1 / 121
第1章 『竜は街に居る』
1.どこにでもある日常「誰だって一度くらいは」(1)
しおりを挟む
竜の夢を見た。とても綺麗な竜だった。
そう、まるで昨日もらってきたチラシみたいな竜。
雷牙禄は布団の中から手を伸ばして枕元に置いた紙を手探りし、目の前で広げかけて気がつく。
部屋の中は真っ暗だ。なまじ勘がいいから、光がなくても大抵のことはできてしまう。
もっとも小さい時の経験のせいもあるだろうけど。
「…っしょ」
体を起こして眼鏡を掛け、布団から這い出てチラシを手にしたまま窓際へ行く。重い灰色のカーテンを引き開けると、かなり高く上がった日差しが部屋一杯に流れ込んだ。
「寝すぎた」
休みとは言え、この日差しはもう昼前だ。することがないとほんとダラダラしてしまう。
「…おはよう、『ひもちさん』」
掌がようやく置ける幅の窓手すりにある多肉植物に話しかける。前の住人が置いて行ったもので、濃い緑の尖った厚い葉が重なり合うようにしながら四方へ伸びている。
「明日2時、ね」
ふいにどきどき打ち出した心臓に息を呑んだ。
チラシは駅前で配られていたものだ。鮮やかな緑と赤を背景に、真っ黒な竜の形が浮き上がっている。
劇団『竜夢』は、新しく練習を始める『竜は街に居る』に役者を募集しており、オーディションをするそうだ。プロはもちろん、アマチュア、いや全くの素人でもいいとある。
行ってみようかと思ったのは、勤め先の一膳飯屋『あいおい』が2日続けて休みになったこと、その間にすることが全く思いつかなかったことによる。23歳の男が何を言ってるの、と女将さんに笑われたが、禄には平穏無事な生活が何よりだったし、今までは安定した仕事があれば十分だった。
「オーディションって、どんなことするのかな」
チラシを眺める。想像がつかない。それに。
「服、買いに行かなくちゃ」
持っているのはほとんどがTシャツとジーパンだ。ポロシャツとスラックス、の方がいいのだろうか。その辺もわからない。
「誰だって一度くらいは自分の枠からはみ出してみたいものでしょう、って?」
女将さんのことばを繰り返す。
「応援してね、『ひもちさん』」
ちょんと固い葉を突いてチラシを折り畳んだ。
そう、まるで昨日もらってきたチラシみたいな竜。
雷牙禄は布団の中から手を伸ばして枕元に置いた紙を手探りし、目の前で広げかけて気がつく。
部屋の中は真っ暗だ。なまじ勘がいいから、光がなくても大抵のことはできてしまう。
もっとも小さい時の経験のせいもあるだろうけど。
「…っしょ」
体を起こして眼鏡を掛け、布団から這い出てチラシを手にしたまま窓際へ行く。重い灰色のカーテンを引き開けると、かなり高く上がった日差しが部屋一杯に流れ込んだ。
「寝すぎた」
休みとは言え、この日差しはもう昼前だ。することがないとほんとダラダラしてしまう。
「…おはよう、『ひもちさん』」
掌がようやく置ける幅の窓手すりにある多肉植物に話しかける。前の住人が置いて行ったもので、濃い緑の尖った厚い葉が重なり合うようにしながら四方へ伸びている。
「明日2時、ね」
ふいにどきどき打ち出した心臓に息を呑んだ。
チラシは駅前で配られていたものだ。鮮やかな緑と赤を背景に、真っ黒な竜の形が浮き上がっている。
劇団『竜夢』は、新しく練習を始める『竜は街に居る』に役者を募集しており、オーディションをするそうだ。プロはもちろん、アマチュア、いや全くの素人でもいいとある。
行ってみようかと思ったのは、勤め先の一膳飯屋『あいおい』が2日続けて休みになったこと、その間にすることが全く思いつかなかったことによる。23歳の男が何を言ってるの、と女将さんに笑われたが、禄には平穏無事な生活が何よりだったし、今までは安定した仕事があれば十分だった。
「オーディションって、どんなことするのかな」
チラシを眺める。想像がつかない。それに。
「服、買いに行かなくちゃ」
持っているのはほとんどがTシャツとジーパンだ。ポロシャツとスラックス、の方がいいのだろうか。その辺もわからない。
「誰だって一度くらいは自分の枠からはみ出してみたいものでしょう、って?」
女将さんのことばを繰り返す。
「応援してね、『ひもちさん』」
ちょんと固い葉を突いてチラシを折り畳んだ。
0
あなたにおすすめの小説
【8話完結】いじめられっ子だった俺が、覚醒したら騎士団長に求愛されました
キノア9g
BL
いじめられ続けた僕は、ある日突然、異世界に転移した。
けれど、勇者として歓迎されたのは、僕を苦しめてきた“あいつ”の方。僕は無能と決めつけられ、誰からも相手にされなかった。
そんな僕に手を差し伸べてくれたのは、冷酷と恐れられる騎士団長・ジグルドだった。
