『ラズーン』第六部

segakiyui

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4.2人の軍師(7)

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「……」
 ふっと唐突に意識が戻った。
 同時に、胸を痛くするような真剣さで、アクアマリンの淡い瞳を精一杯見開いた少年の顔が飛び込んでくる。
「…レス……」
「…」
 少年は応えなかった。きっと食いしばった口元がわずかに緩みかけたが、何か大切なことを思い出したように再びぎゅっと唇を引き締め、いよいよ瞳を見開く。やがてゆっくり押し殺した声で、
「ユーノ……大丈夫?」
「…ああ。……レス?」
「っ」
 答えるや否や少年の自制は切れた。見開いた目が見る間に曇り、潤み、ぽた、と温かな雫がユーノの頬に落ち、すぐに数を増した。
「…泣いたら……ユーノ……目を…覚まさない……って」
 なおも泣き出しそうなのを堪えた声で、レスはユーノを覗き込んだまま訴えた。低く掠れた声が震えを帯びて耳を打つ。
「だから……ぼく……っ」
「レス…」
 ユーノは身を起こした。ミダス公の屋敷、与えられた私室、他には誰もいない。息を詰めてユーノの挙動を見守っていたレスファートは、ユーノが小さく息を吐いて腰を落ち着けるのに深い息を吐き、それでまたもや新しい涙を誘われたのか、くしゃくしゃと顔を歪めた次の瞬間、必死の力でしがみついてきた。
「…っと」
「…ゆ……ゆー……のぉ…」
 堪え切れずに呻く。
「…大丈夫だよ。レス、私は大丈夫だから」
「うん……うん……っ」
 わずかに頷くプラチナブロンドの頭を優しく撫でてやる。
(酷な我慢をさせた)
 ユーノを母とも恋人とも思っているレスファートにとって、ユーノが目を覚まさないのはどれほどの恐怖だっただろう。それが己の涙一雫にかかっているとなれば、尚更だ。
(いったい誰だ、そんな阿呆なことを言ったのは。アシャか? イルファか?)
 どちらにせよ、一度は冷や汗をかかせてやる、と荒々しく考えて、ユーノはなだめるようにレスファートの肩を抱きながら尋ねた。
「アシャは?」
「今…広間の方…」
「広間? 何?」
「夜会…だって」
「夜会?」
 ユーノは眉をひそめた。
 ラズーンは今動乱の只中にある。平和な治世、世の波を感じぬセレドならまだしも、動乱の中心とも言えるラズーンで、夜会、などと言う余裕のあるものが開かれるはずがない。
 ユーノの眉は、次のレスファートのことばで、なお一層寄せられた。
「別れの…うたげ…だって」
「別れ…?」
「うん…シャイラが」
 レスファートはユーノの体に巻きつけた腕をそのままに、反り返るようにユーノを見上げた。
「戦死、したって。アシャが代わりに東へ行くから…」
「シャイラが戦死? アシャが出る?」
 おうむ返しに応じたユーノの顔がよほど険しくなったのだろう、レスファートが怯えた表情になる。
「ユーノ…?」
「レス…アシャを呼んできて……ううん、私が行く」
「あ、でも……う、うん」
 引き止めかけたレスファートは、ユーノのただならぬ様子に不安げに頷いた。
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