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4.2人の軍師(10)
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(一体、どうしたのかしら、私は)
リディノは鏡に映る自分の顔を覗き込みながら考えた。仄白い顔、思い詰めたような薄緑の瞳はどこか昏いものを宿して底光りしているように見える。
今の自分を見て、春の女神のような、と言う形容を誰が思いつくだろう。ついさっき梳った髪も、やはり青ざめたような光をプラチナブロンドにたたえている。白い薄物を幾重にも重ねたドレスは、アシャの帰る日だけを待っていたもの、それが妙に浮ついていて白々しい気がする。いつもジノに頼む支度を自分一人でしたせいで、何かが欠けている気がしてならない。
いや、欠けてるものは分かっている。
(アシャ……兄様)
幾度その名を呼んだだろう。幾度その姿を探し求めただろう。幾つの幻が、そのリディノの手を遠ざけたことだろう。白く高貴なレアナ、炎のように激しい『西の姫君』の噂、けれど何よりリディノをアシャから遠ざけたのは、繰り返す旅の夜をアシャと過ごしたユーノの存在だ。
ユーナ・セレディス。セレド第二皇女。
美しい姫ではない。少女にしては強すぎる心としたたかすぎる頭と逞しすぎる想いと。
『聖なる輪』(リーソン)の下の瞳は何ものにもたじろがず怯まず、未来を見つめ続ける。傷を負った体を馬の背に、一人の命を救うために己の命を引き換えようとする。
何故なのだ。心は呟く。それほど強い娘なのに。
リディノの方がアシャを必要としている。身を守る剣も持たず、祈りしかこの手になく、動乱のラズーンに一人置き去られるなら、きっと生きてはいまい。そんな娘こそ守られて当然ではないのか。そんな娘こそ、誰かの救いを求めて当然ではないか。剣を持ち、野を駆け、揺れ動く世界の中を生き抜ける娘に、なぜアシャが魅かれる?
(私は一体どうしたのかしら)
シャイラが戦死した、と聞いた。東の地で『運命(リマイン)』とぶつかり、負傷し、熱にうなされ、うわ言にミダスの行く末を案じながら一人、天幕(カサン)の下で逝った、と。
シャイラは優しい幼馴染だった。幼い頃からリディノに従い、ジノと2人でリディノを守ってきてくれた人間だった。一時はグードスとリディノを争い、友人の縁を切ろうとまでした、それほどリディノを想ってくれた人だった。
なのに、そのシャイラが死んだことを聞かされても、リディノの眼に涙は浮かばなかった。
瞳を巡らせる。その先に、あの水晶の小瓶がある。
(アシャ…)
アシャの心が欲しい。アシャの体が欲しい。アシャの全てが……欲しい、何もかも。
リディノは立ち上がり、小瓶を掴んだ。
振り向く鏡に、微笑んだ唇が紅かった。
リディノは鏡に映る自分の顔を覗き込みながら考えた。仄白い顔、思い詰めたような薄緑の瞳はどこか昏いものを宿して底光りしているように見える。
今の自分を見て、春の女神のような、と言う形容を誰が思いつくだろう。ついさっき梳った髪も、やはり青ざめたような光をプラチナブロンドにたたえている。白い薄物を幾重にも重ねたドレスは、アシャの帰る日だけを待っていたもの、それが妙に浮ついていて白々しい気がする。いつもジノに頼む支度を自分一人でしたせいで、何かが欠けている気がしてならない。
いや、欠けてるものは分かっている。
(アシャ……兄様)
幾度その名を呼んだだろう。幾度その姿を探し求めただろう。幾つの幻が、そのリディノの手を遠ざけたことだろう。白く高貴なレアナ、炎のように激しい『西の姫君』の噂、けれど何よりリディノをアシャから遠ざけたのは、繰り返す旅の夜をアシャと過ごしたユーノの存在だ。
ユーナ・セレディス。セレド第二皇女。
美しい姫ではない。少女にしては強すぎる心としたたかすぎる頭と逞しすぎる想いと。
『聖なる輪』(リーソン)の下の瞳は何ものにもたじろがず怯まず、未来を見つめ続ける。傷を負った体を馬の背に、一人の命を救うために己の命を引き換えようとする。
何故なのだ。心は呟く。それほど強い娘なのに。
リディノの方がアシャを必要としている。身を守る剣も持たず、祈りしかこの手になく、動乱のラズーンに一人置き去られるなら、きっと生きてはいまい。そんな娘こそ守られて当然ではないのか。そんな娘こそ、誰かの救いを求めて当然ではないか。剣を持ち、野を駆け、揺れ動く世界の中を生き抜ける娘に、なぜアシャが魅かれる?
(私は一体どうしたのかしら)
シャイラが戦死した、と聞いた。東の地で『運命(リマイン)』とぶつかり、負傷し、熱にうなされ、うわ言にミダスの行く末を案じながら一人、天幕(カサン)の下で逝った、と。
シャイラは優しい幼馴染だった。幼い頃からリディノに従い、ジノと2人でリディノを守ってきてくれた人間だった。一時はグードスとリディノを争い、友人の縁を切ろうとまでした、それほどリディノを想ってくれた人だった。
なのに、そのシャイラが死んだことを聞かされても、リディノの眼に涙は浮かばなかった。
瞳を巡らせる。その先に、あの水晶の小瓶がある。
(アシャ…)
アシャの心が欲しい。アシャの体が欲しい。アシャの全てが……欲しい、何もかも。
リディノは立ち上がり、小瓶を掴んだ。
振り向く鏡に、微笑んだ唇が紅かった。
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