柚希の紹介(旦那の黒塚マネージャーの推薦)で、天才的な腕を持つ若い料理人・佐伯航一郎(24)を雇うことになる。
しかし、店に現れた航一郎こそ、琥珀が三十八年間待ち続けた「運命の番(アルファ)」だった。あまりの衝撃にときめく琥珀だったが、航一郎が放った最初の言葉は「俺、オメガが死ぬほど大嫌いなんです」という強烈な呪詛。
過去のトラウマからオメガを激しく憎む航一郎を前に、琥珀の恋心は出会ってわずか五分で粉砕される。だが、彼の料理人としての才能を守るため、そして彼が抱える深い傷を察した琥珀は、「俺はベータだ」と人生最大の嘘をついて彼を雇い入れることを決意する――。
👥 主要キャラクター紹介
🐱 宮瀬 琥珀(みやせ こはく) / 38歳・オメガ
属性: オメガ(極端にフェロモンが薄く、周囲からは『ベータ』だと思われている)
職業: カフェ&バー『AMBRA』の店長兼オーナー
性格: 口は悪いが曲がったことが大嫌いな男気溢れる性格。
🐺 佐伯 航一郎(さえき こういちろう) / 24歳・アルファ
属性: アルファ(焦げたビターチョコレートのような、非常に強くて極上のフェロモンを持つ)
職業: 『AMBRA』の新人料理人
外見・性格: 身長185cmオーバー、黒いライダースが似合う鋭利で彫刻のようなイケメン。無愛想で冷徹、周囲を拒絶する「野良犬」のような目をしている。
🦊 柚希(ゆずき) / 38歳・オメガ
属性: オメガ(大手飲食グループの統括マネージャー・黒塚と番っている)
職業: 専業主婦
外見・性格: ふんわりとした栗色髪のタレ目。いくつになっても愛嬌があり、マイペース。
ポジション: 琥珀の十代からの悪友で、数少ない「オメガの親友」。琥珀の前では一切気取らず、毎度キレのあるのろけ話を投下していく良き相棒。