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5.リディノ哀歌(2)
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「!」
見抜かれて竦んだレスファートは、滲みそうになった涙を慌てて呑み下した。くるりとリディノが背中を向ける。そのまますうっと戸口を抜けようとして、
「ジノ…」
「姫さま……」
そこに信じられないことばを聞いたと言いたげなジノの姿があった。目の前を構わず通り過ぎていこうとするリディノを目で追い、レスファートを振り返り、慌ただしく身を沈め、ひざを突く。
「レスファート様、お許しを!」
答えを待たず、ジノはリディノを追って行った。残されたレスファートはそろそろと体の力を抜いて振り返り、未だ眠り続けているユーノの横顔を見た。閉じた瞼の青さに怯える心を、無理やり押し出す。
(ユーノ)
声にならずに心で呼んだ。それでもユーノは目を覚まさない。
(ユーノ……)
そっと覗き込む。ベッドに上り、ユーノの唇が少しでも動かないか、両手をついて見つめ続ける。レス、といつものように優しく呼んでくれないかと。
が、唇は開かれなかった。
「ユーノ……ぉ」
規則正しく動く胸にしがみつく。
(置いてかないで、ぼく、強くなるから、きっと強くなるから、置いてかないで)
イルファのように強くなりたい。アシャのように賢くなりたい。ユーノの側にいつもいられるような人間になりたい。ユーノにいつも必要とされる人間になりたい。
『…泣けば…ユーノは戻ってこないわ』
リディノの声が耳に谺し唇を噛んだ。祈ることしかできない、ユーノのために。ならば、万に一つしか叶わない祈りでも絶対叶えてみせる。
ぽんと静かに背中を叩かれて振り向くと、痛ましいと言った表情でアシャが立っていた。憔悴した顔に、それでも温かな笑みを浮かべて、
「レス?」
両手を差し出してくれる。無意識にその腕に縋って、アシャの首にしがみつく。
「…大丈夫だよね?」
「……ああ」
「ユーノ、大丈夫だよね、死なないよね、いかないよね」
「ああ」
「ユーノだもんね、ユーノ、だもんね」
しがみつくレスファートに、たとえ儚い望みでも、たとえ嘘だとあったとしても、誰でも頷かずにはいられないだろう。きっとアシャも、だが切なげな優しさを込めて応じてくれた。
「大丈夫だ」
「うん」
張り詰めていた糸が切れた。ふわふわしてくる頭の中で、それでも何度もアシャにユーノの無事を約束させて、レスファートは眠ってしまい………翌日は目覚めて昼食もそこそこにユーノを見舞い、シャイラ戦死で騒然とした邸内で、アシャの代わりにユーノを見守っていたのだった。
「レス?」
もう一度呼びかけられて、レスファートは我に返った。感覚を伸ばして、リディノの心象を探る。この前のような禍々しい影は見当たらない。
レスファートは小さく吐息をついた。
あの夜は何か、リディノもまた不安で疲れていたのかもしれない。
「どうしたの?」
「ううん」
首を振る。
「ユーノを待ってるの」
「ユーノ?」
レスファートの視線を追って目を上げたリディノは、テラスで話し込むユーノとセシ公に気づいたようだ。
「お話中なのね」
「うん」
「アシャ兄様は?」
「さっきまでいたけど」
「そう…」
リディノは何か物思わしげに広間の方へ目をやり、ふと思いついたように、
「レス、ユーノ達のお話、長くかかりそうよ。夜風は体に毒だわ、中に入って、お菓子でもいかが?」
「うん…」
レスファートはもう一度ユーノ達の方を見たが、確かにまだ話は長引きそうだ。リディノの顔を振り仰ぐ。もし、いつかの夜のことを思うなら、リディノから離れないほうがいいのかも知れない。
「じゃあ、行く」
微笑むリディノがこれ以上何もしないと思ったのは、レスファートの幼さだったのかも知れない。レスファートを連れて広間に戻ったリディノは、お菓子のテーブルにレスファートを誘う途中で、グラスを手にしたアシャに気づいて近寄って行く。
「アシャ兄さま」
「…リディ……レス」
