『朱の狩人』

segakiyui

文字の大きさ
上 下
5 / 26

3.『印怒羅』(1)

しおりを挟む
 もう一人の自分がいる。
 世に産まれ、力に目覚め友を得て、それでも埋め切れない孤独の中に、そのことばだけが浮かび上がる。
 もう一人の自分が……自分と同じ力の持ち主が。
 灯もつけない部屋、ベッドに横たわって天井を見上げ、仁は手探りで煙草の箱を探した。内田が吸っているのと同じラッキーストライク、慣れない手付きで1本抜き出し銜える。しばらく火をつけずにぼうっとしていたが、緩やかに瞬きしてから危うい仕草でライターを取り出し、吸い込みながら火をつけた。
「ごふっ! ごほっ!! ごっ……ほっ……!」
 むせて跳ね起きる。吹き出して唇から飛んだ煙草を追いかけた指が、凍りついたように強ばって止まる。
 煙草が宙に浮いていた。
 見えない手で支えられているように、跳ね起きた仁の鼻先で揺れもせず。
 そろそろと指を伸ばし、煙草に触れるや否や奪い取る。
「こふっ……」
 小さく咳き込んだ口をもう片方の手の甲で押さえ、唇を噛む。
 もちろん、火のついた煙草が、部屋のどこかに跳ね飛んでしまう、ようなことにはならないほうがいい。焼け焦げに母親はすぐに気づくだろう。へたな場所に落ち込まれると火事になる。
 なのに、ほっとするよりためらう気持ちは、いっそ火事騒ぎを起こしてしまって全てが明らかになることを望んでいるからか。
 煙草をコーラの空き缶にねじりつけ、飲み口から中に落とし込む。
「…」
 一口も吸い切らない吸い殻が缶の中に溜まっていく。
 仁の母親は気づかない。空き缶は引き出しの奥深くに片付けるし、部屋に煙草の匂いがつくほどにはくゆらさない。けれど、中途半端な吸い殻が、中途半端なだけにより一層速く空き缶の空間を埋めていく。
(一杯になる、遅かれ、早かれ……そうしたら、どうすればいい?)
 簡単なことだ。
 一杯になってしまえば、次の空き缶を作ればいい。この空き缶をどこかのゴミ籠に放り捨て、知らぬ顔で次の空き缶に中途半端な吸い殻を捨てていけばいい。
 そうしてごまかしごまかし、いつか煙草を吸ってるなんて誰も問題にしないような時がくるまで、ひたすらしのげばいい。
(でも、僕は空き缶を引き裂いてしまうかもしれない)
 大学の構内で放り捨てた空き缶を思い出す。中央から引き裂かれたようにねじくれた金属のぎざぎざ。外側からどうやって、こんなふうに切れるのかと考え悩むような形。
 この間見せられた写真の体のように。
 あのとき気分が悪くなったのを、誰もが写真の惨さのせいだと思ったはずだ。十分にあれは悲惨な映像で、その苦痛をこちらに突き付けてくるようなものだったから。
(でも、そうじゃない)
 あの写真は『誰か』がやったものではなかった。あの写真に映された出来事を起こすためにどのようにするのか、その力加減や感触まで、仁には瞬時に理解できた。
 あれは『たまたま』他の人間がしたことだったけれど、それは仁もできること、『たまたま』せずにすんでいるだけのことだった。
(僕だって、何かのきっかけがあるなら、引き裂くだろう)
 あの空き缶のように。
 たとえばささやかな不安から、たとえば僅かな恐怖から。
 そう、自分が恐れるものが近づいてきたなら、そこから逃げたいがためだけにでも。
(あれは『たまたま』空き缶だった。けれど、あれが『人間』だったら?……一番身近にいる……『人』だったら?)
