『闇を見る眼』

segakiyui

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第5章

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 冷たい。
 美並は目を覚まして瞬きする。
 あれ?
「…」 
 周囲は薄明るい。明け方だと言うのは、空気が冷えてきているのでわかる。暖房をつけていても、今の二人は裸で毛布一枚に包まっているような状況だから、寒い、ならわかる。
 けれど冷たい、頭のあたりが。
 そろそろ視線を上げて、真崎の顔を見た。眠っている、けれど。
「…涙…?」
 そろっと身を起こしても真崎は動かない。
「うわ」
 ここと思った場所に触れて気がついた。枕がぐっしょり濡れている。一瞬それほど汗をかいたかと思ったが、よくよく見ると真崎の睫毛がまだ濡れているみたいだし、頬にも涙の跡がある。
「泣いてた……泣かせた…?」
 確かに昨夜は二人ともちょっと吹っ飛んでいた。真崎は全開で手を休めることなど考えもしてなくて、美並もまた拒もうと思わなかった。

「どうやって気持ちいいことしたのか、ちゃんと見せて」
 美並のことばがきっかけになったのは確かだろう。
「ん、、はっ」
 シャワーを終えてベッドに入ると、待てないように覆いかぶさってきた真崎は、キスの合間にもう息を喘がせていた。滑らかで熱い肌、全身で吸いつくように抱き締められて、口を合わせたかと思うと、そのまま頬に耳に首に胸にと舌を這わせ、舐めてはキスし、時に強く吸っていく。跡を残しているつもりさえないのだろう、何度も何度も吸いついてはまた舐めて、肩に腕に手首に、脇腹に下腹に足の付け根に、毛布に潜り込みながら美並の全てを食べて行く。脚に膝に踝爪先まで、舌が触れていって恥ずかしいような切ないような、こんな愛し方をされたのは初めてで、時々ぎょっとして引いてしまえば、それがなお煽るのか、執拗にその部分を責められて、じっと黙って受け入れるまで繰り返される。背中に腰にそして後ろから前に入り込まれて脚を広げられた時には、舌先が触れられた時点で限界だった。
「あっ」
「んくっ」
 仰け反る美並に真崎も呻いて押し込んだ舌先と指をしばらく止める。次の瞬間、ちゅううと吸い付かれて全身恥ずかしくて熱くなった。何を、と尋ねるまでもない。真崎なら平然と美並の、とか話し出すだろうから、悲鳴をあげた口を慌てて抑えて啜られるままに堪える。
 見えないじゃない。
 潤んだ視界で喘ぎながら罵った。
 そんなところでどんな顔してそんなことしてるのか、見えない。
 いや…見える。シャワーを浴びて上気して、困った顔でタオルを掴んだ掌の下、押し上げていたものを覚えている。水滴に濡れた顔、薄く開いた口でちょっと舌を出して見せた、あの顔が今、何に濡れているか。
「…っっ」「!」
 もう一度駆け上がってしまって驚いた。真崎もびくりと震えたのは、再び溢れたものに気づいたのだろうか、すぐに舌で拭われて仰け反る。
「…ぁ」
 儚い声が部屋に響いた。泣きじゃくった果てに響くような切なげな声。
 真崎がびくりと跳ねてうろたえたように這い上がってくる、けれど同時に進めてきたものは容赦なくに美並の中に押し込まれてきた。熱の塊が入り込んでくる、潤んだ壁を押し広げながら。
「んっ」
 毛布の中から真崎が顔を出す。少し眉を寄せて上気した顔、熱っぽい瞳で舌舐めずりして、気になったのか手の甲で口元を拭うと、そっと美並にキスしてくる。
「ふ、っんっっ」
 呼吸を乱しながらのキスは、すぐに口をこじ開けられて深くなり、閉じることも許されないまま隅々まで舌で探られた。上も下も一杯にされて、力の抜けた体に緩んだ胸も両側掴まれて、指先で遊ばれながら揉みしだかれる。激しい。
「っは…っ」
 口を離して真崎が喘ぐ。
「あ…っあ…」
 忙しく息を吐きながら、首に吸い付き舐め降りて、固くなり尖り出した胸の先を含む。
「…っっ」
 齧られたのかと思うほど強く吸われ、その後舌先でくすぐられた。内側のものはどんどん高まって行くのか、じりじりともっと深く押し入ってくる。指先と舌で胸を何度も愛されて、再び強い波が止められなくて駆け上がるのに、許してくれなくて、そのまま同様に責められて視界が眩む。
「み…な……み……っ」
 耳に囁かれて、その声があまりにも切なげで体が甘くうねる。自分も欲望むき出しの顔をしているのかと慌てて顔を背けると、追いかけられて口を塞がれ、手首をベッドに押し込まれてなお深く貫かれた。
「ん、あっ」
 そんな、ところ、まで、来る、?
 悲鳴は真崎が吸い取ってしまった。追い落とされる美並の腰を心得たように引き寄せながら、真崎が首を含みに来て、貫かれながら、また届く範囲全部舐められる。  
 意識が飛びかけた。
 初めて見た深淵。制御が効かないとはこういうことかと遠くで感じて、
「きょ…す……」
 お願い、もう、無理。
 声が聞こえたのか、真崎が少し体を引いてくれたが、その途端、自分の体が真崎に食いつくように絞り込んだ。
「っああああっ」
 真崎が仰け反って声を上げ、突然激しく動き始める、まるで何かのスイッチが入ったか、爆発するものを背負わされたように。
 いっ。
 美並の呻きは声にならなかった。
 真崎の動きに呼応するように揺れる自分は、競り上がった快感を失わないように巧みに動いている。真崎が逃げれば、追いかけ掴み撫でさする。顔を真っ赤に火照らせた真崎が喘ぎながら再びくれば、吸い込み奥へ引き込み、その先を絞るように包み込む。
 受け止める、快楽を。
 手首を掴んでいた真崎が震えながらベッドに手をつき、崩れそうな顔で美並を見下ろして来る。朦朧とした視線、汗に濡れた顔、開いた唇もまた艶やかに濡れている。
 見つめ返した。
「…聞、かせて…ない…っ」
 一瞬強く唇を噛んだ真崎が呻く。
「こんな……こえ…っ………」
 泣き出しそうに潤む瞳。
「み…て……っ」
 悲鳴のように叫びながら、
「全部……見て……っ ………っっ…」
 蕩けた顔で腰を振り続ける。
 眉を寄せて目を閉じ、仰け反って開いた唇、反らせた首にとろみのある液体が流れ落ちて来る。尖った胸の先は薄赤く膨らみ、先端に汗の雫が光る。
 ああ、やられちゃう。
 こんな真崎を見せられて、何人が正気を保てるのか。
「っ、あ、あー……っ」
 消えてしまいそうな声と同時に大きく腰を突き込まれる。
 痛みに近い衝撃と境界を越えてしまう感覚。
「み、な…み……っ」
 求めすがって甘えて来るその声に、堪えていた美並も歯を食いしばって駆け上がった。
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