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第1章 『竜は街に居る』
1.どこにでもある日常「誰だって一度くらいは」(4)
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『誰だって一度くらいは本気になるもんじゃないの?』
「そうかもね」
電話の向こうの苛立つ声に伊谷貢は苦笑する。
「まあ、僕は本気になったこと、ないけど」
『そう言うところがムカつく』
「ごめん」
相手は先日別れた彼女だ。
それでもこの女性は物分かりのいい方で、貢が何をどう転んでも、自分のことなどこれっぱかしも見ていないのだと気づいたあたりで、見切りをつけていてくれた。
広々としたベッドに自堕落に寝そべる貢は全裸だ。今さっき帰った女に背中に手形をプリントされただけで、今のところ人生は順風満帆、何の問題もない。
21で曙光大学を今年も留年したけれど、親は何も言わないし、別に卒業しなくても既にあれやこれやで収入は得てるから、大学に居るのは単に学生と言う身分を利用するためだ。教授はいい加減に真面目にやれと、これも付き合った女達と同じことをいうけれど、唯一まともに向き合ったのが『人心売買』の展開する演劇だけだなんて、誰も知らない。
『謝ってるつもりないでしょ』
「そうだね、たぶん」
『どうしてこんな話してるのかな』
「どうしてだろうね」
暇だからじゃないかとはさすがに言わなかった。
代わりに昨日送られてきたデータをPCで眺める。
鮮烈な赤、深みのある緑。目が痛くなるはずの配色に、切り絵のような竜の姿。
劇団『竜夢』の『竜は街に居る』と言う新作の役者募集のポスターだ。素人のオーディションまでやるとは、意欲作なのか、先行きが見えてどうでも良くなったのか。
ちゃら、と胸元で銀の十字架が鳴った。無意識に指で押さえて口走る。
「ねえもういいかな、用事ができた」
『…死ねば』
ぷつっと切れた電話に貢はメールの指示を読み返す。
「たいした役者もいないだろうけどね。ま、いいか、退屈しのぎになるし」
もう一度ポスターを眺める。
「この竜、綺麗だな。誰が描いたんだろう」
役者が無理でも、このポスターを作った才能は買いかも知れない。
薄く微笑んで、貢はPCを閉じた。
「そうかもね」
電話の向こうの苛立つ声に伊谷貢は苦笑する。
「まあ、僕は本気になったこと、ないけど」
『そう言うところがムカつく』
「ごめん」
相手は先日別れた彼女だ。
それでもこの女性は物分かりのいい方で、貢が何をどう転んでも、自分のことなどこれっぱかしも見ていないのだと気づいたあたりで、見切りをつけていてくれた。
広々としたベッドに自堕落に寝そべる貢は全裸だ。今さっき帰った女に背中に手形をプリントされただけで、今のところ人生は順風満帆、何の問題もない。
21で曙光大学を今年も留年したけれど、親は何も言わないし、別に卒業しなくても既にあれやこれやで収入は得てるから、大学に居るのは単に学生と言う身分を利用するためだ。教授はいい加減に真面目にやれと、これも付き合った女達と同じことをいうけれど、唯一まともに向き合ったのが『人心売買』の展開する演劇だけだなんて、誰も知らない。
『謝ってるつもりないでしょ』
「そうだね、たぶん」
『どうしてこんな話してるのかな』
「どうしてだろうね」
暇だからじゃないかとはさすがに言わなかった。
代わりに昨日送られてきたデータをPCで眺める。
鮮烈な赤、深みのある緑。目が痛くなるはずの配色に、切り絵のような竜の姿。
劇団『竜夢』の『竜は街に居る』と言う新作の役者募集のポスターだ。素人のオーディションまでやるとは、意欲作なのか、先行きが見えてどうでも良くなったのか。
ちゃら、と胸元で銀の十字架が鳴った。無意識に指で押さえて口走る。
「ねえもういいかな、用事ができた」
『…死ねば』
ぷつっと切れた電話に貢はメールの指示を読み返す。
「たいした役者もいないだろうけどね。ま、いいか、退屈しのぎになるし」
もう一度ポスターを眺める。
「この竜、綺麗だな。誰が描いたんだろう」
役者が無理でも、このポスターを作った才能は買いかも知れない。
薄く微笑んで、貢はPCを閉じた。
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