『ラズーン』第六部

segakiyui

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4.2人の軍師(14)

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 くすくすとユーノは笑う。会話を繋ぐ、機嫌良く、楽しい話題となるように。
(あの時と、同じか)
 幾つの誕生パーティの時だっただろう。
 さすがに主賓がいなくては意味がないと皇妃に窘められて、渋々出た夜会だった。儀礼上誘われた踊り、一人二人と踊ったものの、座が盛り上がるにつれ、出席者の所作がぎごちなくなった。ユーノ自身も前々日に傷つけた脚の痛みが強くなって来ていた。なんとかごまかしていたせいで、相手に負担をかけていたのかもしれない。
 乱れた衣服を直すためと偽って席を外れ、痛み止めを塗って包帯を蒔き直し、待たせてはいけないと夜会に戻ろうとして見たのは、レアナとセアラに殺到している騎士達だった。誰も彼も頬を紅潮させ、先ほどの丁寧だが大人しげな様子ではなく、情熱を込めて踊りを申し込んでいる。
 ああやはり、傷のせいで下手だったからだ、申し訳ないと謝って以後は座を楽しみたいと座っていようかと考えたユーノの側を、陰に隠れているとは気づかなかったのだろう、慌ただしくレアナ達に向かいながら話す声が通る。
「しかしまあ、必死だな、どいつもこいつも」「当たり前だろ、レアナ様セアラ様目当てに来たのに、主賓を放り出して踊りを申し込むわけにはいくまいし」「そのくせユーノ様と踊らなくてはならない時に、他の奴がお二方と踊ってるのは見たくないとくる」「まあユーノ様が抜けられたのが幸い、今のうちに少しでも顔を覚えて頂こうと言うわけだろ」「どうされたのか知らないが、抜けてくださって有り難かったな」「ああそうだな、急がないと帰って来られるぞ」「帰って来られるとまた退屈なことになる」「違いない」
 そうか。
 ユーノはくすりと笑った。
 そうか、騎士達が来たのは、私のためではなかったのか。
 そうか、道理で場がぎくしゃくするわけだ。
「…っ」
 唐突に零れ落ちた熱いものに、慌てて手の甲で口を押さえる。塗ってもらった紅が乱れただろうが、もうどうでもいい。
「そう…か」
 くすくす、小さく笑う。
 それでも、多少は期待していたのにな。
 微かな声が胸に響いた。
 誕生パーティだ、今日ぐらいは姫の役をやってもいいかななんて、思ってたのにな。
 母様にわざわざドレスを直してもらったのにな。
 勇気を出して、細工師に髪飾り一つ、造らせたのに…な。
 くすくす笑い続けたのに、涙も止まらない。
 最初に踊った騎士は、さぞかし気が気じゃなかっただろう。私の手を取りながら、必死に誰がレアナ達に声をかけるかと焦っていただろう。
 おかしい、おかしい、何がおかしいと言って、自分が姫だと思った自分が一番おかしい。
「ふ…ふふ」
 笑いが止まらない。
 その夜、ユーノは夜会に戻らなかった。
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