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第二章
第8話 すくえない想い
しおりを挟むジュワッと、フライパンから水分が飛ぶ音。ハムと目玉焼きが焼けるまでの間にプレートにサラダを盛り付ける。
時刻は7時過ぎ。俺は好きな奴のことを考えながら、朝食作り。当の本人、陸はまだ夢の中。でも陸のスマホのアラームは既に2回ほど鳴っている。そろそろ3度目が鳴って…
ピピピピピピ
「………ぅ゛~…」
静かな朝陽が差し込む緑のカーテンの下、もぞもぞと動く布団の膨らみ。朝日を嫌うかのように、布団の中からは、白い右腕だけがニョキっと出てくる。
枕元近くを彷徨っていた手は、お目当てのメガネを掴むと、またズズズっと戻る。
おそらく、じきにメガネをかけた陸が顔を出すだろう。
「今度、枕元にパーティーメガネでも置いといてやるかな…」
鼻と髭がついてるやつ。
それを付けて起きてくる陸を想像して、一人ニヤける。
あ、いけない、目玉焼きが半熟じゃなくて、よく焼きになってしまう。
フライパンの火を止め、プレートに目玉焼きを移すと、ちょうどトースターが、トーストの焼き上がりを知らせる上機嫌な音を鳴らした。
「よしよし、今日も上出来~。自分の器用さが恐ろしい~」
ハムエッグとサラダ、トーストという簡単なメニューではあるけど、塩握りと食パンに比べれば、かなりハイレベルな朝食になったと言える。
俺の計算では、このタイミングで、陸が言えてんのか言えてないのか微妙な朝の挨拶をしてくるはずなんだけど…。
布団に視線を戻すと、眼鏡をかけた陸がその場で正座してスマホを耳に当てていた。どうやら着信があったようだ。
「はぃ…、わかり、ました…ぐぅ」
ガタン
スマホは手から落ちて、耳に手を添えてるだけになった。目は開いてない。
大丈夫かよ?
「楓、ゴールデンウィークの予定、何かあるか?」
先日買ったゆげまる服を着た陸が、サラダを口に運ぶ。手には赤のゆげまる箸。俺の手にも、青の、同じもの。
それだけで口の端が緩む。
「帰省しようかと思ったけど、親も旅行だし、帰るのやめたとこー」
「そうか。良かった」
「え、なんで?」
陸が眼鏡の縁を、折り曲げた人差し指の背で押し戻し、トーストに手をつける。
眼鏡を直すときの癖、俺以外に、あと誰が知ってんのかな。少なくともこの学校の中では、俺だけだと嬉しい。…俺だけがいい。
「さっき前野先生から電話があった。ゴールデンウィーク中にこの部屋の中の修繕工事があるらしい。」
「え!マジで!?じゃあ階段も直るんだ!?2階も使えるようになるんだ!?よっしゃー!」
踏み板が割れ落ち、キープアウト状態になっている階段。2階にはベッドがあるらしいから、階段が直れば、この寝心地の悪いせんべい布団ともお別れできる…!
