『ドラゴン・イン・ナ・シティ』

segakiyui

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第1章 『竜は街に居る』

3.独立記念日「一人で笑う夜が辛いんだ」(1)

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「禄君!」
「はい!」
 注文を運び終えて振り返ると、『あいおい』の小日向夫婦が笑っている。
「今日はもう上がりでいいよ」
「でも」
「ずいぶん気にしてるわねえ」
 女将さんが丸い顔を綻ばせる。
「好きな番組があるんだっけか。お前んところにテレビがあったかな」
「嫌ですよ、お父さん」
 突っ込む女将さんに大将は眉を寄せる。
「今時の人はテレビで映画なんて観ませんよ。パソコン」
「パシコンねえ」
「ぱ、そ、こ、ん」
「わかってるぞ、それぐらい。平べったい、こう折り畳みできるテレビみたいなもんだろ」
「あ、でも、じゃあ、奥を片付けたら」
 そんなにそわそわしていたかな、と禄は恥ずかしくなる。
 『竜夢』のオーディションを受けて合格し、明後日が初参加、それまでにせめて伊谷が話していた『青い雨』だけでも見ようとあれこれ調べていたが、ネット上には見つからず、諦めて伊谷に頼むとすぐにDVDを送ってくれた。届いたのは昨日で、それとなく気にしていたのを女将さんに見透かされ、話してしまったのは少し失敗、それでも観たい気持ちが募ってくるのは確かで。
「ようやくお前にも惚れ込むものができたんだ、いいことだ」
「えっ…あっ…はい」
 なお顔が熱くなったのは、人には言えない事情がある。
「じゃ、あの、お先に失礼します!」
「はいはい、また明日ね」
「はいっ」
 笑う視線に見送られて頭を下げ、歩き出した足は否応無しに早足になった。
「ただいま、『ひもちさん』」
 部屋の中は冷えている。室内に入れておいたサボテンも体を竦めているように見える。
 初めはテレビを置いていた。家とはそういうものだろうと思ったせいだが、そのうち次第につけなくなって、やがてネットショップで売ってしまった。
 理由を聞かれれば、こう答えただろう、一人で笑う夜が辛いんだ、と。
 一人暮らしを寂しいと思ったことなどない。
 自分の好きなものを食べても詰られないし、体が辛ければ薬を飲んで横になっていることもできるし、眠ければ眠っていても責められない。仕事の時間以外は、何をしようと禄の勝手で、その自由さがありがたくて嬉しい。
 けれどある日テレビを見て大笑いした後ふと、そうか、これだけ自分が楽しいと思って過ごしていても、そんなことは誰にも関係がないんだなと思ったのは、テレビ番組のことで大将と女将さんがわいわい話していたからだろう。
 どんなに楽しくても、一人なんだ。
 それでいいと思って来たけれど、笑い声が畳に吸い込まれて消えて行くだけだと感じてからは、その消える感じが辛くなった。
 だからと言って、誰かと暮らしたいなんて微塵も思わないけれど。
「さて、と」
 狭い一間に折り畳みテーブルを出してPCを開く。DVDを入れる時ちょっと震えたのは、この間の興奮を思い出したからかも知れない。
 画面に『竜夢』『青い雨』と文字が浮かび上がるのを見ながら、買って来たコンビニ弁当を開いた。のりシャケ弁当、今日は少し値引きされていて助かった。割り箸で突き出す。
 見始めてすぐに、それがネットで拾ったものじゃないとわかる。実際の公演を収録したものだ。
「公開収録、だったのか…?」
 アマチュア小劇団なら、そういうことが許されるのだろうか?
 舞台はそれほど広くない。4、5人うろうろすれば、それでもう一杯一杯という感じだ。
「あ」
 舜が単独で出て来た。舞台右端の白いカーテンで囲まれた場所に座り、ヘッドセットを付けて話し出す。
『彼女は彼にとって許容範囲です。機能的にも適切ですし、シーンがもう女性を受け入れられるならば、彼女でも問題はないでしょう』
『シーンを?』
「えーと…ここは…」
 伊谷が一緒に送ってくれた脚本を開きながら台詞を追う。
「グランドファームと呼ばれるコンピューターに気持ちをチェックされるところ…だったっけ」
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