 近ければ近いほど、衝撃は強く力は破壊的に働くだろう。
 空き缶をそろそろとベッドの下に降ろし、両手で顔を覆いながら後ろに倒れる。ぼうん、と柔らかな音をたてて沈むベッド、体を受け止める温かみに、椅子から崩れた自分を支えてくれた内田の手を思う。
 心が揺れている。何もかも捨てて走り去って行ってしまいたい、その先に待つ破滅も崩壊も知らぬ顔をして。後に残す者のことも一切気持ちから追い出して。
(どうする、どうすればいい)
 押さえつけているのに、涙は勝手に瞼を押し上げ溢れだした。食いしばった歯がきりり、と鋭い音をたてる。こらえきれずに頬へと零れ落ちる、その瞬間に顔を拭って仁は立ち上がった。カッターシャツの上に薄手のジャンパーを羽織って階下に降りる。
「仁? 何処に行くの?」
 母親の不審そうな声が台所から響いて来るのを背中で受ける。
「頭が疲れたからちょっと散歩してくる」
「そう? この間のこともあるから、早く帰って来るのよ」
 苛立ちを聞き流して、仁は家を出た。

 夕暮れの薄明かりは急速に光度を落としていく。ぼつぼつと灯り出す家の明かりを避けるように、路地を抜け、角を曲がり、入り組んだ街を影のようにすり抜けて行く。
 そうしながらぼんやりと、自分の中が緩やかに組み換えられていく感覚に意識を預ける。
 やがて前方に、ぎらつく金属の反射を飾るバイクショップが現れた。
 店の片側のガレージで、2人の若い男が灰色のつなぎの前を汚しながら、1台の単車を丁寧に点検している。
「……っかしいよなあ」
「何が?」
「いや、だって、これ、新品で入ったと思ってたんだけど、客が言うんだよ、中古じゃねえかって。タイヤが減ってるし、使い込まれてるぜって」
 頬のそげたきつい顔だちの男がぶつぶつ呟く。髪の毛を金髪に逆立てた方が頷いて、
「あ、やっぱり? 俺さあ、誰かにこいつの点検頼まれてた気がするんだけどさあ、思いつけなくて? おやっさんも知らねえよ、てめえらのダチのだろっていうけどさあ、このタイヤ、めちゃくちゃきれいに減ってんだろ? こんなうまく乗るやつ、俺の知り合いにはいねえしさ」
「そうそう、すげえんだよな、こんだけきれいにタイヤ減ってるの、最近見ねえし。RDの逆輸入だからそうそう乗れるマシンでもねえし。よっぽど腕のやつだぜ、たとえ幽霊でもさ」
「幽霊?」
 金髪がぎょっとした顔で繰り返した。
「幽霊が乗ってるのか?」
 きつい顔だちの男がより一層顔をきつくして眉をしかめた。
「だってよ、どうしてこれ売れねえんだと思う? こんだけいいマシンだぜ、ちょっとさ、そりゃ古いけど、見るやつが見たら必ず言うぜ、これいいなって。けどさ、買おうってやつはいねえんだ。そりゃ値札ついてねえしとか、買おうとしたらおやっさんが引っ込めるしとか、俺らが邪魔するしとか言われるけど? そんな覚えねえしな……新品でもない、売りもんでもない、修理頼まれてるわけでもない、じゃあ、誰んだよこれ。俺ら、第一、なんで点検してんだよ、時間外だろ、もう」
「そりゃ……・何か……頼まれてた気がするし……・」
「誰に、いつ? 伝票だってねえし」
「ああ……ねえ、んだよな……けど、ブレーキ見て、ガス入れといて……」
 金髪は苛立ったように頭を掻いた。
「だろ? 何かちゃんとしとけよって言われた気するんだろ、だからきっと幽霊がとり憑いて…お」
 ゆっくりと歩み寄った仁は、足を開いてしゃがみ込んだままの2人に、にこ、と穏やかに笑いかけた。金髪がはっとしたように立ち上がり、着崩れていたつなぎを引っ張って直し、まるで古くからの、それも尊敬する友達に会ったようにはにかんで笑い返す。きつい顔だちの男も悩むように不安そうな顔で仁を見上げたはしたが、しばらく黙り込んだ後、ふいに我に返ったように真っ赤になって立ち上がった。
