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3.パディスの戦い(3)
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ユーノは叫んですぐに苛立たしく歯を食いしばった。
戦いの中、自分がどれほど無理な注文をつけているのか十分にわかっている。敵が倒れれば後顧の憂いなくすために追いたくなるのは人情、友を斬った奴に仕返しをしたいと思うのも当たり前、だが、その気持ちに流されたが最後、囲まれて屠られるのは目に見えている。
「ガイル!」
「ぎゃうっ!」
「くっ」
目の前で野戦部隊(シーガリオン)の一人が首を掻き斬られて絶命した。噴き出した血が音を立ててユーノの腕を掠め、とっさに顔を背けると頬に温かな飛沫が飛んだ。ガイルを殺した男はユーノに気づかず背中を向ける。無防備な背中を引き裂きたいという想いを、ユーノは必死に振り払った。
(覚えていろ)
強くきつく唇を噛む。
(決して無事には済ませない、私でなくとも、きっと仲間が、きっと誰かがお前を殺す)
「ぐうっっ」
「ユカル!」
左腕を斬られてユカルが声を上げ、振り返りざまに相手を馬から叩き落としたユーノに笑う。
「大、丈夫だ!」
「わかった!」
言い捨てて次の相手に剣を向ける。視界の奥が真紅に染まっている。
(ユカルの腕…真っ赤…)
顔が歪んだ。朱に染まった左腕、今すぐ手当をしなければ使い物にならなくなるかもしれない。不安を振り切って、飛び込んできた男を斬り下げる。水晶の剣は切れ味を落とさない。華奢で脆そうな外見に反して、如何なる業物も及ばないような切れ味のまま、ユーノの生を保ち続ける。さすがに『泉の狩人』(オーミノ)の持ち物というべきか。濡れた血を振り捨てて向きを変える。
「あちっ」
「リヒャルティ!」
「ドジっただけ」
左手から響いたリヒャルティの声は、口調の割りには弱々しく聞こえた。どこをやられたのだろう…ひょっとして……ひょっとして。暗い想いがユーノの心に渦を巻く。いつまで続く? 今どれほど味方は生き残っている? そして、これが終わった時、一体どれだけの人間が生き残っている……?
「攻めるな! 追うな! 守りに従え!」
叫び疲れた声を張る。だが、何人がユーノのことばを聞いているのか、、聞けるような状態なのか。走らせたヒストが何かを踏みつける。
ばき。
(体!)
鈍い衝撃がヒストから伝わって、ユーノは思わず総毛立った。誰かの体、屍体だったかそれともまだ息があったか、腕か胸か足か背骨か、踏みつけて砕いてしまった。味方だったかも知れない。ユーノに命を預けてくれた誰かだったかも知れない……。
「ち、いっ!」
体が強張った瞬間を狙って振り下ろされた剣に腕を掠られ、ユーノは舌打ちして身を捻った。続いて襲ってくる切っ先を右に左に躱し続ける。追い迫る相手に一言、
「『星の剣士』(ニスフェル)と知ってのことか!」
「っ、ぎゃああっ!」
一瞬たじろいだ相手の隙を見逃すわけもなく、光を走らせて閃かせた剣が相手の脾腹を抉った。仰け反って転げ落ちる相手がもがいて立ち上がろうとした矢先、なだれ込んできた2人の蹄が押し潰す。絶叫を耳に、ユーノはくるりと身を翻らせた。血濡れて淡く薄紅に染まった剣を手に、敵を探す、総大将の一人、ネハルール、ガデロの王の姿を。
(どこに……もっと奥か、それとも……居た!)
ネハルールは身を縮めるようにして数人の男に守られながら、蒼白な顔で戦況を見ていた。楽々勝てる戦とばかり思っていたのだろう、思いもよらぬ壮絶な展開に、王たる誇りも威信も失くし、今にも腰を抜かして脱げ出しそうだ。そうして見るとおかしなもので、周囲の男達が、ネハルールを守るためというよりは、逃げ出すのを防ぐためにネハルールを囲んでいるように見えてくる。
「……」
ユーノは無言でネハルールの方へヒストを走らせ始めた。途中突っかかってくる数人を剣を一閃させてあしらい、一直線にネハルールへ向かって突進する。さすがに気づいたらしい守りの男達が、一人また一人とユーノに襲いかかってきたが、一対一となると相手が視察官(オペ)出ない限り、ユーノの敵ではない。
「ネハルール……ガデロのネハルールだな」
礼儀も何もあったものではないが、肩で息をしながらユーノが問うのに、ネハルールは真っ白になった顔にわずかに血の色を蘇らせた。
「お前如きに…」
「試してみるか?」
「や、あっ!」
剣を引き抜き、大仰な仕草でネハルールは突っ込んできた。予想外に鋭い切り込みに、瞬間、間を外されてようよう受け止める。左腕を濡れた感触が伝う。さっき斬られた部分かと、気持ちが逸れた瞬間、背後に人の気配がした。
「く」
「はあっ!」
気合いとともに振り下ろされた剣に、身を沈める。同時に縁を描きながら伸びた足先が、相手の腰をしたたかに蹴りつける。前へのめった男の剣がヒストの鞍に突っ込まれ、驚いたヒストが棹立ちになった。
(しまった!!)
