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3 ハンカチ
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「ここはただの路地裏だ。今からわたしの家に行こうと思っているのだか、行けるか?」
シルクは金髪のくりくりとした髪をさすりながらそう言った。
「いやぁ、行けそうにないかも……。」
ぼくは今までの出来事で頭の中が混乱しすぎて、もはやなにも残っていなかった。よみがえった記憶もなくなりそうなぐらいだ。
「では、ちょうど近くにある宿に泊まろうか。」
「うん。」
そしてぼくたちは宿に泊まることにした。
と、急にぽつぽつと雨がふってきた。シルクがいっていた宿は本当に近くにあったので、雨にぬれることはほとんどなかった。この宿は、宿というより、ただの空き家のようなものだ。かなり古く、寝ていたら小雨でも起きてしまうくらいだ。
宿の中のひと部屋にはいってから、ぼくはしばらく外を眺めてみることにした。
不思議だ。雲がひとつもない。なのにあまあしは強まるばかりだ。
雨が地面を激しくうちつける。この家、本当に大丈夫なのか?
ぼくは一晩中心配して、なかなか眠れないはめになってしまった。
朝になった。だが空はずっと暗いままだ。
「ああ。行けるかどうか、だなぁ。」
と、シルクがうめいた。
「まあ、ずっとここにとじこもっていてもなにも起きん!な、アーノルドくんよ。」
「ああ。」
シルクはなんだかよくわからない人だ。
そして、朝とは思えないほど暗いなか、ぼくたちは宿を出発した。
住宅街をしばらく歩いていたら、急に広い道路に出た。そしてその道路をしばらく歩くと、行き止まりのようにしてそびえ立つトンネルがあった。トンネルの部分だけ沈み込むような形をしていて、トンネル自体は小さいが、まわりのコンクリートがかなりの面積をとっている。
「ああ。不安が的中した。トンネルが浸水している。」
シルクが暗い顔でそう言った。確かに茶色の水がトンネルをほとんどうめつくしている。
「わたしは別に行けるのだが、ジェム、きみはどうやって行こうか。」
シルクは辺りをしばらく見回した。静かな時間だけが過ぎていく。───と、
「ああ!なぜ今まで気付かなかったのか。あんなところに建物があるぞ!ジェム、幸運を祈る!あの建物をぬけて向こう側に出られることを!」
「う、うん。」
ぼくはとまどいながら言った。
「では、行ってくれ!」
ぼくは、やけに興奮しているシルクをおいて、謎の建物へむかっていった。
シルクを長い間おいていたらどうなるか想像がつかない。
もしかしたらどこかににげていて、すべてが水の泡になってしまうかも──。ぼくがそんなことを考えていたら、いつのまにか建物についていた。建物は思ったよりも大きく、色は灰色で、新しくも古くもなさそうな感じだ。ドアが開いていたのですんなりと入ることができた。
建物に入って中を見ると───階段があった。ひとまず安心だ。したを見てみると、段ボール箱やプラスチックの箱が大量にあって、それぞれいろいろなものが入っていた。なにも入っていないものもある。
そして、階段に向かおうと、ぼくは歩き出した。と、突然、自分の足に何かが当たった。なんだ?!そんなに痛くはないが、まわりには誰も人がいないはずだからとても怖い。いったい……
ぼくがしばらく辺りを見回していたら、近くにある段ボール箱がカサッと動いた。風か? でも、風は全くふいていない。おかしい。ぼくはその段ボール箱に目を光らせた。
しばらく待った。だが、なにも起きそうにない。
ぼくはやっとあきらめて、階段に行こうとした。と、そのとき、段ボール箱が高くジャンプした!あれは明らかにジャンプしている。だが、まだぼくは信じられなかった。もしかしたら頭がおかしくなりすぎて幻覚でも見たのかも知れない。だが、それはちがった。今度はプラスチックの箱がジャンプしたのだ!絶対そうだ!まちがいなく!
ここにあるものは生きているのだ!
