『ドラゴン・イン・ナ・シティ』

segakiyui

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第1章 『竜は街に居る』

3.独立記念日「一人で笑う夜が辛いんだ」(2)

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 原作とされる小説は既に読んでいた。本来ならば裸の場面だが、舞台はそうもいかないのだろう。
『あなたの任務を完了し、以後をRUSIA/5000072243に移行します。それでいいですか?』
『待って、ください』
 透明感のある女性とも男性ともつかぬ声に、舜ははっとしたように顔を上げる。照明に一瞬瞳が光った気がして息を飲む。
『シーンは俺と暮すつもりです』
『よい経過です』
『俺との関係は嫌がってません』
『しかし問題があるのでしょう?』
『問題は……』
 どきりとした。
 舜が微かに姿勢を変える。腰を引き、やや俯きながらヘッドセットを押さえる。表情は見えないが、は、と小さく息を吐く気配が続く。
『ありません…俺はシーンを望みます』
 勃った。
 ほんのわずかな姿勢の直し方で、掠れた声で、堪えきれずに愛しい人の姿を考えた男の体が反応したのがわかった。それが物語の光景で、けれど同時に大勢の観客が見守る舞台の端で。そう考えた禄の視界が熱に揺れる。
 ああだから、ここは着衣なのか。
 裸で、リアリティ豊かにそんなものを晒されても、こちらに熱は伝わらない。むしろ、煽られた欲望が押し上げる、と衣服の僅かな動きで想像させられる方が、クル。
『シーンは……楽しんでいます』
『何を?』
『俺が泣くのを。俺が動けなくなるのを』
『人類の男性性は相手を支配下に置くことで庇護欲を刺激されるようです』
『シーンを俺に魅きつける?』
『設定を変えますか?』
 会話は進む。画面的には動きの少ない見栄えのしない光景なのに、カーテンで囲まれた空間で椅子の座面を滑って行く舜の指先から目が離せない。
『あなたはどう感じていますか?』
 台詞が途切れたその間を、膝へ流れ、大腿からゆっくりと吸い寄せられるように動いて行く指先に意識が持っていかれる。
 おい。
 頭の隅が痺れたみたいにことばを繰り返す。
 待てよ、一体、何をやらかす気なんだ?
 舜が腰を前へずらせた。両脚をそろそろと開く。ヘッドセットを押さえた右手、ぎごちなく中央へ這い寄って行く左手。
『俺は』
 さっきより数段柔らかな声が響いて、際どい場所に指を置いた舜が呟く。
『俺は困っています』
 どうしたらいいのかわからない。
 ああ、こいつは。
 痺れた思考の片隅で禄は考える。
 さっきのは男として煽られている、シーンと言う奴を抱くことを思って。けれど今は。そうだ、今はこいつは感じたことがない欲望に煽られて、それを扱いあぐねている。けれどそれはこいつの知ったやり方では満たせない。なぜならそれは、こいつを開いて強く、奥深くまで突っ込んでやることでしか満たせない快感で…。
「っっ!」
 禄は慌てて画面のスイッチを切った。
 そんな場面じゃない、そんな展開じゃない、そんな演技じゃない、なのに。
「そんな…話じゃない…のに…っ」
 自分の邪さに赤くなるのを自覚しながら、それでも禄は弁当を放って、ティッシュの箱を引き寄せた。
 とりあえず、一度なんとかしておかないと、この続きを見られそうにない。
「ん…っ」
 掴んだ自分のものの固さに唾を飲みながら壁にもたれて目を閉じる。
 耳の奥に声が響く。舜の戸惑う切なげな声が。
『あなたを壊したくなったら、どうしよう、シーン』
「…ぼく、が…君を……っ」
 壊してあげよう。
 駆け上がって来た雫は掌を熱く濡らした。
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