51 / 119
4.2人の軍師(10)
しおりを挟む
(一体、どうしたのかしら、私は)
リディノは鏡に映る自分の顔を覗き込みながら考えた。仄白い顔、思い詰めたような薄緑の瞳はどこか昏いものを宿して底光りしているように見える。
今の自分を見て、春の女神のような、と言う形容を誰が思いつくだろう。ついさっき梳った髪も、やはり青ざめたような光をプラチナブロンドにたたえている。白い薄物を幾重にも重ねたドレスは、アシャの帰る日だけを待っていたもの、それが妙に浮ついていて白々しい気がする。いつもジノに頼む支度を自分一人でしたせいで、何かが欠けている気がしてならない。
いや、欠けてるものは分かっている。
(アシャ……兄様)
幾度その名を呼んだだろう。幾度その姿を探し求めただろう。幾つの幻が、そのリディノの手を遠ざけたことだろう。白く高貴なレアナ、炎のように激しい『西の姫君』の噂、けれど何よりリディノをアシャから遠ざけたのは、繰り返す旅の夜をアシャと過ごしたユーノの存在だ。
ユーナ・セレディス。セレド第二皇女。
美しい姫ではない。少女にしては強すぎる心としたたかすぎる頭と逞しすぎる想いと。
『聖なる輪』(リーソン)の下の瞳は何ものにもたじろがず怯まず、未来を見つめ続ける。傷を負った体を馬の背に、一人の命を救うために己の命を引き換えようとする。
何故なのだ。心は呟く。それほど強い娘なのに。
リディノの方がアシャを必要としている。身を守る剣も持たず、祈りしかこの手になく、動乱のラズーンに一人置き去られるなら、きっと生きてはいまい。そんな娘こそ守られて当然ではないのか。そんな娘こそ、誰かの救いを求めて当然ではないか。剣を持ち、野を駆け、揺れ動く世界の中を生き抜ける娘に、なぜアシャが魅かれる?
(私は一体どうしたのかしら)
シャイラが戦死した、と聞いた。東の地で『運命(リマイン)』とぶつかり、負傷し、熱にうなされ、うわ言にミダスの行く末を案じながら一人、天幕(カサン)の下で逝った、と。
シャイラは優しい幼馴染だった。幼い頃からリディノに従い、ジノと2人でリディノを守ってきてくれた人間だった。一時はグードスとリディノを争い、友人の縁を切ろうとまでした、それほどリディノを想ってくれた人だった。
なのに、そのシャイラが死んだことを聞かされても、リディノの眼に涙は浮かばなかった。
瞳を巡らせる。その先に、あの水晶の小瓶がある。
(アシャ…)
アシャの心が欲しい。アシャの体が欲しい。アシャの全てが……欲しい、何もかも。
リディノは立ち上がり、小瓶を掴んだ。
振り向く鏡に、微笑んだ唇が紅かった。
リディノは鏡に映る自分の顔を覗き込みながら考えた。仄白い顔、思い詰めたような薄緑の瞳はどこか昏いものを宿して底光りしているように見える。
今の自分を見て、春の女神のような、と言う形容を誰が思いつくだろう。ついさっき梳った髪も、やはり青ざめたような光をプラチナブロンドにたたえている。白い薄物を幾重にも重ねたドレスは、アシャの帰る日だけを待っていたもの、それが妙に浮ついていて白々しい気がする。いつもジノに頼む支度を自分一人でしたせいで、何かが欠けている気がしてならない。
いや、欠けてるものは分かっている。
(アシャ……兄様)
幾度その名を呼んだだろう。幾度その姿を探し求めただろう。幾つの幻が、そのリディノの手を遠ざけたことだろう。白く高貴なレアナ、炎のように激しい『西の姫君』の噂、けれど何よりリディノをアシャから遠ざけたのは、繰り返す旅の夜をアシャと過ごしたユーノの存在だ。
ユーナ・セレディス。セレド第二皇女。
美しい姫ではない。少女にしては強すぎる心としたたかすぎる頭と逞しすぎる想いと。
『聖なる輪』(リーソン)の下の瞳は何ものにもたじろがず怯まず、未来を見つめ続ける。傷を負った体を馬の背に、一人の命を救うために己の命を引き換えようとする。
何故なのだ。心は呟く。それほど強い娘なのに。
リディノの方がアシャを必要としている。身を守る剣も持たず、祈りしかこの手になく、動乱のラズーンに一人置き去られるなら、きっと生きてはいまい。そんな娘こそ守られて当然ではないのか。そんな娘こそ、誰かの救いを求めて当然ではないか。剣を持ち、野を駆け、揺れ動く世界の中を生き抜ける娘に、なぜアシャが魅かれる?
(私は一体どうしたのかしら)
シャイラが戦死した、と聞いた。東の地で『運命(リマイン)』とぶつかり、負傷し、熱にうなされ、うわ言にミダスの行く末を案じながら一人、天幕(カサン)の下で逝った、と。
シャイラは優しい幼馴染だった。幼い頃からリディノに従い、ジノと2人でリディノを守ってきてくれた人間だった。一時はグードスとリディノを争い、友人の縁を切ろうとまでした、それほどリディノを想ってくれた人だった。
なのに、そのシャイラが死んだことを聞かされても、リディノの眼に涙は浮かばなかった。
瞳を巡らせる。その先に、あの水晶の小瓶がある。
(アシャ…)
アシャの心が欲しい。アシャの体が欲しい。アシャの全てが……欲しい、何もかも。
リディノは立ち上がり、小瓶を掴んだ。
振り向く鏡に、微笑んだ唇が紅かった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします
二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位!
※この物語はフィクションです
流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。
当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ぽっちゃり女子の異世界人生
猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。
最強主人公はイケメンでハーレム。
脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。
落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。
=主人公は男でも女でも顔が良い。
そして、ハンパなく強い。
そんな常識いりませんっ。
私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。
【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
生きるために逃げだした。幸せになりたい。
白水緑
ファンタジー
屋敷内に軟禁状態だったリリアは、宝物を取り戻したことをきっかけに屋敷から逃げ出した。幸せになるために。体力も力もない。成り行きに身を任せる結果になっても、自分の道は自分で選びたい。
2020/9/19 第一章終了
続きが書け次第また連載再開します。
2021/2/14 第二章開幕
2021/2/28 完結
あやかしたちのとまりぎの日常
彩世幻夜
キャラ文芸
吉祥寺は井の頭公園界隈の一画で、ひっそりと営業するダイニング・バー【ペルシュ】に訪れるお客の大半はひとではないもの、いわゆるあやかしたち。
勿論店の店主や店員もまた人ではない。
そんな店でバイトをするとある専門学校生とあやかしたちが織りなす〝日常(?)〟物語
「婚約破棄された転生令嬢ですが、王城のメイド五百人に慕われるメイド長になりました。なお元婚約者は私のメイドに土下座中です」
まさき
恋愛
社畜OLとして過労死した私は、異世界の令嬢・アリア・ヴェルナーに転生した。
目が覚めたら、婚約破棄されていた。
理由は「地味で面白みがない」から。
泣く暇もなかった。翌朝、王城のメイド採用面接に向かった。
最初は鼻で笑われた。雑用係からのスタートだった。
でも——前世で叩き込まれた仕事術と、一人ひとりの話を聞く姿勢で、少しずつメイドたちが集まってきた。
厨房が変わった。リネンが変わった。王城全体が変わっていった。
そして就任スピーチで宣言した。
「500人全員の名前を、覚えます」
冷酷と噂される王太子は、静かに見ていた。
悪役令嬢は妨害を仕掛けてきた。
元婚約者は——後悔し始めていた。
婚約破棄された令嬢が、500人に慕われるメイド長になるまでの物語。
なお元婚約者は、私のメイドたちの前で土下座中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる