『ラズーン』第六部

segakiyui

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4.2人の軍師(4)

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「戦況は」
 冷ややかな声が問う。
「西の戦いにてレトラデス、ネハルールが戦死、残りの300名は直ちに引いた『星の剣士』(ニスフェル)の一群を追ったのですが、後一歩のところで詰められず、『ラズーン』外壁内に逃げ込まれ、現在外壁と『金羽根』に押さえ込まれて膠着状態です。こちらの長はイワティン、『金羽根』の方は灰色塔(ガルン・デイトス)を中心にセシ公およびリヒャルティの兄弟が采配を振るっており、今の所、押し返されないようにするのが手一杯です」
「ふん」
 黒の玉座についたギヌアは冷たく唸って、地図を見下ろした。
「ユーノ・セレディス1人も仕留められない輩では仕方あるまい。東は?」
「『眼』の情報によりますと、『銀羽根』『銅羽根』、見事に討ち果たしました。現在20名ほど失ったのみで、我が軍はじわじわと『白の流れ』(ソワルド)に沿って北上、『氷の双宮』へ進軍中です」
 シリオンがにんまりと赤い目を細めた。
「さしものアシャも西に気を取られて、東には手が回らなかったと見えます。『銀羽根』『銅羽根』ともに烏合の衆同然、我が軍の攻めに一にも二にもなく散り散りになった様子、不確かではありますが、『銀羽根』のシャイラは落命した様子です」
「散り散り?」
 シリオンの自慢げな報告に、ギヌアは眉をひそめた。何か引っかかることがあるといった気配で、
「討ち果たしたと言わなかったか?」
「はい、ですから散り散りになり、とても軍とは呼べませぬ故…」
 なぜ御大将はこんなことを聞くのだろうと訝る顔で、シリオンはギヌアを見上げた。
「シリオン」
「は」
「東の戦いの詳しい報告を為せ」
「は…?」
「どこでどのように軍がぶつかり、どのように『銀羽根』が引いたのか。どのような攻めを行ったのか」
「は、はい」
 促されてシリオンは紅の瞳を瞬いた。ギヌアの自分同様に赤い、けれども乱れる白髪と青白い顔のせいで一層鮮やかに光る眼を見つめ、紛れもなく本気で命じているのだと知ると、口ごもりながら話し出した。
 シダルナン、モディスンの1500名の軍は、レトラデス、ネヘルールと同じく、ラズーンの両翼で牽制撹乱の命を帯びて『運命(リマイン)』支配下(ロダ)より出発、もう少しでラズーン外壁というところで、『銀羽根』『銅羽根』を主力とする一隊に遭遇した。とはいえ、前もって『眼』から敵の総数と戦法を伝えられ、十分な用意の元に遭遇を待っていたシダルナン、モディスン隊と、唐突に1500名の軍を目前にした『羽根』の一軍では、動揺の仕方が違う。力で押すシダルナン、モディスンに多少なりとも立ち向かえたのはさすがだったが、それも『銀羽根』の長であり、この度の遠征軍の長でもあるシャイラが倒れると、戦況は一気に『運命(リマイン)』勝利へ傾いた。
「シダルナン、モディスンは『白の流れ』(ソワルド)に沿って所々に拠点を置きながら北上し…」
「シリオン」
「はい」
「拠点には何名を置いている?」
「は…50~80名…現在5拠点を設置しておりますから、北上しているのは1000名前後です」
「1000名前後…」
 ギヌアは眉根を寄せた。何かが心にしこっている。西の戦いに手を取られ、東のシダルナン、モディスンにへの対応が遅れた、それはわからぬでもない。ましてや西にはアシャの惚れ込んだユーノが出ている。並の男なら戦場に出ている恋しい女に気を取られ、他のことがお留守になる、それもわかる。
 が。
「アシャが…?」
 『氷のアシャ』と呼ばれたほどの軍師が、これほど容易く守りの一角を敵に明け渡すだろうか? それも、ギヌア、かつての正統後継者を相手にしているとわかっているのに?
「シリオン」
「は」
「『穴の老人』(ディスティヤト)をシダルナン、モディスンに付けろ」
「『穴の老人』(ディスティヤト)を…ですか?」
「嫌な予感がする」
「…は」
 シリオンは納得しきれない様子を滲ませながら、不承不承頷いた。
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