「ああ。それで、工事は前野先生が立ち会うが、俺たちは学校外で泊まり込みのボランティア活動をするよう言われて、……多分、承諾した。寝ぼけていてよく覚えてないが…」
うん、多分承諾してた。
寝起きの陸の「わかり、ました」という寝言のような返事を思い出す。
「はぁ、今度は何やんのー?」
「…すまない、あまり覚えてない」
「おい」
ツッコミを入れ、怠そうな視線を陸に投げる。陸は箸で目玉焼きの黄身を割っている。とろりと絵の具のような真っ黄色が広がったのをみて、俺は心の中でガッツポーズをする。
今日も半熟目玉焼きは成功。
俺はよく焼き派だけど。
「そうだ。『さくら乃宿』って知ってるか?」
思い出した、というように陸が声を上げた。
「知ってる。ってか、この町の温泉宿で1番大きいとこじゃん。有名だよね~」
「確か、そこに寝泊まりすると言っていた。特別に温泉に入れるって…」
「マジで!?めっちゃいいじゃん!」
「…言っていたような…夢だったような…」
「…陸、もう寝起きに電話とるの、やめといた方がいーよ」
「ああ、すまない」と小さく項垂れた陸は、半熟の目玉焼きを口にすると微かに口角を上げ、照れたような表情でこちらを見た。
「楓、朝食、ありがとう。…美味しいな」
「…どーいたしまして」
俺も半熟目玉焼きを箸で口へ運ぶ。
とろりと、口の中に幸せが広がった。
朝食でのんびりしてしまった分、焦り気味に身支度を整えた俺たちは、小走りで校舎へ向かった。
教室に入ると、玉置と篠岡が手を挙げて挨拶をしてくる。
「おはよ~」
「はよっ!」
いつも通り、俺は「おー」と適当な返事、陸は「おはよう」としっかり挨拶。荷物を机に置くとすぐに予鈴が鳴ったので、とりあえず席に着いた。
ふぅ、と一息ついて荷物を片付けようと手をかけたところで、机の隅がコンコンと叩かれる。斜め前の席の篠岡が、俺に振り向いていた。
「千秋、昼休み、話がある」
そう言って、パチンとウィンクをすると体を前に戻す篠岡。
やってることは気障だけど、妙にモデル顔なせいか、様になっている。…気障だけど。
「ショートホームルーム始めるぞー」
丸先生が教室に入ると、ざわざわしていた教室は途端に静かになる。先生の声だけが響く教室で、俺は無意識に隣の席の陸を見た。いつも通り、背筋をピンと伸ばして座っている。
相変わらず、綺麗な横顔。
幽霊小屋で見るどこか無防備な陸も好きだけど、教室で見る凛とした陸も好き。
窓の向こうの青空を背景に、陸の白い肌が美しく映える。思わず見惚れてしまう。
ふと、陸が俺の視線に気付いたのか、目が合う。
無言のまま、「どうかしたのか?」と尋ねるかのように目をぱちくりさせる陸。
「見惚れてただけ」、なんて、言えるわけがない。
俺はただ「別に?」と言うように小さく眉を動かす。何事もなかったかのように、視線は教壇に戻した。
好き、って、止まらない。
ずっと、ドキドキ、ふわふわ。
好きな人が近くにいるだけで、世界の景色が違ってみえる。いつもなら怠いだけのこのホームルームの時間も、窓から射す朝日を爽やかに感じて、心地いい。
こんな浮かれた気持ちの自分、自分じゃないみたい。
自分の中から、好きが溢れて、陸に伝わらないか心配になる。
陸のことは好きだけど、好きだからこそ、今のこの距離感を、壊したくない。
でも…。
…もし、気持ちを打ち明けたら。
…陸は、受け入れてくれる、かな…。
「朝の連絡事項は以上。」
「起立!」
丸先生の言葉に、日直が号令をかける。椅子から立ち上がり、俺は、また陸を盗み見た。サラリと黒髪が揺れる。
きっと陸は、気持ちを打ち明けても、俺を傷付けるようなことはしないと思う。そういう奴だし。
「礼、…着席」
てゆーか、陸って、好きなやつとか、いんのかな…。
午前の授業が終わると、教室は少し閑散とする。学食に行く生徒が多いから。俺たち4人は、購買で買って教室で食べることが殆ど。
今日は、俺は和風パスタ。陸は鮭弁当。玉置は春雨スープとフルーツサンド。篠岡は…いつも通りカツサンド。今日もかよ。
俺が思ったことと同じことを、ちょうど玉置が言った。
「篠岡、毎日それで飽きない?」
「これが一番食べた感じがするんだよ~。玉置こそ、そんなんで足りんの?OLみたいだぞ?」
「OLの昼食事情なんて知ってんの?」
「ドラマで観た!」
グッと親指を立てる篠岡。
ドラマはフィクションだけどね。
「それより千秋!朝言った、話ってのがさ、千秋に頼みがあんだよー」
篠岡は印象的な目を俺に向け、拝むように俺に手を合わせた。
「ゴールデンウィークの合宿、一緒に来てくれ!」
「合宿?」
「そ!『星空研究会』の合宿!」
「星空研究会」って、篠岡が所属している同好会だっけ?なんでまた…
「天音百合羽《あまね ゆりは》先輩って、知ってるだろ?」
「…知らないけど」
「ええ~~~!?マジかよ!?」
本当に知らない。有名なの?