「あ、お久しぶりです」
「整備、済んでます。出しますか?」
 金髪がいそいそと奥の棚からヘルメットを取り出してきながら問いかけて来る。もう1人が今まで触っていたバイクを最後の仕上げとばかりに丁寧に拭き上げて、道路へ押し出した。
「これ、預かってたメットです」
「ありがとう」
 仁はヘルメットを微笑んだまま受け取った。2人の男は何の疑問もなさそうにバイクに跨がる仁に鍵を渡し、上機嫌で話しかけてくる。
「今も話してたんです、すげえなって。速いんでしょう? バイク見りゃわかるよなって」
「すいません、ガスまだなんです、どっかで入れてもらえますか」
「うん、わかった」
 ヘルメットを被りながら、唸り始めたエンジン音に紛らせて、仁は2人に向かって小さく呟く。
 ごめんね。
 たぶん仁が走り去った後、この2人はどうして時間外まで居残っていたのかわからないまま、微妙な不安を抱えながら店の片づけを始めるはずだ。仁が後で戻すために、ガレージをちょうどバイク1台分空間をあけるのにも、何となくそうしたかったんだと思うだけだろう。そして翌朝には、そこに昨夜なかったRDが入っていても、いつものように誰かに整備を頼まれてたよなあと思いながら点検を始めるだろう。
「街道、取り締まりありますから!」
「気ぃつけて行って下さい!」
 最敬礼しかねない2人を後に、仁は走り出した。路地を抜け出してから、じわじわとスピードを上げる。真夏の空気に溶け込んでいく。
 風が心地よかった。歩くと粘りつき絡みついてくる空気が、今は指先にも脚にも清流を思わせるように吹きつけてきて意識を満たしていく。心を麻痺させ、生きる意味も問いかけも、全てを走り流れる想いの中へ消していく。
 初めて1人、バイクを駆ったのはいつだっただろう。
 確か真夜中で、その日は1日中安定しなかった。ちらと望んだことも先回りして実現してしまう力の制御に疲れ果て、気が張り詰めて眠ることさえできなかった。内田のように煙草でごまかせるかとも思ったが、体質的に合わないようで、気がつけばふらふら彷徨い歩いた街の一画であの店を見つけた。
 まずいことだとはわかっていた。万が一事故でも起こせば大変なことになる。
 けれど、内田に乗せてもらったタンデムシートで味わった感覚、ただひたすらに流れる空気の中に居るという感覚は、他人の物を使うという罪悪感をも押し流した。
 暗示をかけ、奥の方で売れ残っていたらしいRD250を整備してもらい引き出して、夜の街へ走り出していく。
 走っている間は悩まずに済んだ。扱いの難しいマシンらしいとわかったのは後のこと、その難しさが仁をのめりこませたのかもしれない。バイクをコントロールすることが、能力を制御することの代行をしてくれているようで、乗りまわせるようになってからはより強い緊張を求めて獲物を選んだ。
 側を駆けるテールランプ、狙いを定めて仕掛け、抜き去るまでデッドヒートにもつれ込む。
 爆音が夜の安眠を脅かす。不安そうに不愉快そうに囲い込む回りの視線をヘルメットの内側で受け止めながら、人々の気持ちの棘を引き受けながら、振動に身を任せ、闇の中を突っ切っていく。
 静かで穏やかな日常で身を竦めている浅葱仁が、そのときばかりは別なものになり呼吸を取り戻していく気がした。
 走ってみれば、夜の街は昼間と違って物も人も繋がり方が淡くて融け入りやすかった。自分と同じように速さを緊張を、昼間の生活にない何かを求めて走る人間達が、どれほど息苦しい思いで太陽を浴びているのかわかるような気がした。
 太陽は容赦がない。全ての結果を明らかにし、我が身に引き受けろと迫ってくる。