なのに、あいつの命令で、僕は彼に嘘の告白をしてしまう――「ジグルドさんのことが、好きなんです」
それが、すべての始まりだった。
あの日から彼は、僕だけをまっすぐ見つめてくる。
僕を守る手は、やさしく、強くて、どこまでも真剣だった。
だけど僕には、まだ知られていない“力”がある。
過去の傷も、偽りの言葉も超えて、彼の隣にいてもいいのだろうか。
これは、いじめられっ子の僕が“愛されること”を知っていく、嘘と覚醒の物語。
全8話。
天の求婚
紅林
BL
太平天帝国では5年ほど前から第一天子と第二天子によって帝位継承争いが勃発していた。
主人公、新田大貴子爵は第二天子派として広く活動していた亡き父の跡を継いで一年前に子爵家を継いだ。しかし、フィラデルフィア合衆国との講和条約を取り付けた第一天子の功績が認められ次期帝位継承者は第一天子となり、派閥争いに負けた第二天子派は継承順位を下げられ、それに付き従った者の中には爵位剥奪のうえ、帝都江流波から追放された華族もいた
そして大貴もその例に漏れず、邸宅にて謹慎を申し付けられ現在は華族用の豪華な護送車で大天族の居城へと向かっていた
即位したての政権が安定していない君主と没落寸前の血筋だけは立派な純血華族の複雑な結婚事情を描いた物語
【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】
古森きり
BL
【書籍化決定しました!】
詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります!
たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました!
アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。
政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。
男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。
自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。
行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。
冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。
カクヨムに書き溜め。
小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。
死ぬほど嫌いな上司と付き合いました
三宅スズ
BL
社会人3年目の皆川涼介(みながわりょうすけ)25歳。
皆川涼介の上司、瀧本樹(たきもといつき)28歳。
涼介はとにかく樹のことが苦手だし、嫌いだし、話すのも嫌だし、絶対に自分とは釣り合わないと思っていたが‥‥
上司×部下BL
僕の恋人は、超イケメン!!
八乙女 忍
BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?
バツイチ上司が、地味な僕を特別扱いしてくる
衣草 薫
BL
理性的でクールなバツイチ上司・桐原恒一は、過去の失敗から、もう誰も必要としないと決めて生きてきた。
男が好きだという事実を隠し、「期待しなければ傷つかない」と思い込んできた部下・葉山直。
すれ違いと誤解の果てに、直が職場を去ろうとしたとき、恒一は初めて“追いかける”ことを選ぶ。
選ばれないと信じてきた直と、逃げないと決めた恒一。
二人の距離が近づくことで、直は「ここにいていい」と思える場所を見つけていく。
元ノンケ上司×自己肯定感低め部下の社会人BL。※ハッピーエンド保証。
【8話完結】帰ってきた勇者様が褒美に私を所望している件について。
キノア9g
BL
異世界召喚されたのは、
ブラック企業で心身ボロボロになった陰キャ勇者。
国王が用意した褒美は、金、地位、そして姫との結婚――
だが、彼が望んだのは「何の能力もない第三王子」だった。
顔だけ王子と蔑まれ、周囲から期待されなかったリュシアン。
過労で倒れた勇者に、ただ優しく手を伸ばしただけの彼は、
気づかぬうちに勇者の心を奪っていた。
「それでも俺は、あなたがいいんです」
だけど――勇者は彼を「姫」だと誤解していた。
切なさとすれ違い、
それでも惹かれ合う二人の、
優しくて不器用な恋の物語。
全8話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる