45 / 119
4.2人の軍師(4)
しおりを挟む
「戦況は」
冷ややかな声が問う。
「西の戦いにてレトラデス、ネハルールが戦死、残りの300名は直ちに引いた『星の剣士』(ニスフェル)の一群を追ったのですが、後一歩のところで詰められず、『ラズーン』外壁内に逃げ込まれ、現在外壁と『金羽根』に押さえ込まれて膠着状態です。こちらの長はイワティン、『金羽根』の方は灰色塔(ガルン・デイトス)を中心にセシ公およびリヒャルティの兄弟が采配を振るっており、今の所、押し返されないようにするのが手一杯です」
「ふん」
黒の玉座についたギヌアは冷たく唸って、地図を見下ろした。
「ユーノ・セレディス1人も仕留められない輩では仕方あるまい。東は?」
「『眼』の情報によりますと、『銀羽根』『銅羽根』、見事に討ち果たしました。現在20名ほど失ったのみで、我が軍はじわじわと『白の流れ』(ソワルド)に沿って北上、『氷の双宮』へ進軍中です」
シリオンがにんまりと赤い目を細めた。
「さしものアシャも西に気を取られて、東には手が回らなかったと見えます。『銀羽根』『銅羽根』ともに烏合の衆同然、我が軍の攻めに一にも二にもなく散り散りになった様子、不確かではありますが、『銀羽根』のシャイラは落命した様子です」
「散り散り?」
シリオンの自慢げな報告に、ギヌアは眉をひそめた。何か引っかかることがあるといった気配で、
「討ち果たしたと言わなかったか?」
「はい、ですから散り散りになり、とても軍とは呼べませぬ故…」
なぜ御大将はこんなことを聞くのだろうと訝る顔で、シリオンはギヌアを見上げた。
「シリオン」
「は」
「東の戦いの詳しい報告を為せ」
「は…?」
「どこでどのように軍がぶつかり、どのように『銀羽根』が引いたのか。どのような攻めを行ったのか」
「は、はい」
促されてシリオンは紅の瞳を瞬いた。ギヌアの自分同様に赤い、けれども乱れる白髪と青白い顔のせいで一層鮮やかに光る眼を見つめ、紛れもなく本気で命じているのだと知ると、口ごもりながら話し出した。
シダルナン、モディスンの1500名の軍は、レトラデス、ネヘルールと同じく、ラズーンの両翼で牽制撹乱の命を帯びて『運命(リマイン)』支配下(ロダ)より出発、もう少しでラズーン外壁というところで、『銀羽根』『銅羽根』を主力とする一隊に遭遇した。とはいえ、前もって『眼』から敵の総数と戦法を伝えられ、十分な用意の元に遭遇を待っていたシダルナン、モディスン隊と、唐突に1500名の軍を目前にした『羽根』の一軍では、動揺の仕方が違う。力で押すシダルナン、モディスンに多少なりとも立ち向かえたのはさすがだったが、それも『銀羽根』の長であり、この度の遠征軍の長でもあるシャイラが倒れると、戦況は一気に『運命(リマイン)』勝利へ傾いた。
「シダルナン、モディスンは『白の流れ』(ソワルド)に沿って所々に拠点を置きながら北上し…」
「シリオン」
「はい」
「拠点には何名を置いている?」
「は…50~80名…現在5拠点を設置しておりますから、北上しているのは1000名前後です」
「1000名前後…」
ギヌアは眉根を寄せた。何かが心にしこっている。西の戦いに手を取られ、東のシダルナン、モディスンにへの対応が遅れた、それはわからぬでもない。ましてや西にはアシャの惚れ込んだユーノが出ている。並の男なら戦場に出ている恋しい女に気を取られ、他のことがお留守になる、それもわかる。
が。
「アシャが…?」
『氷のアシャ』と呼ばれたほどの軍師が、これほど容易く守りの一角を敵に明け渡すだろうか? それも、ギヌア、かつての正統後継者を相手にしているとわかっているのに?
