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4.2人の軍師(16)
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尋ねてからしまった、と思った。見捨てられて見切られて、レアナを守るため囮に出された自分、そんな問いを投げかけて、よしんば『そう』であったにせよ、アシャが『そう』答えるわけはない。無理に答えを出させて困らせるだけ、それに万が一にも『そうだ』と答えられたら、どうするつもりだ?
「…ユーノ」
違う、ユーノはアシャに甘えているだけだ、これでは駄目だ。
「あ、ご、ごめん! 今の、忘れて! ちょっと思いついただけ……っ?!」
不意にアシャが肩を引き寄せた。次の瞬間息が止まるほどきつく抱き締められて、ことばを失う。左腕の傷が容赦ない力にじうんと痛みを広げる。
「ア…シャ…」
もがこうとした右の手首も掴まれて封じられ、息苦しさに首を振った。
「く…るし…」
駄目だ、しまった、怒らせた、何か間違って、でも、何を。
「……ああ」
混乱するユーノの耳に、低く殺気を孕んだアシャの声が届く。
「そんな思いつきを、二度と、口に、するな」
吐き捨てる声は氷の刃のようだ。切り刻むほどに鋭く、明瞭にユーノの耳を穿つ。はっきり示されているのは怒り、それも、今にもユーノを抱き潰しかねないほどの力を伴った激怒。
「いいか、よく、覚えとけ」
押さえかねた苛立ちがことばの端々に紅に滲む。
「お前を西へ送ってから、俺がどれほど眠れぬ夜を過ごしたか」
呪詛にも聞こえるほど冷ややかな唸り声が響く。
(…アシャ…?)
ことばにしたことで、少し何かが緩んだのだろう、ユーノは小さく息を吐いた。途端に頬に熱が触れてぎょっとする。唇、と気づいて逃げようとしたが押さえ込まれた。こめかみへ移って、もう一度頬へ、少し耳元に逸れて、吐息とともに囁かれる。
「俺は…お前を失う気はないんだ……『どんなことをしても』、な」
体が固まった。視界が眩む。頬を指で撫でられ、そのまま顎を辿られ、そっと顔を押し上げられる。『どんなことをしても』。ならば、これもそうなのか。ユーノの揺れる気持ちをつなぎとめようとする方便か。
自分を欺く紫の瞳を見たくなくて、きつく目を閉じると、額に熱くて柔らかな唇が押し付けられた。無言でそれを受け取ると、もう少し柔らかく、今度は傷を労わるように包み込まれ抱き込まれる。いつか夢の中で触れた風のような甘い温もりだ。
(アシャ…)
声は出なかった。何をしているの、とも問えなかった。切なくて、ただ切なくて、唇を噛んだ。
アシャはレアナを愛している。優しくしてくれるのはレアナの妹だからだ。世を救う『銀の王族』だからだ。『氷の双宮』を未来へ続ける『正統後継者』だからだ。失いたくないというのは、ただラズーンを、世界を、レアナを守るための祈りだ、だがそれでも、その一言が胸にしみるほど嬉しかった。
「よく…生きて帰ってくれた」
アシャの声が震えを帯びる。
「よく…無事で…」
また気持ちが高ぶったのか、しっかりとユーノを抱き締める。そしてユーノも、その抱擁を拒めずにいた。
どれほどそうしていたのだろう。
シャラ、と左腕の金鎖が鳴り、ユーノは我に返った。自分がどこにいるのか、何をしていたのかに気づいて、全身熱くなり、一方では冷や汗をかいて離れようとしたが、アシャはユーノを放してくれない。笑みを含んだ声で囁いた。
「それに」
「?」
「俺は東へは行かん」
「…ユーノ」
違う、ユーノはアシャに甘えているだけだ、これでは駄目だ。
「あ、ご、ごめん! 今の、忘れて! ちょっと思いついただけ……っ?!」
不意にアシャが肩を引き寄せた。次の瞬間息が止まるほどきつく抱き締められて、ことばを失う。左腕の傷が容赦ない力にじうんと痛みを広げる。
「ア…シャ…」
もがこうとした右の手首も掴まれて封じられ、息苦しさに首を振った。
「く…るし…」
駄目だ、しまった、怒らせた、何か間違って、でも、何を。
「……ああ」
混乱するユーノの耳に、低く殺気を孕んだアシャの声が届く。
「そんな思いつきを、二度と、口に、するな」
吐き捨てる声は氷の刃のようだ。切り刻むほどに鋭く、明瞭にユーノの耳を穿つ。はっきり示されているのは怒り、それも、今にもユーノを抱き潰しかねないほどの力を伴った激怒。
「いいか、よく、覚えとけ」
押さえかねた苛立ちがことばの端々に紅に滲む。
「お前を西へ送ってから、俺がどれほど眠れぬ夜を過ごしたか」
呪詛にも聞こえるほど冷ややかな唸り声が響く。
(…アシャ…?)
ことばにしたことで、少し何かが緩んだのだろう、ユーノは小さく息を吐いた。途端に頬に熱が触れてぎょっとする。唇、と気づいて逃げようとしたが押さえ込まれた。こめかみへ移って、もう一度頬へ、少し耳元に逸れて、吐息とともに囁かれる。
「俺は…お前を失う気はないんだ……『どんなことをしても』、な」
体が固まった。視界が眩む。頬を指で撫でられ、そのまま顎を辿られ、そっと顔を押し上げられる。『どんなことをしても』。ならば、これもそうなのか。ユーノの揺れる気持ちをつなぎとめようとする方便か。
自分を欺く紫の瞳を見たくなくて、きつく目を閉じると、額に熱くて柔らかな唇が押し付けられた。無言でそれを受け取ると、もう少し柔らかく、今度は傷を労わるように包み込まれ抱き込まれる。いつか夢の中で触れた風のような甘い温もりだ。
(アシャ…)
声は出なかった。何をしているの、とも問えなかった。切なくて、ただ切なくて、唇を噛んだ。
アシャはレアナを愛している。優しくしてくれるのはレアナの妹だからだ。世を救う『銀の王族』だからだ。『氷の双宮』を未来へ続ける『正統後継者』だからだ。失いたくないというのは、ただラズーンを、世界を、レアナを守るための祈りだ、だがそれでも、その一言が胸にしみるほど嬉しかった。
「よく…生きて帰ってくれた」
アシャの声が震えを帯びる。
「よく…無事で…」
また気持ちが高ぶったのか、しっかりとユーノを抱き締める。そしてユーノも、その抱擁を拒めずにいた。
どれほどそうしていたのだろう。
シャラ、と左腕の金鎖が鳴り、ユーノは我に返った。自分がどこにいるのか、何をしていたのかに気づいて、全身熱くなり、一方では冷や汗をかいて離れようとしたが、アシャはユーノを放してくれない。笑みを含んだ声で囁いた。
「それに」
「?」
「俺は東へは行かん」
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