3 / 12
1章 熊に喰われた男
第3話 謎の男性
しおりを挟む
アルベルト達が戻るが、森は静けさを取り戻しており、グラットンベアの死体もそこにあった。
「うっ……
これは想像以上に酷いな」
「ここまで食われているのは珍しい」
男性の悲惨な姿にベテランの職員も思わず顔をしかめた。
新人である職員はあまりのグロテスクな姿を見てすぐに離れて吐き出してしまった。
「……ダメだな。
ここまで顔が潰れたら誰なのか判別できないぞ」
「精々わかるのは男性だというくらいで年齢もわかりにくい……」
ベテランのギルド職員は男性に近付いたが、それではわからないほどに食われていた。
「……ん?
おい、ちょっと来い」
「何かわかりましたか?」
「少々グロいが、顔の近くまで寄ってみろ」
ボードを使って記録していたマリナは職員の言う通りに近付いた。
「……これは……
お酒の匂い?」
「ああ……
血の臭いに混じっているが、間違いなくお酒の匂いだ。
どうやら被害者はお酒を飲んでいたらしい。
それによく嗅げばーー」
「……果物の匂い。
……これはみかんとかではなくて」
「……りんごだな。
今旬の果物」
「被害者はりんごをおつまみにして飲んでいた?」
「あるいはすり潰したりんごを酒に混ぜて飲んでいたか、カルバドスのようなりんご酒を飲んでいたか……
いずれにせよ」
「……そんな匂いを漂わせて森に入ったら」
「襲われるだろうな……
グラットンベアは甘い果実は好物だし、アルコールにも敏感だ。
嗅覚もあるからーー」
ベテランの職員は被害者の手を持って顔を近付けた。
「……これでは指紋採取は不可能だ」
「グラットンベアが食い千切ってますからね……
吐き出された指もこれではーー」
「カード照会もできないから冒険者か町民かすらわからん」
「気になるのは手にも酒やりんごの匂いがしている点ですね」
「……零したのでしょうか?」
「ここまでアルコール臭が強いと酔っ払っている可能性が高い。
酔っていたら手に零していても気にせずに飲んでいた……
そう考えても不思議じゃないが……」
職員は次に被害者の服装を確認してから、周囲の地面を確認する。
「……アルベルト達を呼べ。
確認したいことがある」
「わかりました」
そして、マリナに呼ばれてアルベルト達が来た。
「あの、呼ばれたのですが……」
「……聞きたいことがある。
戦闘中、キミ達、あるいはグラットンベアが“酒瓶”か“スキットル”を蹴飛ばしたりしたか?」
「え?
そんなものはなかったような……」
「本当か?」
「本当よ。
アタシ、動き回っていたけど、そんなものがあったら注意するし……
グラットンベア相手にそれを踏んで転んだら危険でしょ?」
「……そうか」
「それがどうかしたのですか?」
「……おかしいんだ」
「おかしい?」
「この男性が酒を飲んでいた。
それは事実。
なのに、男性が持っていたであろう酒瓶もスキットルも目に見えるところにはないんだ」
「途中で捨てたのでは?」
「その可能性も考慮するが……
男性の服を見てみろ」
「……そういえば……
鎧とかじゃないな」
「冒険者の服は多少頑丈に作られているが、この服はそんな感じじゃない」
「……魔術師が着るローブでもないわね。
……これはむしろ」
「……町民とかが着る一般の服?」
そのことに気付いたアルベルト達はざわつく。
「でも、ここって危険だから夜間の立ち入りは禁止にされてるんじゃないんですか?」
「ええ。
そういうことになっています。
冒険者はギルドが許可した者以外は依頼を受けることも町の外に出ることも禁止にされています」
「そうだよな……
俺達がこの森を巡回できるのもギルドに許可されて、ギルドからお願いされたからだからな」
「はい。
実力のある冒険者には毎年お願いしています。
行商人のような外に出て仕事をするお方達も、冒険者の護衛を付けるように注意喚起してますし、夜間での移動も禁止にしてます。
無理にしようとしても門番が止めてくれる筈……」
それほど危険な森で酒を飲んだ一般男性がグラットンベアに喰い殺された。
「……この人、誰なんだろう?」
「わからん。
簡単な手荷物検査をしたが、冒険者カードや町民カードの類はなかった。