そう確信した瞬間からまわりにあるものがすべてくるいだしたかのように動き出した。地面をぐるぐるしているものもいるし、しきりにジャンプをしているものもいる。だが、ぼくに強く体当たりして来るものはいなかった。たまに体当たりしてくるものもいたが、とても弱かったので気にしなかった。
ぼくは階段に向かおうとしたのだが、まわりにあるものを踏まないようにするのに必死でなかなか進めなかった。何回かこけそうになったこともあったが、決してものを踏むことはなかった。
ああ。つかれた。やっと階段にたどり着いた。そこまで距離ははなれていなかったはずなのに、とてもつかれている。だが幸運なことに、階段にはひとつもものがなかったのでゆっくりのぼることができた。さて、次の踊り場もなかなか混雑している。
やっと最初の階段を上り終えた。よし。と踊り場に足を踏み入れた。最初の一歩をふみいれるのが難しかったが、ものの数分でふみいれることができた。
そして一歩、一歩とさっきと同じように進んでいたら、
バチン!!
ぼくの顔を何かが強くひっぱたいた!痛い!
ぼくは急いで辺りを見回した。すると、何かが遠くに見えた───ハンカチだ。ぼくをひっぱたいたのはハンカチだ!
ああ!やってしまった!さっきの反動でこけて、段ボール箱をいくつかつぶしてしまった!つぶれた段ボール箱は動いていない。ぼくは泣きそうになった。
すると、またハンカチがバチン!!とさっきよりも強くひっぱたいてきた!ぼくの悲しみがすっと怒りに変わった。その怒りはすさまじかった。今までにないくらいすさまじかった。
ぼくはあのふわふわした布切れがどこにあるのかと、必死に目をこらした。
きた!!あそこだ!!
ぼくは集中し、どんどんせまってくる布切れを目で追いかけた。
くる!!くる!!
よし!!捕まえた!!
ぼくは今までにないくらいの力で布切れをにぎりしめた。
もう、ぼくを止めるものはだれもいない!
ぼくはきたない布切れを両手で持ち、真ん中のあたりに爪をたてた。そして、あらん限りの力で両方向にひっぱった。
ビリビリ……
そしてもう一度、むさぼるように引き裂いた。
引き裂かれた布切れは力なくひらひらと落ちていった。
まわりにあったものたちもひとつも動かなくなった。
聞こえるのは、ぼくの荒い息だけ。
ぼくはそのまま、静かな倉庫の階段をのぼっていった。
ぼくはすこし罪悪感を覚えた。
シルクは金髪のくりくりとした髪をさすりながらそう言った。
「いやぁ、行けそうにないかも……。」
ぼくは今までの出来事で頭の中が混乱しすぎて、もはやなにも残っていなかった。よみがえった記憶もなくなりそうなぐらいだ。
「では、ちょうど近くにある宿に泊まろうか。」
「うん。」
そしてぼくたちは宿に泊まることにした。
と、急にぽつぽつと雨がふってきた。シルクがいっていた宿は本当に近くにあったので、雨にぬれることはほとんどなかった。この宿は、宿というより、ただの空き家のようなものだ。かなり古く、寝ていたら小雨でも起きてしまうくらいだ。
宿の中のひと部屋にはいってから、ぼくはしばらく外を眺めてみることにした。
不思議だ。雲がひとつもない。なのにあまあしは強まるばかりだ。
雨が地面を激しくうちつける。この家、本当に大丈夫なのか?