「シリオン」
「は」
「『穴の老人』(ディスティヤト)をシダルナン、モディスンに付けろ」
「『穴の老人』(ディスティヤト)を…ですか?」
「嫌な予感がする」
「…は」
シリオンは納得しきれない様子を滲ませながら、不承不承頷いた。
冷ややかな声が問う。
「西の戦いにてレトラデス、ネハルールが戦死、残りの300名は直ちに引いた『星の剣士』(ニスフェル)の一群を追ったのですが、後一歩のところで詰められず、『ラズーン』外壁内に逃げ込まれ、現在外壁と『金羽根』に押さえ込まれて膠着状態です。こちらの長はイワティン、『金羽根』の方は灰色塔(ガルン・デイトス)を中心にセシ公およびリヒャルティの兄弟が采配を振るっており、今の所、押し返されないようにするのが手一杯です」
「ふん」
黒の玉座についたギヌアは冷たく唸って、地図を見下ろした。
「ユーノ・セレディス1人も仕留められない輩では仕方あるまい。東は?」
「『眼』の情報によりますと、『銀羽根』『銅羽根』、見事に討ち果たしました。現在20名ほど失ったのみで、我が軍はじわじわと『白の流れ』(ソワルド)に沿って北上、『氷の双宮』へ進軍中です」
シリオンがにんまりと赤い目を細めた。
「さしものアシャも西に気を取られて、東には手が回らなかったと見えます。『銀羽根』『銅羽根』ともに烏合の衆同然、我が軍の攻めに一にも二にもなく散り散りになった様子、不確かではありますが、『銀羽根』のシャイラは落命した様子です」
「散り散り?」
シリオンの自慢げな報告に、ギヌアは眉をひそめた。何か引っかかることがあるといった気配で、
「討ち果たしたと言わなかったか?」
「はい、ですから散り散りになり、とても軍とは呼べませぬ故…」
なぜ御大将はこんなことを聞くのだろうと訝る顔で、シリオンはギヌアを見上げた。
「シリオン」
「は」
「東の戦いの詳しい報告を為せ」
「は…?」
「どこでどのように軍がぶつかり、どのように『銀羽根』が引いたのか。どのような攻めを行ったのか」
「は、はい」
促されてシリオンは紅の瞳を瞬いた。ギヌアの自分同様に赤い、けれども乱れる白髪と青白い顔のせいで一層鮮やかに光る眼を見つめ、紛れもなく本気で命じているのだと知ると、口ごもりながら話し出した。
シダルナン、モディスンの1500名の軍は、レトラデス、ネヘルールと同じく、ラズーンの両翼で牽制撹乱の命を帯びて『運命(リマイン)』支配下(ロダ)より出発、もう少しでラズーン外壁というところで、『銀羽根』『銅羽根』を主力とする一隊に遭遇した。とはいえ、前もって『眼』から敵の総数と戦法を伝えられ、十分な用意の元に遭遇を待っていたシダルナン、モディスン隊と、唐突に1500名の軍を目前にした『羽根』の一軍では、動揺の仕方が違う。力で押すシダルナン、モディスンに多少なりとも立ち向かえたのはさすがだったが、それも『銀羽根』の長であり、この度の遠征軍の長でもあるシャイラが倒れると、戦況は一気に『運命(リマイン)』勝利へ傾いた。
「シダルナン、モディスンは『白の流れ』(ソワルド)に沿って所々に拠点を置きながら北上し…」
「シリオン」
「はい」
「拠点には何名を置いている?」
「は…50~80名…現在5拠点を設置しておりますから、北上しているのは1000名前後です」
「1000名前後…」
ギヌアは眉根を寄せた。何かが心にしこっている。西の戦いに手を取られ、東のシダルナン、モディスンにへの対応が遅れた、それはわからぬでもない。ましてや西にはアシャの惚れ込んだユーノが出ている。並の男なら戦場に出ている恋しい女に気を取られ、他のことがお留守になる、それもわかる。
が。
「アシャが…?」
『氷のアシャ』と呼ばれたほどの軍師が、これほど容易く守りの一角を敵に明け渡すだろうか? それも、ギヌア、かつての正統後継者を相手にしているとわかっているのに?
「シリオン」
「は」
「『穴の老人』(ディスティヤト)をシダルナン、モディスンに付けろ」
「『穴の老人』(ディスティヤト)を…ですか?」
「嫌な予感がする」
「…は」
シリオンは納得しきれない様子を滲ませながら、不承不承頷いた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします
二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位!
※この物語はフィクションです
流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。
当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ぽっちゃり女子の異世界人生
猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。
最強主人公はイケメンでハーレム。
脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。
落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。
=主人公は男でも女でも顔が良い。
そして、ハンパなく強い。
そんな常識いりませんっ。
私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。
【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】
生きるために逃げだした。幸せになりたい。
白水緑
ファンタジー
屋敷内に軟禁状態だったリリアは、宝物を取り戻したことをきっかけに屋敷から逃げ出した。幸せになるために。体力も力もない。成り行きに身を任せる結果になっても、自分の道は自分で選びたい。
2020/9/19 第一章終了
続きが書け次第また連載再開します。
2021/2/14 第二章開幕
2021/2/28 完結
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
あやかしたちのとまりぎの日常
彩世幻夜
キャラ文芸
吉祥寺は井の頭公園界隈の一画で、ひっそりと営業するダイニング・バー【ペルシュ】に訪れるお客の大半はひとではないもの、いわゆるあやかしたち。
勿論店の店主や店員もまた人ではない。
そんな店でバイトをするとある専門学校生とあやかしたちが織りなす〝日常(?)〟物語
「婚約破棄された転生令嬢ですが、王城のメイド五百人に慕われるメイド長になりました。なお元婚約者は私のメイドに土下座中です」
まさき
恋愛
社畜OLとして過労死した私は、異世界の令嬢・アリア・ヴェルナーに転生した。
目が覚めたら、婚約破棄されていた。
理由は「地味で面白みがない」から。
泣く暇もなかった。翌朝、王城のメイド採用面接に向かった。
最初は鼻で笑われた。雑用係からのスタートだった。
でも——前世で叩き込まれた仕事術と、一人ひとりの話を聞く姿勢で、少しずつメイドたちが集まってきた。
厨房が変わった。リネンが変わった。王城全体が変わっていった。
そして就任スピーチで宣言した。
「500人全員の名前を、覚えます」
冷酷と噂される王太子は、静かに見ていた。
悪役令嬢は妨害を仕掛けてきた。
元婚約者は——後悔し始めていた。
婚約破棄された令嬢が、500人に慕われるメイド長になるまでの物語。
なお元婚約者は、私のメイドたちの前で土下座中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる