『ラズーン』第六部

segakiyui

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1.運命(さだめ)のもとに(10)

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 大空に白い鳥が舞っている。
「アシャのサマルカンドだ」
 ミダス公の庭、ラフレスの花苑に出ていたイルファは、片手をかざして鳥の行方を追った。鳥(クフィラ)は伸びやかな羽根を悠々と宙空に浮かばせて、二度頭上で旋回した後、ゆっくりとイルファの方へ下降してきた。
「…っとと…とっっ」
 が、イルファの腕には止まらず、バサバサと羽根で空気を打って速度を殺し、近くの枝にふわりと足を載せて落ち着く。
「可愛げのねえ奴だな」
「クェアッ!」
 主人以外の腕に乗らないのは当然と言いたげに、サマルカンドは猛々しい叫びを上げた。
「わかったわかったって。わかったから早く通信文を見せろよ。レスが食わなくて困るんだ、あいつの動きがわからねえと」
 ユーノがミダス公の屋敷を出、ジーフォ公分領地、一大決戦の控えの場としてセシ公が設定した『灰色塔(ガルン・デイトス)』へ向かったのが2日前、当然の如くごねるだろうと思われたレスファートにはほとんど別れの挨拶もなく、それを知ったレスファートが落ち込まないわけもなくーおまけに『銀羽根』の長ともあろうシャイラが、乱戦にあれだけの少人数で大丈夫でしょうか、などと言わなくてもいいことを言ったことも重なりーユーノが発ったその日一日、レスファートは寝床から出てこず、思い出したように泣き出してはイルファの手を煩わせていた。
 さすがに今日は多少立ち直ったものの、いつものあどけない眩い笑みは影を潜め、アクアマリンの淡い色の瞳にともすれば涙を一杯に溜め、それでも泣くまいとするのかじっと唇を噛んで膝を抱えるのがかえって痛々しく、ミダス公の屋敷もレスファート一人のことですっかり重い雰囲気になっている。
 レスファートの、ユーノへの惚れ込み方を知っているイルファにしてみれば、生死もわからぬ戦いへ出ていくと言うのに別れのキス一つもくれない、自分はそんな存在だったのか、そんな枷にしかならないような情けない存在だったのかなどと言う深さでレスファートが悩んでいるかどうかは別にしても、最愛の相手に置き去りにされる辛さは満更知らないわけじゃない。安易にレスファートを慰めるわけにもいかず、アシャからユーノの動向を知らせてくるのを今か今かと心待ちにしていた。
 急いで通信文を開き一気に読み下す、だが。
「あちゃ」
 内容はイルファの期待を見事に裏切っていた。
 ユーノがついに『灰色塔(ガルン・デイトス)』から出陣、『金羽根』と野戦部隊(シーガリオン)の少数精鋭にて敵地へ乗り込んだこと、戦闘としてはかなりの乱戦になる由、この機に乗じて、他公分領地へも戦の余波が及びかねないこと、その他、細々とした指示でミダス公の守護を頼むという文面、ただでさえユーノ不在に食の細くなっているレスファートが、遅かれ早かれ絶食断食を始めてしまうだろうことは容易に想像がついた。
「弱っちまったなあ…」
 イルファはごつい手で、ごしごしと頭を掻いた。
 宥めなくてはならないのはレスファートだけではない。妹とアシャの安否を気遣うレアナ、アシャの突然の出立にすっかり臍を曲げてしまっているリディノもいる。
 レアナと話せるのは悪くはないが、それでも子供を安心させてやると言うような、細かい配慮は無骨なイルファにとって苦痛以外の何物でもない。こんなことなら、いっそあの夜、ユーノが一人戦場へ行くと言った時に代わりに行けばよかったとさえ思う。
 もっとも、それを申し出たところで、ユーノが納得するとは思えなかったが。
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