『ラズーン』第六部

segakiyui

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4.2人の軍師(9)

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「納得のいかないこと?」
 思い詰めたジノの口調が急に変わって、ユーノは瞬いた。
「何?」
「レスファート様におっしゃられたことばです」
 背中を向けたままのジノの声は不安そうに悩んでいる。
「レスに?」
「…レスファート様がお側につかれ、ユーノ様がなかなかお目覚めにならないのに涙を溜めていらしたのに…『泣くとユーノ帰ってこない気がするわ』とぽつりとおっしゃって」
「リディノが?」
 思わず問い直した口調がきつかったのだろう、ゆっくりとジノが振り返る。憂いをたたえた瞳でユーノを見上げた。
「以前の姫さまなら、あんなことはおっしゃらなかった……一体姫さまは何をお考えになっているのでしょう……」
 思わず知れず漏れたような声音だった。
 幼い頃から慕ってきたリディノ、姉のような妹のような、切なく愛しい存在だったリディノの急変に訝りながらも、単に自分が不要になったのだと言われたくなくて、聞くに聞けなかったようだ。珍しく子どもっぽい眼でユーノを見つめ、滲みそうになった涙を慌てて飲み込むように目を伏せて、ジノは低く呟いた。
「あの男が近づいてから…」
「え?」
「いえ、ある男が姫さまと話しているのを見かけ出してから、姫さまは人が変わられたような気がして…」
「ある男って言うのは、ジュナ・グラティアスのことかい?」
「!」
 はっとしたようにジノは顔を上げた。
「やっぱり」
「ご存知で」
「何となく……勘、どまりだけど」
 脳裏にいつかの光景が浮かぶ。
 淡い色の髪、深緑の瞳、視察官(オペ)ジュナ・グラティアス。
 リディノと話し込んでいたのは何のためだ? レアナをセレドより連れ出しもした、今ラズーンにおいて、そんな命令が出されるはずはないこともわかってきている、ならば、一体誰の命令で?
(イリオール)
 ふと頭の中をイリオールの姿が掠めた。いつだったか、廊下ですれ違ったイリオールが、何か気遣わしげにジュナの方へ視線を走らせたことがあった……。
「ユーノ様?」
「…ああ」
 ジノの声に我に返る。
「私から一度、リディノに聞いてみよう、何かあったのか、と。その代わり」
「はい」
 きらりとジノの瞳が不敵な色を帯びた。詩人(うたびと)らしくない、猛々しい薄い笑みを唇に刷いて、
「ジュナ・グラティアス、探ってみます」
「頼んだよ」
「ユーノ!」
 レスファートが待ちかねて飛び込んできて、話を切った。目線で話すなとジノに知らせる。頷いたジノはすぐに気配を切り替えた。まんざら芝居でもなさそうな誇らしげな口調になって、
「如何でしょう、レスファート様」
「きれい!! きれい!! とってもきれい!!」
「…ありがと…レス」
 屈託のない最上級の賛辞に照れると、ジノは嬉しそうに笑った。
「ありがとう、ジノ」
「くれぐれも、お気をつけて」
 頷き返してレスファートに付き添われ部屋を出て行くユーノの胸に、不吉な予感が渦巻き始める。
(一体どうしたの…リディノ)
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