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2.灰色塔(ガルン・デイトス)(8)
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夕暮れに近い淡い陽の中、アリオの部屋の扉がゆっくり開く。中から2つの人影、人目を避けるようなアリオとジーフォ公の姿、簡単な旅支度をしているところを見ると、どこかへ行こうと言うのだる。
「今頃どこへ行く気なのかな」
「俺はどっちかっつーと無視したいな、あのお姫さん、苦手だ」
「僕も同じだよ、けれどリヒャルティの命令は1つ」
「ジーフォ公を『灰色塔(がルン・デイトス)』から出すな、だろ」
囁き交わしてギャティとバルカは頷き合った。
なにせ、四大公の誰が裏切っているのか、配下にどれだけの裏切り者がいるのかはっきりしない今、まんまと策にはまって姿を消したはずのジーフォ公が、あちらこちらに不用意に姿を見せるほど愚かしいことはない。それこそ、一分の隙なく搗き固めていっている作戦が一挙に崩壊する憂き目を見る。だからこそ、セシ公はバルカ、ギャティの2人を目付けとして配置して置いたのだ。
「ジーフォ公」
「!」
「それに、アリオ・ラシェット様とお見受けいたしましたが」
声をかけられて2人は動きを止めた。やがて、1人がゆっくりと前に進み出る。夕暮れの光に厳しくしかめられたジーフォ公の顔が浮き上がる。
「如何にも。何用だ?」
「どちらへ行かれますか?」
やんわりとギャティが尋ねる。
「ミダス公の屋敷へな。アリオがアシャに会いたいそうだ」
一瞬屈辱に鋭くなった目の光を弱めようともせずに、ジーフォ公はギャティを凝視した。
「通してもらおう」
「残念ながら」
バルカがゆったりと応じる。
「お通しするわけには参りませんな」
「何?』
「我らは『金羽根』、セシ公命の下、リヒャルティの指示により動いております。我らが受けた命令はただ一つ、ジーフォ公には今しばらく灰色塔(ガルン・デイトス)』にご滞在願うこと」
「では」
それまで黙っていたアリオがきつい視線でギャティを射抜いた。
「あなた達の役目がジーフォ公を止めることなら、私には関係がないはずですね」
「そうなりますね」
「では、私1人で参ります」
「いかん」
ジーフォ公の声にアリオは険しい顔になった。
「まだこの上に私を縛るおつもりですの?」
「いや、縛るつもりはない…ないが、1人で行かせるわけにはいかん」
ジーフォ公にしてみれば、1人で行かせれば最後、アリオは二度とこの手に戻らないとわかっているだけに辛いのだろうが、その辺りの苦しさをアリオが配慮に入れることはなかった。
「では、どうなさるおつもりですの」
冷笑を投げて問う。その目の冷たさに、ジーフォ公の顎がぐっと引き締まった。
「1人では行かせん。ならばこそ」
腰の剣を引き抜く。
「腕尽くでも通る!」
「ほう」
「腕尽くでも、ね」
面白い、とバルカとギャティは目を細めた。もともと顔立ちの優しさとは正反対の荒い気性、加えて『金羽根』リヒャルティの元で荒仕事に磨きをかけられているとあれば、少々の脅しで引き下がろうはずもない。
「良かろう」
こちらは剣を抜きもせず、バルカが腕を組む。
「戦地に出ている我らが長、引いては『星の剣士』(ニスフェル)、アシャ殿の策まで無為にしようとなさる気なら、こちらも引くわけにはいかないな」
ギャティが得意の短剣を抜き放つ。夕陽を弾く光芒に瞳を煌めかせて、
「裏切り者の汚名を着て、死に急がれるか、ジーフォ公」
重ねて、依然腕を組んだままのバルカが声高に言い放つ。
「たかが女1人の為に!」
「くっ」