戦いの中、自分がどれほど無理な注文をつけているのか十分にわかっている。敵が倒れれば後顧の憂いなくすために追いたくなるのは人情、友を斬った奴に仕返しをしたいと思うのも当たり前、だが、その気持ちに流されたが最後、囲まれて屠られるのは目に見えている。
「ガイル!」
「ぎゃうっ!」
「くっ」
目の前で野戦部隊(シーガリオン)の一人が首を掻き斬られて絶命した。噴き出した血が音を立ててユーノの腕を掠め、とっさに顔を背けると頬に温かな飛沫が飛んだ。ガイルを殺した男はユーノに気づかず背中を向ける。無防備な背中を引き裂きたいという想いを、ユーノは必死に振り払った。
(覚えていろ)
強くきつく唇を噛む。
(決して無事には済ませない、私でなくとも、きっと仲間が、きっと誰かがお前を殺す)
「ぐうっっ」
「ユカル!」
左腕を斬られてユカルが声を上げ、振り返りざまに相手を馬から叩き落としたユーノに笑う。
「大、丈夫だ!」
「わかった!」
言い捨てて次の相手に剣を向ける。視界の奥が真紅に染まっている。
(ユカルの腕…真っ赤…)
顔が歪んだ。朱に染まった左腕、今すぐ手当をしなければ使い物にならなくなるかもしれない。不安を振り切って、飛び込んできた男を斬り下げる。水晶の剣は切れ味を落とさない。華奢で脆そうな外見に反して、如何なる業物も及ばないような切れ味のまま、ユーノの生を保ち続ける。さすがに『泉の狩人』(オーミノ)の持ち物というべきか。濡れた血を振り捨てて向きを変える。
「あちっ」
「リヒャルティ!」
「ドジっただけ」
左手から響いたリヒャルティの声は、口調の割りには弱々しく聞こえた。どこをやられたのだろう…ひょっとして……ひょっとして。暗い想いがユーノの心に渦を巻く。いつまで続く? 今どれほど味方は生き残っている? そして、これが終わった時、一体どれだけの人間が生き残っている……?
「攻めるな! 追うな! 守りに従え!」
叫び疲れた声を張る。だが、何人がユーノのことばを聞いているのか、、聞けるような状態なのか。走らせたヒストが何かを踏みつける。
ばき。
(体!)
鈍い衝撃がヒストから伝わって、ユーノは思わず総毛立った。誰かの体、屍体だったかそれともまだ息があったか、腕か胸か足か背骨か、踏みつけて砕いてしまった。味方だったかも知れない。ユーノに命を預けてくれた誰かだったかも知れない……。
「ち、いっ!」
体が強張った瞬間を狙って振り下ろされた剣に腕を掠られ、ユーノは舌打ちして身を捻った。続いて襲ってくる切っ先を右に左に躱し続ける。追い迫る相手に一言、
「『星の剣士』(ニスフェル)と知ってのことか!」
「っ、ぎゃああっ!」
一瞬たじろいだ相手の隙を見逃すわけもなく、光を走らせて閃かせた剣が相手の脾腹を抉った。仰け反って転げ落ちる相手がもがいて立ち上がろうとした矢先、なだれ込んできた2人の蹄が押し潰す。絶叫を耳に、ユーノはくるりと身を翻らせた。血濡れて淡く薄紅に染まった剣を手に、敵を探す、総大将の一人、ネハルール、ガデロの王の姿を。
(どこに……もっと奥か、それとも……居た!)
ネハルールは身を縮めるようにして数人の男に守られながら、蒼白な顔で戦況を見ていた。楽々勝てる戦とばかり思っていたのだろう、思いもよらぬ壮絶な展開に、王たる誇りも威信も失くし、今にも腰を抜かして脱げ出しそうだ。そうして見るとおかしなもので、周囲の男達が、ネハルールを守るためというよりは、逃げ出すのを防ぐためにネハルールを囲んでいるように見えてくる。
「……」
ユーノは無言でネハルールの方へヒストを走らせ始めた。途中突っかかってくる数人を剣を一閃させてあしらい、一直線にネハルールへ向かって突進する。さすがに気づいたらしい守りの男達が、一人また一人とユーノに襲いかかってきたが、一対一となると相手が視察官(オペ)出ない限り、ユーノの敵ではない。
「ネハルール……ガデロのネハルールだな」
礼儀も何もあったものではないが、肩で息をしながらユーノが問うのに、ネハルールは真っ白になった顔にわずかに血の色を蘇らせた。
「お前如きに…」
「試してみるか?」
「や、あっ!」
剣を引き抜き、大仰な仕草でネハルールは突っ込んできた。予想外に鋭い切り込みに、瞬間、間を外されてようよう受け止める。左腕を濡れた感触が伝う。さっき斬られた部分かと、気持ちが逸れた瞬間、背後に人の気配がした。
「く」
「はあっ!」
気合いとともに振り下ろされた剣に、身を沈める。同時に縁を描きながら伸びた足先が、相手の腰をしたたかに蹴りつける。前へのめった男の剣がヒストの鞍に突っ込まれ、驚いたヒストが棹立ちになった。
(しまった!!)
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