『ラズーン』第六部

segakiyui

文字の大きさ
11 / 119

1.運命(さだめ)のもとに(11)

しおりを挟む
 ボクが行くよ。
 あの夜、灯皿の明かりに片頬を浮かび上がらせたユーノは言い切った。たじろがぬ黒の瞳、不敵なまでの笑みを押し上げた顔が淡く紅潮していた。
『ボクなら「金羽根」とも野戦部隊(シーガリオン)とも「繋ぎ」がつく』
 確かに事実だった。
 いくらイルファが名のある戦士だと主張したところで、野戦部隊(シーガリオン)はラズーンにその隊ありと知られた精鋭、おいそれと自分達の指揮官に他所者を認めるわけもない。少女ながら額帯(ネクト)を受け、『星の剣士』(ニスフェル)の名を花冠とするユーノだからこそ、シートス以外の者に率いられることに野戦部隊(シーガリオン)が納得した。
 それに、とアシャはユーノに聞こえないところでイルファに囁いた。
『ユーノはレアナに自分の修羅場を見せたくないんだろう』
 今ではイルファも、ユーノがひたすらレアナに自分の戦いを隠して来たことを知っている。理由ははっきりわからなかったが、ただ一つ、肉親に己が血糊に塗れて人を屠るところを見られたくないのだろうとは思った。イルファだって、できることなら幼いレスファートに人の生の脆さなど見せたくはない。
「ク、クェア!」
「ん……わかったよ、報告に行けってんだろ」
 サマルカンドの焦れたような叫びに、イルファは重い足取りで向きを変えた。
 それを見届けたように、サマルカンドが翼を羽ばたかせ、再び空へと舞い上がる。通信筒はまだ数個、脚についていた。これから四大公の残りの分領地を巡り、アシャの指示を伝えようと言うのだろう。
「畜生、こんなことなら、さっさとおっぱじまってくれた方が…」
 苦々しくぼやいたイルファは、ふと聞こえて来た声に立ち止まった。高く澄んだ調べ、細い声が煌めくような響きを伴って空を流れて行く。声の出所らしい部屋を覗き込んで、思わず立ち止まった。
「…愛しい人よ
  あなたのために私は祈る
  雨が優しいことを
  陽射しが柔らかなことを
  風の一吹きでその命が消えないようにと…」
「レス…」
 レアナの私室だった。その中央、窓から入る陽を受けて、プラチナブロンドを輝かせながら、レスファートが歌っている。その横にレアナ、目を閉じ指を組み、じっと何かへの想いを凝らして。
「……愛しい人よ
  あなたのために私は祈る
  天があなたを見守るように
  大地があなたを支えるように
  そして私のこの声が、一時甘い安らぎとなることを…」
 陽は惜しみなく降り注いで、レスファートの髪を光らせた。きらきら、きらきら、風に嬲られた髪が光の反射を部屋の床に壁に投げかける。そしてもう一つ、レスファートの滑らかな頬を伝っている涙の反射も。
「…命は終わる
  それは避けられない
  だから私は祈る
  その時、私があなたの憩いともなるようにと
  運命は紡がれる
  それは避けられない
  だから私は願う
  その時、私はあなたに巡り逢えるように、と……

  愛しい人よ
  あなたの吐息、笑い声、優しく私を撫でた指先
  何一つ、私の心から去りはしない
  だから私は一人で祈る
  その時私を連れてゆけ
  その時、私を……連れてゆけ……と……」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします

二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位! ※この物語はフィクションです 流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。 当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

ぽっちゃり女子の異世界人生

猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。 最強主人公はイケメンでハーレム。 脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。 落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。 =主人公は男でも女でも顔が良い。 そして、ハンパなく強い。 そんな常識いりませんっ。 私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。   【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

生きるために逃げだした。幸せになりたい。

白水緑
ファンタジー
屋敷内に軟禁状態だったリリアは、宝物を取り戻したことをきっかけに屋敷から逃げ出した。幸せになるために。体力も力もない。成り行きに身を任せる結果になっても、自分の道は自分で選びたい。 2020/9/19 第一章終了 続きが書け次第また連載再開します。 2021/2/14 第二章開幕 2021/2/28 完結

あやかしたちのとまりぎの日常

彩世幻夜
キャラ文芸
吉祥寺は井の頭公園界隈の一画で、ひっそりと営業するダイニング・バー【ペルシュ】に訪れるお客の大半はひとではないもの、いわゆるあやかしたち。 勿論店の店主や店員もまた人ではない。 そんな店でバイトをするとある専門学校生とあやかしたちが織りなす〝日常(?)〟物語

「婚約破棄された転生令嬢ですが、王城のメイド五百人に慕われるメイド長になりました。なお元婚約者は私のメイドに土下座中です」

まさき
恋愛
社畜OLとして過労死した私は、異世界の令嬢・アリア・ヴェルナーに転生した。 目が覚めたら、婚約破棄されていた。 理由は「地味で面白みがない」から。 泣く暇もなかった。翌朝、王城のメイド採用面接に向かった。 最初は鼻で笑われた。雑用係からのスタートだった。 でも——前世で叩き込まれた仕事術と、一人ひとりの話を聞く姿勢で、少しずつメイドたちが集まってきた。 厨房が変わった。リネンが変わった。王城全体が変わっていった。 そして就任スピーチで宣言した。 「500人全員の名前を、覚えます」 冷酷と噂される王太子は、静かに見ていた。 悪役令嬢は妨害を仕掛けてきた。 元婚約者は——後悔し始めていた。 婚約破棄された令嬢が、500人に慕われるメイド長になるまでの物語。 なお元婚約者は、私のメイドたちの前で土下座中です。

処理中です...