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しおりを挟む「リリア嬢。」
「はい?」
思考の海に沈もうとしていたところを、ふいに呼ばれて、反射的に返事をする。
「あなたは、傷ついています。」
「そんなことはないと、思いますが。」
「いいえ。傷ついているのです。まず、今回のことで、婚約に恐怖を感じることは、恥ずべきことではありません。持って当たり前の感情です。」
「——。」
「むしろ、男性全般に苦手意識を持ってもおかしくない。なのに、貴女は、理知的に、婚約の条件を述べている。感情が麻痺している証拠です。いいですかリリア嬢。」
「……はい。」
「婚姻は、一生の問題です。嫌なことは嫌だと言って良いのです。」
「え?でも——。譲歩しながら生活していくものなのでは?」
と、目を瞬いて次男様を見る。
「もちろんそうです。でもそれは、我慢するというこではないのです。」
「——?難しいです。」
「今のリリア嬢にはわからないかもしれませんね。恐怖に耐えて散々我慢してきたのですから。」
バカにされた気がして、ムッとしてしまう。
「例えば、私が貴女に、髪を下ろしている方が好きです。と言う。」
「——?はい。」
「だからと言って、貴方が下ろす必要もなければ、私が貴女に下せと強要することもない。ただ、私が髪を下ろしている方が好きだと言うことを貴方が知るだけです。」
「次男様の好みに合わせなくても良いと言うことですか?」
「はは、次男様——かぁ。」
朗らかに笑う次男様に、リリアはドキッとする。
——笑うと可愛いのね。
あさってなことを考えていると、
「いずれ、名前で呼んでほしいものですが、まあ良いでしょう。——そういうことです。合わせる必要はありません。もちろん、今日は下ろし髪にして欲しいとお願いする時はあるでしょう。その時に、貴方がお願いを聞いても良いと思ったなら、お願いに応えてくれれば良いのです。または、私が好きなことを知ってる貴方が、私を喜ばせようと、そういう装いをしてあげようと思った時にだけ、そうしてくれれば良いのです。そうしたら、私のためにそうしてくれた、貴方のその気持ちを、私は嬉しいと思うでしょう。」
「……なる、ほど?」
「逆に、貴女は纏め髪が好きなのだと言うことにします。それならば、そのことを私に教えてください。いつも髪を纏めている貴女に、好きな髪型をしているのだな。と、私は知ることができます。そうすれば、その纏め髪に似合う髪飾りを贈ることができます。それを付けてくれたなら、私は嬉しく思うでしょう。」
ひと息入れてから、
「そういうことを、理解し合うと言います。」
何かがリリアの中に落ちてきた気がした。
「わかったような、気がします。」
「それは良かった。——人は誰しも完璧ではありません。ましてや育った環境が違うのです。自分の好む人物が存在しているかどうかもわかりません。仮に居たとしても、出会える可能性は、ほぼ0でしょう。だからといって、自分の理想に他人を当てはめようとすることは愚かなことです。道徳や常識で、当たり前なことならともかく、癖や習慣など、合わないものや理解できないこともあります。そう言う場合は、話し合い、不快感を与えないように努力する、理解を求める。——どうしても相入れないのであれば、相手の前では控える。スペースを分ける。そういう風にお互いが工夫するのです。」
またひと息入れてから、
「それを、譲歩する。と言います。決して、一方だけに我慢を強いることではありません。」
その通りだとリリアは思った。
そう言われれば、オスカーには、一方的に要求されるばかりで、私の都合を聞かれたことはない。そういうことなのね。と、気付かされた気持ちになった。
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