呻くジーフォ公の顔が歪む。彼とて愚かさは重々わかっている、わかってはいるが、抑えきれないのも持って生まれた性格、この上は一戦覚悟と3人が各々に身構えた次の一瞬、凛と澄んだ声が間を破った。
「今頃どこへ行く気なのかな」
「俺はどっちかっつーと無視したいな、あのお姫さん、苦手だ」
「僕も同じだよ、けれどリヒャルティの命令は1つ」
「ジーフォ公を『灰色塔(がルン・デイトス)』から出すな、だろ」
囁き交わしてギャティとバルカは頷き合った。
なにせ、四大公の誰が裏切っているのか、配下にどれだけの裏切り者がいるのかはっきりしない今、まんまと策にはまって姿を消したはずのジーフォ公が、あちらこちらに不用意に姿を見せるほど愚かしいことはない。それこそ、一分の隙なく搗き固めていっている作戦が一挙に崩壊する憂き目を見る。だからこそ、セシ公はバルカ、ギャティの2人を目付けとして配置して置いたのだ。
「ジーフォ公」
「!」
「それに、アリオ・ラシェット様とお見受けいたしましたが」
声をかけられて2人は動きを止めた。やがて、1人がゆっくりと前に進み出る。夕暮れの光に厳しくしかめられたジーフォ公の顔が浮き上がる。
「如何にも。何用だ?」
「どちらへ行かれますか?」
やんわりとギャティが尋ねる。
「ミダス公の屋敷へな。アリオがアシャに会いたいそうだ」
一瞬屈辱に鋭くなった目の光を弱めようともせずに、ジーフォ公はギャティを凝視した。
「通してもらおう」
「残念ながら」
バルカがゆったりと応じる。
「お通しするわけには参りませんな」
「何?』
「我らは『金羽根』、セシ公命の下、リヒャルティの指示により動いております。我らが受けた命令はただ一つ、ジーフォ公には今しばらく灰色塔(ガルン・デイトス)』にご滞在願うこと」
「では」
それまで黙っていたアリオがきつい視線でギャティを射抜いた。
「あなた達の役目がジーフォ公を止めることなら、私には関係がないはずですね」
「そうなりますね」
「では、私1人で参ります」
「いかん」
ジーフォ公の声にアリオは険しい顔になった。
「まだこの上に私を縛るおつもりですの?」
「いや、縛るつもりはない…ないが、1人で行かせるわけにはいかん」
ジーフォ公にしてみれば、1人で行かせれば最後、アリオは二度とこの手に戻らないとわかっているだけに辛いのだろうが、その辺りの苦しさをアリオが配慮に入れることはなかった。
「では、どうなさるおつもりですの」
冷笑を投げて問う。その目の冷たさに、ジーフォ公の顎がぐっと引き締まった。
「1人では行かせん。ならばこそ」
腰の剣を引き抜く。
「腕尽くでも通る!」
「ほう」
「腕尽くでも、ね」
面白い、とバルカとギャティは目を細めた。もともと顔立ちの優しさとは正反対の荒い気性、加えて『金羽根』リヒャルティの元で荒仕事に磨きをかけられているとあれば、少々の脅しで引き下がろうはずもない。
「良かろう」
こちらは剣を抜きもせず、バルカが腕を組む。
「戦地に出ている我らが長、引いては『星の剣士』(ニスフェル)、アシャ殿の策まで無為にしようとなさる気なら、こちらも引くわけにはいかないな」
ギャティが得意の短剣を抜き放つ。夕陽を弾く光芒に瞳を煌めかせて、
「裏切り者の汚名を着て、死に急がれるか、ジーフォ公」
重ねて、依然腕を組んだままのバルカが声高に言い放つ。
「たかが女1人の為に!」
「くっ」
呻くジーフォ公の顔が歪む。彼とて愚かさは重々わかっている、わかってはいるが、抑えきれないのも持って生まれた性格、この上は一戦覚悟と3人が各々に身構えた次の一瞬、凛と澄んだ声が間を破った。
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