陸と目を見合わせるけど、陸もピンと来てない様子。玉置を見ると、少し考えた後、「それって」と口を開く。
「芸能クラスのアイドルみたいな女の人?3年生の、クラス長やってる…」
「そーー!まさにその人!スタイル良くて、マジかわいい人な!」
「あ~、思い出した。篠岡、星なんて興味ないくせに、その人目当てで同好会入ったって言ってたよねぇ」
玉置の見当は見事当たったようで、篠岡はテンションを上げて、椅子から立ち上がる勢いで玉置に言った。
玉置も玉置で、過去に篠岡がその人の話題を出したことを思い出したようだ。
うーん、確かにそんなようなことを言ってたような…。
「その天音先輩がどうしたんだ?」
「…」
陸が鮭の切り身をほぐして、話の続きを促すと、篠岡は少しつまらなそうな表情になる。落ち着きを取り戻し、またカツサンドを一口食べて、続けた。
「…その天音先輩がさ、研究会の合宿に、千秋を呼んでって、言うんだよ…。この、俺に!!」
「俺に」を強調して机を拳で叩く篠岡。先ほどの沈黙は、この演技がかった嘆きを際立たせるための、演出だったんじゃないかと思える。玉置はそんな篠岡を冷めた目で見ながら春雨スープを啜っている。慣れってやつね。
「千秋~、なんでなんだよォ!お前いつ、天音先輩に認知されたんだ~?しかも俺に、この、俺に!キューピッド役なんかさせてよォ…!」
「えー?知らねーよ…」
今度は悲劇のヒロインのように、おいおいと泣く仕草を交えながら俺に詰め寄る篠岡。俺に訴えられても、何ともしようもないし。それに俺は、そんな先輩には興味はない。だって、俺が好きなのは…。
チラリと横の陸を見る。
陸が今、どんなこと考えて、この話を、どう思ってるのか。それしか気にならない。
じっと見つめる俺の視線を、なんと受け取ったのか、それとも篠岡への助け舟のつもりか、陸は微笑んで口を開いた。
「楓、『さくら乃宿』は俺1人で行くから、合宿の方に行っても構わない。前野先生にも、そう伝えておく」
え。
ズキンと、俺の胸は痛む。
パスタをフォークに絡めていた手が止まる。
…そういうこと言われるのが、一番堪えるんだけど…。
そんな俺の心中を知る由もない陸は、優しく微笑んで俺を見つめた。
…おもしろくねー。
視線を手元のパスタに戻し、なにも気にしてない様子を装う。結構傷ついてるけどね。
「…いい。俺は、星より、温泉の方がいいから。…合宿はいかない。」
「え、そうなのか?」
合宿の件はサラッと断るつもりだったのに、妙に拗ねたような口調になってしまう。
やはり陸は、俺が研究会の合宿に行きたがってると思ったのか、意外そうな反応をする。
陸は、俺が陸の嬉しそうな顔が見たいから、半熟の目玉焼きの練習をしたことなんて、一生知らないんだろうなー…。
不機嫌さの混じった視線を、陸に送る。
俺のこの気持ちは、片思いでしかないんだから仕方ない。
そう頭ではわかっていても、これ以上、「陸は俺を何とも思ってない」って、突き付けないでほしい。
切なさを誤魔化すように、パスタを一口、口に放り込んだ。
「はァ!?千秋、お前正気か!?…ハッ!もしかして、…もう彼女いる…とか!?」
「いねーけど、さ。そういうの、怠い」
「わ~、千秋、気取り屋さん?」
「なんだとっ…!?千秋、お前ウザいぞ…!?」
