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幕間 2『扉』
『扉』(1)
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人生には色々な扉がある。
それを開くと新しい場所や世界に行けて、今までと違う人生が始まる扉。
けれどそれは、開いて見ないとわからない。
時に扉のようには見えないものもある。
禄にとっては、あの日開いたタンスの扉がそれだった。
狭くて暗くて湿っぽくて、恐らくは臭くて、人が居る場所ではなくて。
そこに居る間は、それほど酷い場所だとは気づいていなかったけれど、離れて見て初めてわかる、酷い居場所。
「……来たよ、萩さん」
年明けて、それほど時間が経っていない日に、禄は1人で墓所を訪れていた。
舜は連れて来なかった。
来て欲しくなかったのではなくて、きっと禄の姿を見て、ボロボロ泣き出してしまうだろう優しい彼を、これ以上悲しませたくなかったから。
それほど酷い事だったと、ようやく気づく。
日々、それほど酷い事だったのだと、知り始める。
舜との明るく静かで豊かな毎日が積み重ねられていくに従って。
『竜夢』でログ・オウライカとの出会いが増えていくほどに。
萩光一。
何と、あの刑事にふさわしい名前であることか。
墓は少し古くて、小さくて、身内もほとんど死に絶えていて、けれど整理もされないのは、ここの住職が萩にやはり命を救われていて、もし宗教的にこだわりがないのなら、是非自分の寺に墓所を定めて欲しいと生前に頼み込んでいたからで、それは息子の代になっても受け継がれている。
『萩さんがいなけりゃ、俺は生まれてなかったんですから』
跡を継いだ息子も剃りあげた頭で人懐こく笑って、禄を迎えてくれた。
教えられた通りに墓を掃除し、仏花を備えて、しゃがみ込む。
明るい日差しが墓石に跳ねる。
「…光がいっぱいだね、萩さん……っ」
瞬間、視界を涙が覆って声が途切れる。
どれほど時が経っても、いや、時が経てば経つほど、美しい景色が記憶に残れば残るほど、あのタンスの中で閉じこもっていた闇の深さが胸に堪える、涙が溢れる。
よく、見つけ出してくれた。
よく、踏み込んでくれた。
よく、手を差し伸べてくれた。
リスクしかなかっただろうに。
恨みしか買わないだろうから、結婚はしないと言っていたそうだ。
身内を狙われるからと、なるべく一人で過ごしていたそうだ。
それほどの覚悟を持って挑んだ職において、褒賞を受け取ることもなく、大きな評価を受けることもなく、ただただ街角に立つ一人の刑事として終えた。退職後、一人暮らしの孤独な老人として過ごし、死を迎えたのは体調を崩して入院した病院だった。遺骨を引き取ったのは遠縁で、この寺に収めてから墓参に来たことはないと聞く。
一筋の、光のように。
ログ・オウライカは市井にいる。
「…『おれ』は……恥じない……生き方を……する…っ」
咽びながら誓う。
「恨みや…憎しみに……人生を……使わない……あなたが……開いてくれた……世界を………喜んで………受け取る……っ」
声を上げて泣いた。
優しい手が舞い降りる。
気づいて触れると、1枚の枯葉だった。
それを開くと新しい場所や世界に行けて、今までと違う人生が始まる扉。
けれどそれは、開いて見ないとわからない。
時に扉のようには見えないものもある。
禄にとっては、あの日開いたタンスの扉がそれだった。
狭くて暗くて湿っぽくて、恐らくは臭くて、人が居る場所ではなくて。
そこに居る間は、それほど酷い場所だとは気づいていなかったけれど、離れて見て初めてわかる、酷い居場所。
「……来たよ、萩さん」
年明けて、それほど時間が経っていない日に、禄は1人で墓所を訪れていた。
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来て欲しくなかったのではなくて、きっと禄の姿を見て、ボロボロ泣き出してしまうだろう優しい彼を、これ以上悲しませたくなかったから。
それほど酷い事だったと、ようやく気づく。
日々、それほど酷い事だったのだと、知り始める。
舜との明るく静かで豊かな毎日が積み重ねられていくに従って。
『竜夢』でログ・オウライカとの出会いが増えていくほどに。
萩光一。
何と、あの刑事にふさわしい名前であることか。
墓は少し古くて、小さくて、身内もほとんど死に絶えていて、けれど整理もされないのは、ここの住職が萩にやはり命を救われていて、もし宗教的にこだわりがないのなら、是非自分の寺に墓所を定めて欲しいと生前に頼み込んでいたからで、それは息子の代になっても受け継がれている。
『萩さんがいなけりゃ、俺は生まれてなかったんですから』
跡を継いだ息子も剃りあげた頭で人懐こく笑って、禄を迎えてくれた。
教えられた通りに墓を掃除し、仏花を備えて、しゃがみ込む。
明るい日差しが墓石に跳ねる。
「…光がいっぱいだね、萩さん……っ」
瞬間、視界を涙が覆って声が途切れる。
どれほど時が経っても、いや、時が経てば経つほど、美しい景色が記憶に残れば残るほど、あのタンスの中で閉じこもっていた闇の深さが胸に堪える、涙が溢れる。
よく、見つけ出してくれた。
よく、踏み込んでくれた。
よく、手を差し伸べてくれた。
リスクしかなかっただろうに。
恨みしか買わないだろうから、結婚はしないと言っていたそうだ。
身内を狙われるからと、なるべく一人で過ごしていたそうだ。
それほどの覚悟を持って挑んだ職において、褒賞を受け取ることもなく、大きな評価を受けることもなく、ただただ街角に立つ一人の刑事として終えた。退職後、一人暮らしの孤独な老人として過ごし、死を迎えたのは体調を崩して入院した病院だった。遺骨を引き取ったのは遠縁で、この寺に収めてから墓参に来たことはないと聞く。
一筋の、光のように。
ログ・オウライカは市井にいる。
「…『おれ』は……恥じない……生き方を……する…っ」
咽びながら誓う。
「恨みや…憎しみに……人生を……使わない……あなたが……開いてくれた……世界を………喜んで………受け取る……っ」
声を上げて泣いた。
優しい手が舞い降りる。
気づいて触れると、1枚の枯葉だった。
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