『ラズーン』第六部

segakiyui

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5.リディノ哀歌(5)

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 視線の先にちょうどリディノの姿がある。気づいたのか、手にしていたグラスを上げてにっこりと笑って見せる。特におかしな様子はない、ましてや『運命(リマイン)』の影も感じない。
「レス、リディがどうしたって?」
 口に出すことでも災いを招いてしまうと言った様子のレスファートにもう一度屈み込むと、
「なんだ、なんだ、なんだあ?」
 大きな声で尋ねながらイルファがのしのしとテラスに出てきた。側にはレアナが控えめに笑みを浮かべて付き添い、セシ公とアシャに優雅に一礼する。美人を側に置きながら、どうもいつも女に対して配慮のないイルファが、泣き出しかけているレスファートに手を伸ばし、ひょいと抱き上げた。
「あ」
「どうした? いよいよ故郷が恋しくなったか?」
「ちがうよぉ」
 レスファートはむくれ、少しは安心したのかイルファを見下ろしながら泣き止んだ。肩にちょこんと乗せられて、なおも不安そうにリディノを盗み見る。
「おかしな奴だな」
 わははは、とイルファは豪快に笑った。握っていた酒杯をぐいと煽る。
「そういう時は飲め飲め」
「ぼくお酒ないもん」
「残念だな、こんな美味いものが飲めんとは。さっさと早く大きくなればいい」
「なれるもんならなってるよ!」
 レスファートが噛み付く。少し場の空気が和んで、アシャもグラスを口に近づける。イルファがまた空気を読まないままに、
「ところで何の話をしてたんだ?」
「残念だね、巨頭会談だよ、部外者無用」
「そんなのってありか? おい、アシャ」
「、まあ、な」
 せっかくユーノが応じたのに、アシャが苦笑いしてグラスを離した。喉が乾いてきたのか、今度は飲みたかった様子だ。唇を尖らせたイルファに応じる。
「俺も結構苦労してきたつもりだが?」
「そうだな」
「古くはお前を妻にしようとしてからだなあ」
「…アシャ殿」
 セシ公が妙な視線を向ける。
「その話を持ち出すな、いらぬ誤解を受ける」
「誤解をさせたのは、どこのどいつだ?」
「この際だから言っておくぞ、俺はな」
(また始まった)
 ユーノは苦笑しながら手すりに凭れた。事情のわからぬレアナはきょとんとした顔で言い争う2人を見つめている。暖かい赤茶色の瞳は潤み、傷跡一つない二の腕は白く、輝くようだ。
(綺麗だよ、姉さま)
 そっと小さく溜息をついた。わかっていても、美の神はことあるごとに自分の作品の美しさを、他のものと比べずにはいられないらしい。
(着替えてこようかなあ)
 アシャとイルファ、今ではレスファートとレアナまで加わって笑い合うのをよそに、ユーノは夜空を見上げた。
 星が光る。旅の空で幾度も見てきた星だ。青白く険しく鋭く、心を切り刻んでくるような星の色。
(『星の剣士』(ニスフェル)か)
 セシ公から作戦を聞いたお陰で、苛立った心に少し余裕ができた。星の輝きに自分の称号(クラノ)に想いを馳せる。
(星の…剣士……戦神の娘……『灰色塔の姫君』……)
 何が姫君だ。苦笑する。剣を掲げ、馬を駆り、砂塵の中を暗闇の中を、どこへともわからぬ運命を駆け抜ける、その生き様のどこを『姫』と形容するのか。
 目を閉じる。
 それでも自分には駆けるしかない。この命の全て賭けて、駆け抜けていくしかない。
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