『指令T.A.K.I.』〜『猫たちの時間』12〜

segakiyui

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8.報告書 Ⅳ

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 セイヤの姿が病院から消えたのは、それから2日後のことだった。
「そこでしか生きられない人間もいるんです」
 周一郎の言った『そこ』が、俺にも何となくわかる気がした。セイヤは……あの、したたかさと儚さを合わせ持つ少年には、夜の闇こそくつろげる場所なのかも知れない。
 俺に残して言ったのは1枚のカード、そこには『もう2度と会わない』とだけ書かれていた。

 晴れた日曜日、周一郎の部屋でとぐろを巻きながら、相も変わらず書類を繰り続ける周一郎に尋ねる。
「だけどさ」
「はい?」
「結局、指令T.A.K.I.って何だったんだ?」
「ああ」
 くっ、と周一郎は大人びた苦笑を漏らした。
「『Taking Aggravation in Killing Infomation』」
「テイキング……なに?」
「『致命的な情報の中に魅力的な挑発がある』……大悟の残したことばの一つで、こちらにとって不利な情報であればあるほど、うまく使えば一発逆転のチャンスになる、と言う意味です。大悟は情報というのは駒だと考えていました。それ自体に価値はない、それをどう使うかで価値を生む、と」
 周一郎は書類をひとまとめにして封筒に入れ、次の書類に取り掛かる。
「…今回のことで、あなたが捕まっているという情報は、僕にとって不利なものでしたが、動き方さえ詰めれば、梅崎達の動きを封じる決め手になりました。梅崎コンツェルンは狙いには入っていましたから、いい取引になりました」
「なるほどな」
 もっともそれは、情報を扱ったのが周一郎だったということが大きな分岐点だったのだろう。
 ただ、俺の危機を、一番いい効果を上げる瞬間まで眺めていたあたりは頂けない。
「…じゃあ、俺も情報の使い方とやらを試してみよう」
「?」
 きょとんとする周一郎に、棚に並ぶボトルを指差して見せる。
「例えば、あの中身な」
「……はい?」
 警戒心を満たして周一郎が眉を寄せる。
「半分以下に減っている理由を知っていたりするんだが」
 ぎくりと周一郎が体を強張らせる。
「まさか…滝さん、あの時の」
 すぐに思い当たったあたり、さすが周一郎。平然とした表情を保つはずだったのだろうだが、見る見る顔が薄赤く染まっていく。周一郎が寝入った後、俺はそっとソファに寝かせ、毛布をかけて足音を忍ばせて部屋を出ている。いつもの通り、高野が面倒を見てくれたのだろうと思っていただろうし、朝起きた周一郎は俺がいたことには気づかなかっただろう。
「で、誰かに肩を貸してやった覚えがあるんだが」
 どんどん赤くなりながら微妙に震える周一郎に、ニンマリと笑いかけてやる。
「こういう情報は誰に売ればいいのかなー?」
「滝さんっ!!」
「ははははっ」
 ついに真っ赤になった周一郎が、両手で机を叩いて喚く。ノックと重なるように入ってきた高野が、盆の上のコーヒーセットを危うく落としかけ、立ち竦む。
 そうして俺は、久しぶりの勝利に酔って、大笑いをし続けていた。

                             終わり
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