 それにくらべれば、夜は自分1人の重荷を抱えることさえ覚悟すればいい。月光は一瞬の幻をホログラフのように立ち上げる、だがそれさえも街のネオンや光の渦にあっさり消されて呑み込まれていく。喧噪の空間を抜けて闇を走れば、そこにはただ自分と時間だけが取り残される。体を震わせる振動に胸の鼓動をシンクロさせれば呼吸もやがて闇だけを吸う。
 そうして駆けるRDの背にひたりと身を伏せていると、
(誰か)
 切ない想いがいつも湧いた。
(誰か僕を走らせてくれ)
 次第に狭まり点状になる視界、飛び去る光景の中、仁はひたすらスピードをあげる。
(誰でもいいから)
 どこまでいけば満足する速さになるのか感じ取ろうとするように。追い縋ってくる運命を振り捨てていくように。その道の果てに立つ死神の姿を確かめるように。
(ためらう暇などないぐらいに)
 呼吸を止め、心臓の鼓動を止め、課せられた進化の歯車を止めることができないなら。
(誰、か…!)
 いつの間にか『デッド・ウィング』にさしかかっていた。
 前方に今夜も機械の獣が現れる。背後からパッシング・ライト、相手が応じる気配を感じ取ったとたん、スロットルを開く、ブレーキから指を放す。悲鳴のように唸りをあげて迫るRDに相手が怯えたように道を譲る。見る見る置き去られていく相手にやるせない想いが募っていく。
(もっと…速く……)
 夜ごとの無茶で250は既に仁の敵ではない、400でさえ時には抜ける。だが、750となると、パワーが違い過ぎて相手にしてはもらえない。
(750…)
 カーブをハングオンで抜けながら、仁の脳裏にはいつかの夜に追い抜いた750が蘇っていた。
 暗い色のZIIだった。仁のパッシングライトの合図に応えるようにスピードを上げ、直線に入っても一気に振り捨てるようなことはなく、こちらの力量を測るようにじわじわと距離をあけていく。カーブで詰めたが抜けなかった。相手が絡むように寄せてきても敵意や苛立ちを感じなかった。仁の走りたい想いを読み取ったように、挑発し、煽り、促し、鼻先を並べてくる。
 その750と走るうちに、気持ちが澄んでくるのを感じていた。どろどろと熱く濁った心がカーブを1つ曲がるごとに浄化され、透明になり扱いやすくなってくる。体の緊張がほぐれ、押さえつけていた力が抜ける。1人で何度走っても得られなかった感覚、全てを洗い流してくれるような、行き先をまるで知っていて導いてくれるような安定感。
 その感覚に酔って、その感覚だけに身も心も支配されて、仁はRDを走らせ続けた。
(この相手となら、ひょっとすると)
 破滅ではない未来が見えるかもしれない。そこまで生き延びられるかもしれない。
 初めてそんな期待が湧いた。
 だが、幾つめのカーブだっただろう。ZIIはふいに仁をやり過ごした。まるでタンデムシートから振り落とされたような気がして、仁は何度も相手の脇すれすれを掠めて挑発したが、もう反応してはくれなかった。苛立つ仁をそっと手放すように、すうっと背後の景色に溶け込んで、もう追っては来てくれなかった。
 その後、何度『デッド・ウィング』を走ろうとも、仁は2度とそのZIIに会えなかった。
(今夜は……どうだろう?)
 仁はZIIを探し始めた。あれだけの走りをする人間だ、そうそういるわけはない。『デッド・ウィング』を走ったのも1度や2度じゃないはずだ。
 仁は今、あのZIIと走りたかった。走って走って、闇の中を、時の中を、一気に駆け抜けてしまいたかった。そうして、自分の能力も世界に背負う責任も、全て忘れてしまいたかった。
 だが、相手は見つからなかった。
 『デッド・ウィング』を端から端まで流すこと十数回、さすがに疲れ切って仁はバイクを止めた。
(どこにも……いない)
 体は疲れても心はますます醒めてくる。醒めて冴えて、現実だけを突きつけてくる。
 仁の力は伸び続けている………一体、どこまで伸びていくのだろう?