すかさず茶化す玉置と、しれっと悪口を言う篠岡。でもそんなことはどうでもいい。怠いって言うのは、本当だし。
「なんとでも、どーぞ仰ってくださーい。俺、そういうの向いてないの」
今まで、告白されて付き合った経験はある。でも、そうやって「俺を好き」って言ってくる奴は、俺の「上っ面が好き」なだけ。
本当の俺はもっと、空っぽで、情けない。自分でも嫌気がさすほどに。
結局「上っ面だけ」の付き合いしかできないから、続かない。相手も、なにか違うって感じるみたいだし、俺も面倒になって、別れることになる。
でも、陸は…。
「向き不向きとか、あるぅ?」
「そういうものなのか?」
「人類の敵~!」
「うるせー。てか人類の敵って何?」
…陸は、俺の「上っ面」が崩れかけた時も、否定せずにいてくれた。
もちろんわかってる。俺みたいな薄っぺらでつまらない人間を、好きになる物好きなんて、いるわけないことくらい。俺の中身全部を曝け出したら、嫌われるに決まってる。そんな惨めな思いはしたくない。
でも、自分を隠してでも、陸にはそばにいて欲しい。そう思っちゃったんだ。
「ははーん?さては千秋。お前、恋愛初心者だな?いいぜ、俺が教えてやるぜ?」
「篠岡も詳しそうには見えないけどねぇ~」
「いーや、俺は勉強してっから!ドラマで!」
またもグッと親指を立てた篠岡に、玉置が「ドラマはフィクションだから!」と笑う。二人のテンポのいいやり取りに、陸もつられて笑っている。俺も、小さく笑う。
「てかさ、天音先輩でダメってんならさ、お前ってどんなのが好みなんだ?」
「だーかーらー、そういうのは…」
「わかってるわかってる。楓ちゃんがカッコつけたいお年頃なのは。でも、好みくらいあんだろ?例えばどう?可愛い系より綺麗系?」
その話は終わったんじゃないの?
まだ俺に話を振る篠岡に、玉置もいたずらっぽい目で俺を見ている。陸は、いつも通りの涼しい顔で、白米を口に運びながら俺を見た。
なんだよ、だから俺が好きなのは陸だってば。
「…そーだね、綺麗系、かな。」
陸の目を見る。
いっそ、伝えてしまおっか?
「他には他には?」
「…綺麗な黒髪」
「おうおう!清潔感あっていーよな!」
「吊り目」
「ツンとした感じな!かわいいよな!」
「瞳も黒」
「なんだよ、結構具体的な好みあんじゃん~!」
陸から視線をそらさず篠岡の質問に答える。陸は「ふーん」と呑気に聞き続けるだけ。…俺の方が恥ずかしくなってきたんだけど…。
しかし、そこまで愉快そうに話を聞いていた玉置が、フルーツサンドを食べる手をピタリと止めた。俺と陸を交互に見て、困惑した顔で俺を見つめた。
…俺は、何も答える気は無いから。ご想像にお任せします。
「んん?てかさ、今の千秋の好みって…」
「し、篠岡!僕飲み物買いに行きたいから一緒に来て!」
「はぁ?今?1人で行けよ~」
「い・い・か・ら!」
何か言いかけた篠岡を、玉置が強制連行する。騒がしい2人が席を立つと、俺と陸と、昼休みの教室のざわめきだけがその場に残った。
2人の姿が完全に見えなくなると、陸が沈黙を埋めるように口を開いた。
「楓、さっきのゴールデンウィークの件…、良かったのか?」
まだそれ言う?
俺の告白紛いの、好きなタイプの列挙も、陸には届かない。こんな遠回しじゃダメなんだ?
