『ラズーン』第六部

segakiyui

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3.パディスの戦い(6)

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 胸の中で2つの想いがぶつかり合っている。
 1つはいつまでたっても受け入れられない自分への傷み、もう1つは今戦いに傷つき続けているだろう娘への傷み。
 ある一瞬はユーノの痛みをわかってやり包んでやり守ってやってくれる男になら、彼女を任せてもいいと思う。ユーノが憩えさえするのなら、他のどんな男の腕だって構わないとさえ思う。
 が、次の一瞬には、ユーノを抱く『ほかの男』と言う存在を考えるだけで、じりじりと心の奥底が灼かれていくような気がする。そればかりか、自分以外の腕でユーノが心を開くと言うことが、狂おしいほど苛だたしい。
 耐えられない、と心が呟く。
 どうして俺はお前の側に居られない。どうして俺は、お前を他の奴の腕に任せなくてはならない。全世界が救えたとしても、お前が死ぬなら、俺にとって世界にどんな意味がある。
 わかっていたことのはずだった。策を練った時から、こうなることは予想していたはずだった。
 だが、ここまで自分がユーノを求めているとは気づかなかった。
 恋しい、切ない、慕わしい。想いを宿すことばが見つからない。
(何のことは無い、追い詰められているのは俺の方か)
 アシャは苦笑した。
(『氷のアシャ』が聞いて呆れる)
「アシャ殿」
「うむ?」
「それだけではありませんね?」
「…」
 無言のアシャに、セシ公は再び正面を向いて背中を向けた。
「こうしている間にも、私の背には冷たい汗が流れている…あなたの殺気を感じてね」
 にやりとアシャは笑った。
 たゆたっていた想いがくるりと反転する。
 凍りつくほど非情な意志、ラズーンを崩壊させる全ての原因に向けられた殺意。
 それがアシャのものなのか、それともアシャに植え付けられたものなのか、既に判別はできないが、少なくともアシャの中には、この世界を保つための仕組みが深く根を下ろしている。
「気づいていたのか」
 二重の意味を込めて囁いた。
「見損なって頂いては困る」
 セシ公が冷ややかに応じる。
「ジーフォとテッツェほど阿吽の呼吸はなくとも、仮にも『ラズーンの情報屋』と呼ばれている、『氷のアシャ』が恋しい娘への想いだけで動くなどとは思っていない」
「ほう?』
「四大公の裏切り……私の目付役はさしずめあなた、ですか」
 問いにアシャは微笑したまま答えなかった。
 裏切りと目付役。
 それならばまだ、可愛いものだ。
「…私は裏切っていない」
「お定まりの美辞麗句か?」
「そうとって頂いても結構……先ほども言った通り、私は『情報屋』だ、不利な取引はしない」
「…期待しよう」
 灯火に2つの影が揺らめいていた。
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