笑うアシャに緊張を緩めて、レスファートもリディノの後ろに付き添った。
見抜かれて竦んだレスファートは、滲みそうになった涙を慌てて呑み下した。くるりとリディノが背中を向ける。そのまますうっと戸口を抜けようとして、
「ジノ…」
「姫さま……」
そこに信じられないことばを聞いたと言いたげなジノの姿があった。目の前を構わず通り過ぎていこうとするリディノを目で追い、レスファートを振り返り、慌ただしく身を沈め、ひざを突く。
「レスファート様、お許しを!」
答えを待たず、ジノはリディノを追って行った。残されたレスファートはそろそろと体の力を抜いて振り返り、未だ眠り続けているユーノの横顔を見た。閉じた瞼の青さに怯える心を、無理やり押し出す。
(ユーノ)
声にならずに心で呼んだ。それでもユーノは目を覚まさない。
(ユーノ……)
そっと覗き込む。ベッドに上り、ユーノの唇が少しでも動かないか、両手をついて見つめ続ける。レス、といつものように優しく呼んでくれないかと。
が、唇は開かれなかった。
「ユーノ……ぉ」
規則正しく動く胸にしがみつく。
(置いてかないで、ぼく、強くなるから、きっと強くなるから、置いてかないで)
イルファのように強くなりたい。アシャのように賢くなりたい。ユーノの側にいつもいられるような人間になりたい。ユーノにいつも必要とされる人間になりたい。
『…泣けば…ユーノは戻ってこないわ』
リディノの声が耳に谺し唇を噛んだ。祈ることしかできない、ユーノのために。ならば、万に一つしか叶わない祈りでも絶対叶えてみせる。
ぽんと静かに背中を叩かれて振り向くと、痛ましいと言った表情でアシャが立っていた。憔悴した顔に、それでも温かな笑みを浮かべて、
「レス?」
両手を差し出してくれる。無意識にその腕に縋って、アシャの首にしがみつく。
「…大丈夫だよね?」
「……ああ」
「ユーノ、大丈夫だよね、死なないよね、いかないよね」
「ああ」
「ユーノだもんね、ユーノ、だもんね」
しがみつくレスファートに、たとえ儚い望みでも、たとえ嘘だとあったとしても、誰でも頷かずにはいられないだろう。きっとアシャも、だが切なげな優しさを込めて応じてくれた。
「大丈夫だ」
「うん」
張り詰めていた糸が切れた。ふわふわしてくる頭の中で、それでも何度もアシャにユーノの無事を約束させて、レスファートは眠ってしまい………翌日は目覚めて昼食もそこそこにユーノを見舞い、シャイラ戦死で騒然とした邸内で、アシャの代わりにユーノを見守っていたのだった。
「レス?」
もう一度呼びかけられて、レスファートは我に返った。感覚を伸ばして、リディノの心象を探る。この前のような禍々しい影は見当たらない。
レスファートは小さく吐息をついた。
あの夜は何か、リディノもまた不安で疲れていたのかもしれない。
「どうしたの?」
「ううん」
首を振る。
「ユーノを待ってるの」
「ユーノ?」
レスファートの視線を追って目を上げたリディノは、テラスで話し込むユーノとセシ公に気づいたようだ。
「お話中なのね」
「うん」
「アシャ兄様は?」
「さっきまでいたけど」
「そう…」
リディノは何か物思わしげに広間の方へ目をやり、ふと思いついたように、
「レス、ユーノ達のお話、長くかかりそうよ。夜風は体に毒だわ、中に入って、お菓子でもいかが?」
「うん…」
レスファートはもう一度ユーノ達の方を見たが、確かにまだ話は長引きそうだ。リディノの顔を振り仰ぐ。もし、いつかの夜のことを思うなら、リディノから離れないほうがいいのかも知れない。
「じゃあ、行く」
微笑むリディノがこれ以上何もしないと思ったのは、レスファートの幼さだったのかも知れない。レスファートを連れて広間に戻ったリディノは、お菓子のテーブルにレスファートを誘う途中で、グラスを手にしたアシャに気づいて近寄って行く。
「アシャ兄さま」
「…リディ……レス」
笑うアシャに緊張を緩めて、レスファートもリディノの後ろに付き添った。
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