「…俺は、陸と行く」
「そうか。俺も、楓と一緒に行けるなら、嬉しい。楽しみだ」
新緑の香りが、窓の外から風に乗って運ばれる。
風に誘われて陸の顔を見ると、無邪気な笑顔。
トクンと鳴る胸。
…そんな風に綺麗に笑うなよ、もっと好きになっちゃうから。
もどかしさと一緒に、パスタを飲み込む。
ときめきと、切なさが、ないまぜになった、複雑な気持ち。
陸から目を逸らし、ペットボトルの蓋を開け、呟くように聞く。ここまで来たなら、もう少しだけ、踏み込んでみようって思った。
「…陸って、好きなやつとかいる?」
「…へ!?お、俺か!?」
「お前以外に誰がいるんだよ」
ヘラっと笑いながら、ただの雑談のフリをする。本当は、緊張で喉がカラカラ。好きなやつ、いるって言ったら、どうしよう?でもそれが俺だったら、嬉しい。…なんて、そんな望みなんてないって、頭では分かってるのに。
水を一口飲むけど、喉の渇きは解消しない。
陸は恋愛話には慣れてないのか、動揺して顔が真っ赤だ。
さっき、そんな反応を見せてくれたら、嬉しかったのに。
「俺は、いない…な。」
「…じゃあさ、もし、友達だと思ってた人に告白されたら、どーする?」
「ええ?うーん…」
何を期待して聞いてるんだよ。やめろよ、俺。
陸の手元を見ると、残り少ない鮭弁当に箸を向けたまま、手は止まっている。
眉間に皺を寄せて、考え込んでいる。仮定の話なのに、真面目な奴。そういうところが、いいんだけど。
「俺は…、好きとかよくわからないが、…」
ごくりと生唾を飲み込む。
陸の答えの続きを待つ。
「……断る、と思う。大切な友人なら、尚更。」
頭を思い切り殴られたようなショック。
断る。友人なら、尚更。
…真面目な奴。律儀な奴。そういうところ、…本当、陸らしい。
「…そっか。」
分かってたじゃん、陸がそういう奴だってこと。なにショック受けてんだよ。勝手に浮かれてたのは、自分じゃん。
少しだけ、視界が滲む。
フォークを持つ手が止まる。
黙り込んだ俺の横で、最後の一口を食べ切ったのか、弁当のゴミを片付け始める陸。沈黙のまま、昼休みは終わりに近付いていく。
「楓?大丈夫か?」
呆然としていると、陸が俺の机に手をつき、横から覗き込んだ。窓からの逆光を背負って、でも凛とした目は、いつものように澄んで美しい。
心配して俺を見つめる黒い瞳に、ダメだとわかっていても、心が、またときめいてしまう。
美しくて、残酷で、…でも好き。
好きなのが、やめられない。
「…だいじょーぶ、眠いだけ。」
絞り出すようにそれだけ言うと、プラスチック製の薄く頼りないフォークを、クルクル回してパスタを絡めとった。もうパスタの味なんて分かんないし、食べる気はしないけど。
向こうの教室で、誰かが楽しそうに笑う声が聞こえる。パタパタと廊下を走る音。静かに本を捲る音。誰かのスマホから漏れる音楽。
誰もが和やかに過ごしている、いつもの昼休み。
結局俺は、自分の空虚さは隠したまま、一人でいるのが似合っている。
期待して、陸に告白して、フラれて、惨めな思いをしなくて良かった。
無心でフォークを動かす。パスタの最後の一本だけが、どうしても上手く絡まらない。何度巻き上げようとしても、スルリと抜けて落ちる。俺の思い通りにならないそれは、隣にいる綺麗な瞳を連想させる。
不毛だ、こんなの。
カランとフォークをプレートに落とす。
掬えないパスタも、報われない想いも、全部捨ててしまいたい。
席を立ち、ぐしゃりと、プレートをゴミ箱に押し込む。
ゴミは処分した。でも、席に戻ると嫌でも目に入る、黒い頭。もう嫌なのに、また、胸はときめきを伝える。
この気持ちは、どうやったら消せるんだよ。
持ってても辛いだけなのに。
「…くそっ、」
救われない、
哀れな片思い。
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