 くら、と微かな目眩を感じて、仁はバイクで体を支えた。少し前まで感じていた頭痛は今やほとんど感じない。そこに意識をむけると、体の範囲を越えて広がっていく空間を感じ取るだけだ。その空間のどこまでも、どこへでも仁の意識は漂い流れ離れていける、そんな気がする。
 ふる、と体が小さく震えた。
(一体どこまで……『人間』から離れていく?)
 唇を噛んで首を振り、仁は冷え始めたエンジンをかけ直した。ぐったりとした重い疲れが、足下から粘っこい液体のように這い上がる。
(もう一走りだけして帰ろう)
 体の方が限界だった。

 仁が『デッド・ウィング』で荒れていたころ、狩人は次の行動を起こしていた。
 内田は夜の12時過ぎに城崎からの連絡を受けた。
「落ち着けよ、何があったって?」
 城崎は珍しく動揺している。苛立った神経質な声が電話を通して伝わってくる。
「紺野が襲われたって? 側に子どもがいたんだな? …『勘がよかった』やつ? 庇おうとしたっていうのか? ああ、そうか……側にあんたもいたのか」
 内田は納得した。
 城崎は診療中だったらしい。夕方の診療に急に腹痛を起こした少女がやってきていて、救急外来として受け入れていた。腹痛はどうやら始まったばかりの生理不順によるものらしく、鎮痛剤を与えて帰らせようとした矢先、廊下に出た少女が何かに怯えた。城崎が不審がるより早く紺野が部屋を飛び出し、少女を突き飛ばしたとたん、空間に青白い光が走ったように見えた。
 紺野が悲鳴を上げて倒れ、少女は母親とその場から逃げ出した。城崎がうろたえて抱き起こすと、紺野の脚に見覚えのある赤い筋が走っており、紺野は気丈にも「逸れたから大丈夫」と伝えたところで気を失った。城崎がすぐにCT検査をしたのは言うまでもない。今は紺野は病室の一室で眠らせているらしい。
「そうか、中は紺野が言ったとおり、かすったぐらい、だったんだな。ああ、そうだな、しばらくついててやれよ、仁には俺が伝える……切るぜ」
 受話器を置くや否や、またすぐにベルが鳴り、内田は舌打ちしながら受話器を取り上げた。
『内田君っ! 内田君でしょ!』
 飛び込んできた声に眉をしかめる。仁の母親、以前から内田を『わが子を悪の道に引きずり込む不良』と決めつけている、相性のよくない人間の1人だ。
『仁を知りません?!』
 こんな夜中に、こんばんはでもなく、夜分遅くに申し訳ないでもなく、自分の言いたいことだけを喚き散らす。
(どっちがはた迷惑なガキなんだか)
 内田は苦笑したが、続いたセリフには眉をひそめた。
『6時ごろ出ていって、まだ帰らないんです!』
『6時?』
 内田は時計を確かめた。もうそろそろ1時になろうとしている。母親に対して苛立たしいほど『いい子』であろうとしている仁にしては、十分に心配してもいい時間だ。
「いや、俺は……」
『そ、そう、ごめんなさいねっ!』
 派手な音をたてて放り出されたように切れた電話に、内田は眉をしかめて身を引いた。受話器を置きながら忙しく頭を働かせる。紺野が襲われ、仁が行方不明。例の『敵』かもしれない、が、仁に関してはもう1つの心当たりがある。
(『デッド・ウィング』か)
 銜えた煙草に火をつけ、黒のヘルメットを片手に内田は部屋を出た。

しおりを挟む

処理中です...