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第3章 『異世界』
2.ゴーカート 「風になるってこういうこと?」(1)
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「まず受付をどうぞ」
声を掛けられて禄は急いで振り返った。それほど大きくない事務所で、入った左のカウンターから迎えてくれた男性は、がっしりした体格ではあるものの穏やかな気配だ。
「ここにお名前と住所と」
「はい」
ついさっきまで眺めていた棚にはヘルメットや手袋が置かれている。持っていなくてもここで借りることができるそうだ。
「ゴーカートライセンスってできたんですよね」
舜が嬉しそうに赤いヘルメットを選びながら話しかけるのに、男性は頷いた。
「よくご存知ですね、JAFが新設しました」
受付が終わると10分ほどの説明DVDを見て、装備を身につけ、レンタルカートが並んでいる場所に向かう。何もかも禄には初めての経験だが、舜は付き合いで数回来たことがあるらしい。
『よく、風になるっていうじゃん? 経験したくない?』
にこにこしながら誘う舜を断れるはずもなく、結局『竜夢』ほぼ全員でやって来てしまった。車やバイクが運転できるなら、わざわざ『風になる』経験なんかしなくてもと思ったけれど、伊谷が輝夜と楽しい経験を積むのを逃すはずはなく、今もいそいそと輝夜のヘルメットを抱えて運んでいる。今日のために購入したそうだ。
「一応説明しておきますね。ブレーキは左、アクセルは右。シート右にあるのがエンジンで、後方の筒状のものがマフラー。ステアリングの下、左がエンジンスタート、右がエンジンストップ。スイッチ入れてアクセル踏んで、始動したら一旦停止する、ここまではいいですか?」
「はいっ」
舜が元気よく応じた。
「じゃあ、まず乗りましょうか。真ん中に立って……シートに座って、そうそう足を伸ばして。うまく届きますか」
ヘルメットは予想以上に狭苦しくて視界が遮られた。バイザーが降りているのが、余計に視野を遮られる気がする。きょろきょろと視線を動かすだけではうまく見えない気がして、ヘルメットごとくるくると車体を見回す。
「そこには触れないで。外側の枠に足を掛けるのも駄目です」
戸惑う禄に鋭い声が飛んで来てひやりとした。
「走っているとマフラー熱くなります。注意して」
「はい」
恐る恐る言われた金属部品を避けて、シートを掴み、体を落とす。
すぽん、と入り込むような感覚。ヘルメットと同じく、まるで体の形にくり抜かれたような空間に嵌まり込むみたいだ。これでは安易に抜けられないと少し不安になる。
「一旦停止したら前方後方確認して走り出す。左手挙げてしばらく外側走って……あの辺りまで、それからゆっくり内側に走って行って下さい。何かあったら停まって両手挙げて振って。駆けつけます。黄色のフラッグはコース上トラブル、追い越し禁止。チェッカーが振られたら終了、また左手挙げてピットにゆっくり戻って来て下さい……それでは、行ってらっしゃい」
「…行って、来ます」
「お先に、禄」
心得たように先に走り出してくれる舜の赤いヘルメットに頷き、禄もエンジンを動かしてアクセルを踏む。
声を掛けられて禄は急いで振り返った。それほど大きくない事務所で、入った左のカウンターから迎えてくれた男性は、がっしりした体格ではあるものの穏やかな気配だ。
「ここにお名前と住所と」
「はい」
ついさっきまで眺めていた棚にはヘルメットや手袋が置かれている。持っていなくてもここで借りることができるそうだ。
「ゴーカートライセンスってできたんですよね」
舜が嬉しそうに赤いヘルメットを選びながら話しかけるのに、男性は頷いた。
「よくご存知ですね、JAFが新設しました」
受付が終わると10分ほどの説明DVDを見て、装備を身につけ、レンタルカートが並んでいる場所に向かう。何もかも禄には初めての経験だが、舜は付き合いで数回来たことがあるらしい。
『よく、風になるっていうじゃん? 経験したくない?』
にこにこしながら誘う舜を断れるはずもなく、結局『竜夢』ほぼ全員でやって来てしまった。車やバイクが運転できるなら、わざわざ『風になる』経験なんかしなくてもと思ったけれど、伊谷が輝夜と楽しい経験を積むのを逃すはずはなく、今もいそいそと輝夜のヘルメットを抱えて運んでいる。今日のために購入したそうだ。
「一応説明しておきますね。ブレーキは左、アクセルは右。シート右にあるのがエンジンで、後方の筒状のものがマフラー。ステアリングの下、左がエンジンスタート、右がエンジンストップ。スイッチ入れてアクセル踏んで、始動したら一旦停止する、ここまではいいですか?」
「はいっ」
舜が元気よく応じた。
「じゃあ、まず乗りましょうか。真ん中に立って……シートに座って、そうそう足を伸ばして。うまく届きますか」
ヘルメットは予想以上に狭苦しくて視界が遮られた。バイザーが降りているのが、余計に視野を遮られる気がする。きょろきょろと視線を動かすだけではうまく見えない気がして、ヘルメットごとくるくると車体を見回す。
「そこには触れないで。外側の枠に足を掛けるのも駄目です」
戸惑う禄に鋭い声が飛んで来てひやりとした。
「走っているとマフラー熱くなります。注意して」
「はい」
恐る恐る言われた金属部品を避けて、シートを掴み、体を落とす。
すぽん、と入り込むような感覚。ヘルメットと同じく、まるで体の形にくり抜かれたような空間に嵌まり込むみたいだ。これでは安易に抜けられないと少し不安になる。
「一旦停止したら前方後方確認して走り出す。左手挙げてしばらく外側走って……あの辺りまで、それからゆっくり内側に走って行って下さい。何かあったら停まって両手挙げて振って。駆けつけます。黄色のフラッグはコース上トラブル、追い越し禁止。チェッカーが振られたら終了、また左手挙げてピットにゆっくり戻って来て下さい……それでは、行ってらっしゃい」
「…行って、来ます」
「お先に、禄」
心得たように先に走り出してくれる舜の赤いヘルメットに頷き、禄もエンジンを動かしてアクセルを踏む。
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