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第2話 砂糖菓子姫とケダモノ王
21.恋心は暴走する(1)
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「なんだって言うんだ」
広いテラスでゆっくりと剣を構えながら、レダンは唸る。
「どうして今更、誰も彼もシャルンを欲しがる」
あれほど酷い扱いの上に放り出した姫を。
勢いよく振り下ろした切先は、増えるばかりの恋敵に向けられる。
「彼女は、俺の、ものなんだぞ、っ」
すぐさま跳ね上げて背後へ振り向くと前髪の先から雫が飛んだ。冬の日差しとはいえ、朝からずっと昼前まで動き続ければ、汗もかこうと言うものだ。
「ちっ」
まだ来ないのか、ガストは。
苛立ちに舌打ちする。
ステルン王国のギースはみすぼらしくて見栄えのしないシャルンをあざ笑って放り出したはずなのに、彼女に幼い自分が守られたなどと言い出し敬服していると言う。
ラルハイド王国のバックルは小賢しい浅はかな女だと見下したくせに、彼女の進言で助かった兵士達の敬愛を知り聡明な姫だと再評価している。
ザーシャル王国のサグワットは責務を果たしたシャルンを突き放したのに、美しく装い艶やかになった彼女に拒まれて、逆に関心を煽られたようだ。
ダスカス王国のマムールに至っては、掌を返すとはこう言うことだろう、シャルンの広い視野に国が救われたなどと言い出す始末。
ダスカスから戻る馬車の中で、あるいは途中に休んだ宿の部屋で、繰り返し何か言いたげだったシャルンの顔が思い浮かぶ。
『何か?』
『いえ、あの……』
訝るレダンに困ったような顔で俯き、やがてそっと顔を上げて微笑むシャルン。
『何でもございません』
『しかし、何か話したげだが』
『はい…あの…一つお尋ねしてもよろしゅうございますか』
『うむ』
『陛下は…私の髪を如何思われますでしょうか』
『如何…と言われても』
腕に抱いた時に柔らかく触れて気持ちいいとか、ピンやリボンで整えているのももちろん愛らしいが、ふわふわと頼りなげに風に遊ばせていると押し倒したくなって困るとか、顔を埋め香りを嗅いでいると本当に安らげるとか、そう言うことを言い募ると引かれそうな気がして、曖昧に微笑む。
『気に入っているな』
『お気に召しておられるのですか』
喜ぶと思ったシャルンは、なぜか一瞬顔を曇らせた。
『どうした?』
『いえ、あの…砂糖菓子のようだ、とお聞きしましたので』
陛下はどう思われたのだろうと。
シャルンが頬を赤らめ俯いて、マムールとの会話を思い出し納得した。
『私はあなたの髪が大好きだよ』
引き寄せてキスを送ると嬉しそうに受け止めたから、安心したのだと思ったのだが。
どこか不安そうに見えたから、一房絡めてもう一度口付けた。
『この上もない宝物だ』
『…ありがとうございます』
「…何か、気にかかるな」
鋭く突き出した剣を体と一緒に引いて、背後に向かって声をかける。
「いい加減に出てこい、ガスト」
「お気付きでしたか」
「視界の端で、それほど面白そうな顔をして見てれば、嫌でも目に入る」
準備していた剣を掴んで放り投げ、
「それで、何かわかったのか」
「多少はわかりましたが、この剣は?」
「暇すぎる、相手をしろ」
「相手をしながらお話は無理ですが」
「なら先に相手だ」
「仕方ない」
ガストは溜め息をついて剣を引き抜き、前に立つ。
「少しは上達なさっていれば、私も退屈しないで済むのですが」
「ぬかせ」
薄く笑ってレダンは踏み込む。たじろぎもしないガストが身を躱しながら一気に懐へ飛び込んでくる。
広いテラスでゆっくりと剣を構えながら、レダンは唸る。
「どうして今更、誰も彼もシャルンを欲しがる」
あれほど酷い扱いの上に放り出した姫を。
勢いよく振り下ろした切先は、増えるばかりの恋敵に向けられる。
「彼女は、俺の、ものなんだぞ、っ」
すぐさま跳ね上げて背後へ振り向くと前髪の先から雫が飛んだ。冬の日差しとはいえ、朝からずっと昼前まで動き続ければ、汗もかこうと言うものだ。
「ちっ」
まだ来ないのか、ガストは。
苛立ちに舌打ちする。
ステルン王国のギースはみすぼらしくて見栄えのしないシャルンをあざ笑って放り出したはずなのに、彼女に幼い自分が守られたなどと言い出し敬服していると言う。
ラルハイド王国のバックルは小賢しい浅はかな女だと見下したくせに、彼女の進言で助かった兵士達の敬愛を知り聡明な姫だと再評価している。
ザーシャル王国のサグワットは責務を果たしたシャルンを突き放したのに、美しく装い艶やかになった彼女に拒まれて、逆に関心を煽られたようだ。
ダスカス王国のマムールに至っては、掌を返すとはこう言うことだろう、シャルンの広い視野に国が救われたなどと言い出す始末。
ダスカスから戻る馬車の中で、あるいは途中に休んだ宿の部屋で、繰り返し何か言いたげだったシャルンの顔が思い浮かぶ。
『何か?』
『いえ、あの……』
訝るレダンに困ったような顔で俯き、やがてそっと顔を上げて微笑むシャルン。
『何でもございません』
『しかし、何か話したげだが』
『はい…あの…一つお尋ねしてもよろしゅうございますか』
『うむ』
『陛下は…私の髪を如何思われますでしょうか』
『如何…と言われても』
腕に抱いた時に柔らかく触れて気持ちいいとか、ピンやリボンで整えているのももちろん愛らしいが、ふわふわと頼りなげに風に遊ばせていると押し倒したくなって困るとか、顔を埋め香りを嗅いでいると本当に安らげるとか、そう言うことを言い募ると引かれそうな気がして、曖昧に微笑む。
『気に入っているな』
『お気に召しておられるのですか』
喜ぶと思ったシャルンは、なぜか一瞬顔を曇らせた。
『どうした?』
『いえ、あの…砂糖菓子のようだ、とお聞きしましたので』
陛下はどう思われたのだろうと。
シャルンが頬を赤らめ俯いて、マムールとの会話を思い出し納得した。
『私はあなたの髪が大好きだよ』
引き寄せてキスを送ると嬉しそうに受け止めたから、安心したのだと思ったのだが。
どこか不安そうに見えたから、一房絡めてもう一度口付けた。
『この上もない宝物だ』
『…ありがとうございます』
「…何か、気にかかるな」
鋭く突き出した剣を体と一緒に引いて、背後に向かって声をかける。
「いい加減に出てこい、ガスト」
「お気付きでしたか」
「視界の端で、それほど面白そうな顔をして見てれば、嫌でも目に入る」
準備していた剣を掴んで放り投げ、
「それで、何かわかったのか」
「多少はわかりましたが、この剣は?」
「暇すぎる、相手をしろ」
「相手をしながらお話は無理ですが」
「なら先に相手だ」
「仕方ない」
ガストは溜め息をついて剣を引き抜き、前に立つ。
「少しは上達なさっていれば、私も退屈しないで済むのですが」
「ぬかせ」
薄く笑ってレダンは踏み込む。たじろぎもしないガストが身を躱しながら一気に懐へ飛び込んでくる。
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