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シャワーの音がきつくなった。万里がまた泣いている。
気づいてないんだろうけれど、どんなに酔っぱらったときでも玄関の鍵は忘れないし、靴はきちんと脱いでるし、どこにもぶつからないで歩いてくるし、すぐにしゃかしゃか荷物片付けてシャワーを浴びにいく酔っぱらいなんて、俺は今まで見たことない。
最近特にしんどそうで、真っ青になって朝トイレから出てくるのを何度も見た。体調崩してるの?って聞いたら、目を真ん丸にして「誰が?」って、そりゃ、あんたのことだって。お芝居へただね、わかりすぎ。
今夜は誰と飲んできたの。かなり飲んだんでしょう、酒の匂いがきついから、わかってないんだろうなあ、男ものの香水の匂いが体についてる。
その匂い、ときどき嗅ぐけど、俺嫌いだ。何だか馴れ馴れしくて不愉快な迫り方をしてくるやつがよくつけてるよ。
飲み過ぎだよ、ここんとこ毎日で、だから、俺がほんとは眠ってないとか、グラスに口がついた跡がないって気づかないんだ。思い詰めた顔して俺のこと見下ろして、手を伸ばしかけてやめるんだもんなあ、期待煽って、そりゃないでしょう。こぶし握って仁王立ちなんて、あんた絶対ヒーローアニメに毒されてる。
戸惑ってるのはこっちも同じ。俺はずっと同性ばっかに魅かれてたから、『ヘテロ』の気持ちなんかわかんないよ。俺がどうしてこんなふうに、毎晩遅いあんたを待ってなくちゃ眠れないのかもわからない。
きっとあの夜からだ、覚えてないだろうけどさ、ほら、実験動物が死んじゃった日。
動物愛護運動だか何だかの女の子にえらくののしられてたんだって聞いた。人でなしだの人間じゃないだの、女のくせに愛情がないだの。あんた黙って聞いてたんだってね。
気持ちはわかるからって、何もあんたのせいじゃないだろう。言ってやればよかったんだ、あんたが毎日どんな気持ちであいつら見てたのか。ごめんねって辛そうにつぶやいてたの、俺は知ってる。あたしが身替わりになってやれればいんだけどなあって切なそうにつぶやいて、優しく優しくあいつらのことみてやってた。
泣きそうで、けど泣かなくて、あたしが絶対いい結果を引きずり出すからって、お墓の前でさ、やっぱ仁王立ちしてて、なんかかっこよかった。何かとんでもなくかっこよかったよ。側にいる半端な男が女に見えるぐらいにかっこよくてさ、一瞬、あ、こいつに抱かれたいって思ってた。
でもさ、俺があんたに抱かれるってどうやんの?
俺があんたを抱くならわかる。俺が男に抱かれるのもわかる。
けど、俺はあんたに抱かれたい。気持ちは疼くけど方法がわからない。誰に相談すればいい?
シャワーが止まる。きっとあんたは何ごともなかった顔して、俺のことなんか知らん顔でベッドに一人いっちゃうんだろう。毛布の下でずきずきしてる俺のことなんか気づきもしないで。
畜生、せめて、目が覚めたふりして酒飲まないかって言ってみようか。
あの香水だけは消したいんだ。
終わり
気づいてないんだろうけれど、どんなに酔っぱらったときでも玄関の鍵は忘れないし、靴はきちんと脱いでるし、どこにもぶつからないで歩いてくるし、すぐにしゃかしゃか荷物片付けてシャワーを浴びにいく酔っぱらいなんて、俺は今まで見たことない。
最近特にしんどそうで、真っ青になって朝トイレから出てくるのを何度も見た。体調崩してるの?って聞いたら、目を真ん丸にして「誰が?」って、そりゃ、あんたのことだって。お芝居へただね、わかりすぎ。
今夜は誰と飲んできたの。かなり飲んだんでしょう、酒の匂いがきついから、わかってないんだろうなあ、男ものの香水の匂いが体についてる。
その匂い、ときどき嗅ぐけど、俺嫌いだ。何だか馴れ馴れしくて不愉快な迫り方をしてくるやつがよくつけてるよ。
飲み過ぎだよ、ここんとこ毎日で、だから、俺がほんとは眠ってないとか、グラスに口がついた跡がないって気づかないんだ。思い詰めた顔して俺のこと見下ろして、手を伸ばしかけてやめるんだもんなあ、期待煽って、そりゃないでしょう。こぶし握って仁王立ちなんて、あんた絶対ヒーローアニメに毒されてる。
戸惑ってるのはこっちも同じ。俺はずっと同性ばっかに魅かれてたから、『ヘテロ』の気持ちなんかわかんないよ。俺がどうしてこんなふうに、毎晩遅いあんたを待ってなくちゃ眠れないのかもわからない。
きっとあの夜からだ、覚えてないだろうけどさ、ほら、実験動物が死んじゃった日。
動物愛護運動だか何だかの女の子にえらくののしられてたんだって聞いた。人でなしだの人間じゃないだの、女のくせに愛情がないだの。あんた黙って聞いてたんだってね。
気持ちはわかるからって、何もあんたのせいじゃないだろう。言ってやればよかったんだ、あんたが毎日どんな気持ちであいつら見てたのか。ごめんねって辛そうにつぶやいてたの、俺は知ってる。あたしが身替わりになってやれればいんだけどなあって切なそうにつぶやいて、優しく優しくあいつらのことみてやってた。
泣きそうで、けど泣かなくて、あたしが絶対いい結果を引きずり出すからって、お墓の前でさ、やっぱ仁王立ちしてて、なんかかっこよかった。何かとんでもなくかっこよかったよ。側にいる半端な男が女に見えるぐらいにかっこよくてさ、一瞬、あ、こいつに抱かれたいって思ってた。
でもさ、俺があんたに抱かれるってどうやんの?
俺があんたを抱くならわかる。俺が男に抱かれるのもわかる。
けど、俺はあんたに抱かれたい。気持ちは疼くけど方法がわからない。誰に相談すればいい?
シャワーが止まる。きっとあんたは何ごともなかった顔して、俺のことなんか知らん顔でベッドに一人いっちゃうんだろう。毛布の下でずきずきしてる俺のことなんか気づきもしないで。
畜生、せめて、目が覚めたふりして酒飲まないかって言ってみようか。
あの香水だけは消したいんだ。
終わり
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