ぼくは一晩中心配して、なかなか眠れないはめになってしまった。
朝になった。だが空はずっと暗いままだ。
「ああ。行けるかどうか、だなぁ。」
と、シルクがうめいた。
「まあ、ずっとここにとじこもっていてもなにも起きん!な、アーノルドくんよ。」
「ああ。」
シルクはなんだかよくわからない人だ。
そして、朝とは思えないほど暗いなか、ぼくたちは宿を出発した。
住宅街をしばらく歩いていたら、急に広い道路に出た。そしてその道路をしばらく歩くと、行き止まりのようにしてそびえ立つトンネルがあった。トンネルの部分だけ沈み込むような形をしていて、トンネル自体は小さいが、まわりのコンクリートがかなりの面積をとっている。
「ああ。不安が的中した。トンネルが浸水している。」
シルクが暗い顔でそう言った。確かに茶色の水がトンネルをほとんどうめつくしている。
「わたしは別に行けるのだが、ジェム、きみはどうやって行こうか。」
シルクは辺りをしばらく見回した。静かな時間だけが過ぎていく。───と、
「ああ!なぜ今まで気付かなかったのか。あんなところに建物があるぞ!ジェム、幸運を祈る!あの建物をぬけて向こう側に出られることを!」
「う、うん。」
ぼくはとまどいながら言った。
「では、行ってくれ!」
ぼくは、やけに興奮しているシルクをおいて、謎の建物へむかっていった。
シルクを長い間おいていたらどうなるか想像がつかない。
もしかしたらどこかににげていて、すべてが水の泡になってしまうかも──。ぼくがそんなことを考えていたら、いつのまにか建物についていた。建物は思ったよりも大きく、色は灰色で、新しくも古くもなさそうな感じだ。ドアが開いていたのですんなりと入ることができた。
建物に入って中を見ると───階段があった。ひとまず安心だ。したを見てみると、段ボール箱やプラスチックの箱が大量にあって、それぞれいろいろなものが入っていた。なにも入っていないものもある。
そして、階段に向かおうと、ぼくは歩き出した。と、突然、自分の足に何かが当たった。なんだ?!そんなに痛くはないが、まわりには誰も人がいないはずだからとても怖い。いったい……
ぼくがしばらく辺りを見回していたら、近くにある段ボール箱がカサッと動いた。風か? でも、風は全くふいていない。おかしい。ぼくはその段ボール箱に目を光らせた。
しばらく待った。だが、なにも起きそうにない。
ぼくはやっとあきらめて、階段に行こうとした。と、そのとき、段ボール箱が高くジャンプした!あれは明らかにジャンプしている。だが、まだぼくは信じられなかった。もしかしたら頭がおかしくなりすぎて幻覚でも見たのかも知れない。だが、それはちがった。今度はプラスチックの箱がジャンプしたのだ!絶対そうだ!まちがいなく!
ここにあるものは生きているのだ!
そう確信した瞬間からまわりにあるものがすべてくるいだしたかのように動き出した。地面をぐるぐるしているものもいるし、しきりにジャンプをしているものもいる。だが、ぼくに強く体当たりして来るものはいなかった。たまに体当たりしてくるものもいたが、とても弱かったので気にしなかった。
ぼくは階段に向かおうとしたのだが、まわりにあるものを踏まないようにするのに必死でなかなか進めなかった。何回かこけそうになったこともあったが、決してものを踏むことはなかった。
ああ。つかれた。やっと階段にたどり着いた。そこまで距離ははなれていなかったはずなのに、とてもつかれている。だが幸運なことに、階段にはひとつもものがなかったのでゆっくりのぼることができた。さて、次の踊り場もなかなか混雑している。
やっと最初の階段を上り終えた。よし。と踊り場に足を踏み入れた。最初の一歩をふみいれるのが難しかったが、ものの数分でふみいれることができた。
そして一歩、一歩とさっきと同じように進んでいたら、
バチン!!
ぼくの顔を何かが強くひっぱたいた!痛い!
ぼくは急いで辺りを見回した。すると、何かが遠くに見えた───ハンカチだ。ぼくをひっぱたいたのはハンカチだ!
ああ!やってしまった!さっきの反動でこけて、段ボール箱をいくつかつぶしてしまった!つぶれた段ボール箱は動いていない。ぼくは泣きそうになった。
すると、またハンカチがバチン!!とさっきよりも強くひっぱたいてきた!ぼくの悲しみがすっと怒りに変わった。その怒りはすさまじかった。今までにないくらいすさまじかった。
ぼくはあのふわふわした布切れがどこにあるのかと、必死に目をこらした。
きた!!あそこだ!!
ぼくは集中し、どんどんせまってくる布切れを目で追いかけた。
くる!!くる!!
よし!!捕まえた!!
ぼくは今までにないくらいの力で布切れをにぎりしめた。
もう、ぼくを止めるものはだれもいない!
ぼくはきたない布切れを両手で持ち、真ん中のあたりに爪をたてた。そして、あらん限りの力で両方向にひっぱった。
ビリビリ……
そしてもう一度、むさぼるように引き裂いた。
引き裂かれた布切れは力なくひらひらと落ちていった。
まわりにあったものたちもひとつも動かなくなった。
聞こえるのは、ぼくの荒い息だけ。
ぼくはそのまま、静かな倉庫の階段をのぼっていった。
ぼくはすこし罪悪感を覚えた。
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