あったのは、これくらい」
そう言って見せたのは、革の袋。
中身を確認すると、鉄のコインと銅のコインが大小関わらずじゃらじゃらと出て来た。
銀のコインも古びているが数枚ほど出て来る。
「……だいぶあるわね」
「デラルから見て、貴族のような金持ちではないだろうが、貧乏人でもないな」
だが、それは職員達にとって困る内容だった。
「……これでは貧富から特定することも、仕事を特定することも難しいな」
「……肝心のカードもありませんでしたからね」
どうやって調べても“男性が誰”なのか、一向にわからない。
顔、指紋、カード、服装、所持金と手掛かりになりそうなもの全てが調べても精々わかるのが“冒険者ではない一般男性”くらいなものだ。
「……本来なら、グラットンベアの死体を回収して使えそうな素材を報酬金とともに渡すが……
素材に関しては待ってくれないか?」
「え?」
「万が一……
もしかすれば、グラットンベアが男性を食べている時に一緒にカード……
あるいは身元がわかるものを飲み込んでいるかも知れない。
解剖すればそれがわかるかも知れない」
職員の言葉を聞いてアルベルトは頷いた。
「……仕方ないよな?
ここまでわからないのなら」
「むしろ、そうしてくれないと不気味で怖いわ」
そう言ってメリッサは被害者を見る。
衣服はグラットンベアの爪や牙によってめちゃくちゃになっているが、汚れに関してはそれほどでもない。
少なくとも、不労者の服のような黒ずんだ汚れもない。
それがメリッサにとっては不気味に見えた。
「ご協力感謝します。
ただ、報酬金に関してはボーナスが出ますので」
「わかりました」
アルベルト達の顔は晴れない。
ただのグラットンベアに襲われた男性と考えていたから、何も掴めない状況に気持ち悪さを覚えていた。
まるで、被害男性から発した呪いの霧が綺麗な青空を覆うようにーー。
「うっ……
これは想像以上に酷いな」
「ここまで食われているのは珍しい」
男性の悲惨な姿にベテランの職員も思わず顔をしかめた。
新人である職員はあまりのグロテスクな姿を見てすぐに離れて吐き出してしまった。
「……ダメだな。
ここまで顔が潰れたら誰なのか判別できないぞ」
「精々わかるのは男性だというくらいで年齢もわかりにくい……」
ベテランのギルド職員は男性に近付いたが、それではわからないほどに食われていた。
「……ん?
おい、ちょっと来い」
「何かわかりましたか?」
「少々グロいが、顔の近くまで寄ってみろ」
ボードを使って記録していたマリナは職員の言う通りに近付いた。
「……これは……
お酒の匂い?」
「ああ……
血の臭いに混じっているが、間違いなくお酒の匂いだ。
どうやら被害者はお酒を飲んでいたらしい。
それによく嗅げばーー」
「……果物の匂い。
……これはみかんとかではなくて」
「……りんごだな。
今旬の果物」
「被害者はりんごをおつまみにして飲んでいた?」
「あるいはすり潰したりんごを酒に混ぜて飲んでいたか、カルバドスのようなりんご酒を飲んでいたか……
いずれにせよ」
「……そんな匂いを漂わせて森に入ったら」
「襲われるだろうな……
グラットンベアは甘い果実は好物だし、アルコールにも敏感だ。
嗅覚もあるからーー」
ベテランの職員は被害者の手を持って顔を近付けた。
「……これでは指紋採取は不可能だ」
「グラットンベアが食い千切ってますからね……
吐き出された指もこれではーー」
「カード照会もできないから冒険者か町民かすらわからん」
「気になるのは手にも酒やりんごの匂いがしている点ですね」
「……零したのでしょうか?」
「ここまでアルコール臭が強いと酔っ払っている可能性が高い。
酔っていたら手に零していても気にせずに飲んでいた……
そう考えても不思議じゃないが……」
職員は次に被害者の服装を確認してから、周囲の地面を確認する。
「……アルベルト達を呼べ。
確認したいことがある」
「わかりました」
そして、マリナに呼ばれてアルベルト達が来た。
「あの、呼ばれたのですが……」
「……聞きたいことがある。
戦闘中、キミ達、あるいはグラットンベアが“酒瓶”か“スキットル”を蹴飛ばしたりしたか?」
「え?
そんなものはなかったような……」
「本当か?」
「本当よ。
アタシ、動き回っていたけど、そんなものがあったら注意するし……
グラットンベア相手にそれを踏んで転んだら危険でしょ?」
「……そうか」
「それがどうかしたのですか?」
「……おかしいんだ」
「おかしい?」
「この男性が酒を飲んでいた。
それは事実。
なのに、男性が持っていたであろう酒瓶もスキットルも目に見えるところにはないんだ」
「途中で捨てたのでは?」
「その可能性も考慮するが……
男性の服を見てみろ」
「……そういえば……
鎧とかじゃないな」
「冒険者の服は多少頑丈に作られているが、この服はそんな感じじゃない」
「……魔術師が着るローブでもないわね。
……これはむしろ」
「……町民とかが着る一般の服?」
そのことに気付いたアルベルト達はざわつく。
「でも、ここって危険だから夜間の立ち入りは禁止にされてるんじゃないんですか?」
「ええ。
そういうことになっています。
冒険者はギルドが許可した者以外は依頼を受けることも町の外に出ることも禁止にされています」
「そうだよな……
俺達がこの森を巡回できるのもギルドに許可されて、ギルドからお願いされたからだからな」
「はい。
実力のある冒険者には毎年お願いしています。
行商人のような外に出て仕事をするお方達も、冒険者の護衛を付けるように注意喚起してますし、夜間での移動も禁止にしてます。
無理にしようとしても門番が止めてくれる筈……」
それほど危険な森で酒を飲んだ一般男性がグラットンベアに喰い殺された。
「……この人、誰なんだろう?」
「わからん。
簡単な手荷物検査をしたが、冒険者カードや町民カードの類はなかった。
あったのは、これくらい」
そう言って見せたのは、革の袋。
中身を確認すると、鉄のコインと銅のコインが大小関わらずじゃらじゃらと出て来た。
銀のコインも古びているが数枚ほど出て来る。
「……だいぶあるわね」
「デラルから見て、貴族のような金持ちではないだろうが、貧乏人でもないな」
だが、それは職員達にとって困る内容だった。
「……これでは貧富から特定することも、仕事を特定することも難しいな」
「……肝心のカードもありませんでしたからね」
どうやって調べても“男性が誰”なのか、一向にわからない。
顔、指紋、カード、服装、所持金と手掛かりになりそうなもの全てが調べても精々わかるのが“冒険者ではない一般男性”くらいなものだ。
「……本来なら、グラットンベアの死体を回収して使えそうな素材を報酬金とともに渡すが……
素材に関しては待ってくれないか?」
「え?」
「万が一……
もしかすれば、グラットンベアが男性を食べている時に一緒にカード……
あるいは身元がわかるものを飲み込んでいるかも知れない。
解剖すればそれがわかるかも知れない」
職員の言葉を聞いてアルベルトは頷いた。
「……仕方ないよな?
ここまでわからないのなら」
「むしろ、そうしてくれないと不気味で怖いわ」
そう言ってメリッサは被害者を見る。
衣服はグラットンベアの爪や牙によってめちゃくちゃになっているが、汚れに関してはそれほどでもない。
少なくとも、不労者の服のような黒ずんだ汚れもない。
それがメリッサにとっては不気味に見えた。
「ご協力感謝します。
ただ、報酬金に関してはボーナスが出ますので」
「わかりました」
アルベルト達の顔は晴れない。
ただのグラットンベアに襲われた男性と考えていたから、何も掴めない状況に気持ち悪さを覚えていた。
まるで、被害男性から発した呪いの霧が綺麗な青空を覆うようにーー。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件
こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる