79 / 119
6.東の攻防(8)
しおりを挟む
おそらくは、水鏡(カーフィ)で様子を見ていたか、どこかに隠れ潜んでいたシズミーから知らせが入ったのだろう。
ユーノとジノを背に、ミネルバに手綱を引かれた金眼の馬は、神殿までもう少しというところで、『泉の狩人』(オーミノ)の一団の作った壁に阻まれた。
道の行く手を遮るようにずらりと並んだ狩人達は、手に手に各々弓を引き絞り、その先をピタリとミネルバの胸元に合わせている。
「待たれよ、ミネルバ」
普段は重苦しいばかりの暗い声を、磨き抜かれた剣のように尖らせて、一人の狩人が声をかけて来た。
「誰の、どのような許しを得て、この聖域に入られる」
「ウォーグ」
「長の戒律を破り、『氷の双宮』の救いにも応じず、自分勝手に世を騒がせ、『魔』と化した者に呼ばれる名なぞ持っておらぬ。狩人、と呼んで頂こう」
「デーディエト」
「帰られるがいい、そなたの世界に」
「カイルーン」
ミネルバは一人一人の顔に呼びかけたが、矢の先は動かない。ミネルバは少しためらったが、やがて呻くように、
「……よかろう……その名…『魔』と呼ばれてもな。……私は私の役目を果たすまで……ユーノ」
振り返られてユーノは頷き、馬の背から飛び降りた。続いてジノも、目の前にいきなり現れた異形の一群に驚いた様子ながら、何とかユーノの後ろへ滑り降りる。
「聖女王(シグラトル)…」
「聖女王(シグラトル)……どうしてあなたが、ミネルバと…」
そこで初めて、狩人達は馬の背に居た小さな人影が聖なる長だと気づいたらしい。弓の狙いを慌てて下げ、口々に不審そうな呟きを漏らした。
「ラフィンニは?」
「ここに……聖女王(シグラトル)」
ユーノが馬から降りた時にそれと見極めたのか、いつの間にかラフィンニの姿があった。
「一体何用です……しかもミネルバなどを連れ……」
「東へ出たい」
ラフィンニの不服そうな口調に気づきはしたが、あえてそれを無視してユーノは言い放った。
「『穴の老人』(ディスティヤト)が『運命(リマイン)』についている」
「何…」
「なんと……あの彼奴等めが…」
「おお…長を死に至らしめた…」
「静かに」
ラフィンニが思い思いの声を遮る。
「それで……御用は…?」
「できることなら手勢を少々借りたい」
ユーノは虚ろな眼窩を見据えた。
「ほう…」
ラフィンニが冷ややかに応じる。
「それがどのようなことか……お分かりか、聖女王(シグラトル)」
吹雪はいつしか止んでいる。
「我らに『魔』に堕ちよ、と言われているのだ、聖女王(シグラトル)。そこに居るミネルバと同じく、な」
嘲笑も露わにことばを続ける。
「かつて長に従いながら、長を見捨てた腰抜け、そればかりか、長の命と引き換えの秘薬を真っ先に己に施した卑怯者、其奴のように、己の欲望を御せず、夜毎に『運命(リマイン)』を喰らう、浅ましい化け物になれ、と」
「………」
ミネルバは無言のままラフィンニを見つめている。
「それをあなたが望まれるのか、聖女王(シグラトル)………幾百年もの辛苦に耐え、あなたを待っていた我らに」
ユーノとジノを背に、ミネルバに手綱を引かれた金眼の馬は、神殿までもう少しというところで、『泉の狩人』(オーミノ)の一団の作った壁に阻まれた。
道の行く手を遮るようにずらりと並んだ狩人達は、手に手に各々弓を引き絞り、その先をピタリとミネルバの胸元に合わせている。
「待たれよ、ミネルバ」
普段は重苦しいばかりの暗い声を、磨き抜かれた剣のように尖らせて、一人の狩人が声をかけて来た。
「誰の、どのような許しを得て、この聖域に入られる」
「ウォーグ」
「長の戒律を破り、『氷の双宮』の救いにも応じず、自分勝手に世を騒がせ、『魔』と化した者に呼ばれる名なぞ持っておらぬ。狩人、と呼んで頂こう」
「デーディエト」
「帰られるがいい、そなたの世界に」
「カイルーン」
ミネルバは一人一人の顔に呼びかけたが、矢の先は動かない。ミネルバは少しためらったが、やがて呻くように、
「……よかろう……その名…『魔』と呼ばれてもな。……私は私の役目を果たすまで……ユーノ」
振り返られてユーノは頷き、馬の背から飛び降りた。続いてジノも、目の前にいきなり現れた異形の一群に驚いた様子ながら、何とかユーノの後ろへ滑り降りる。
「聖女王(シグラトル)…」
「聖女王(シグラトル)……どうしてあなたが、ミネルバと…」
そこで初めて、狩人達は馬の背に居た小さな人影が聖なる長だと気づいたらしい。弓の狙いを慌てて下げ、口々に不審そうな呟きを漏らした。
「ラフィンニは?」
「ここに……聖女王(シグラトル)」
ユーノが馬から降りた時にそれと見極めたのか、いつの間にかラフィンニの姿があった。
「一体何用です……しかもミネルバなどを連れ……」
「東へ出たい」
ラフィンニの不服そうな口調に気づきはしたが、あえてそれを無視してユーノは言い放った。
「『穴の老人』(ディスティヤト)が『運命(リマイン)』についている」
「何…」
「なんと……あの彼奴等めが…」
「おお…長を死に至らしめた…」
「静かに」
ラフィンニが思い思いの声を遮る。
「それで……御用は…?」
「できることなら手勢を少々借りたい」
ユーノは虚ろな眼窩を見据えた。
「ほう…」
ラフィンニが冷ややかに応じる。
「それがどのようなことか……お分かりか、聖女王(シグラトル)」
吹雪はいつしか止んでいる。
「我らに『魔』に堕ちよ、と言われているのだ、聖女王(シグラトル)。そこに居るミネルバと同じく、な」
嘲笑も露わにことばを続ける。
「かつて長に従いながら、長を見捨てた腰抜け、そればかりか、長の命と引き換えの秘薬を真っ先に己に施した卑怯者、其奴のように、己の欲望を御せず、夜毎に『運命(リマイン)』を喰らう、浅ましい化け物になれ、と」
「………」
ミネルバは無言のままラフィンニを見つめている。
「それをあなたが望まれるのか、聖女王(シグラトル)………幾百年もの辛苦に耐え、あなたを待っていた我らに」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします
二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位!
※この物語はフィクションです
流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。
当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ぽっちゃり女子の異世界人生
猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。
最強主人公はイケメンでハーレム。
脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。
落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。
=主人公は男でも女でも顔が良い。
そして、ハンパなく強い。
そんな常識いりませんっ。
私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。
【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
生きるために逃げだした。幸せになりたい。
白水緑
ファンタジー
屋敷内に軟禁状態だったリリアは、宝物を取り戻したことをきっかけに屋敷から逃げ出した。幸せになるために。体力も力もない。成り行きに身を任せる結果になっても、自分の道は自分で選びたい。
2020/9/19 第一章終了
続きが書け次第また連載再開します。
2021/2/14 第二章開幕
2021/2/28 完結
あやかしたちのとまりぎの日常
彩世幻夜
キャラ文芸
吉祥寺は井の頭公園界隈の一画で、ひっそりと営業するダイニング・バー【ペルシュ】に訪れるお客の大半はひとではないもの、いわゆるあやかしたち。
勿論店の店主や店員もまた人ではない。
そんな店でバイトをするとある専門学校生とあやかしたちが織りなす〝日常(?)〟物語
「婚約破棄された転生令嬢ですが、王城のメイド五百人に慕われるメイド長になりました。なお元婚約者は私のメイドに土下座中です」
まさき
恋愛
社畜OLとして過労死した私は、異世界の令嬢・アリア・ヴェルナーに転生した。
目が覚めたら、婚約破棄されていた。
理由は「地味で面白みがない」から。
泣く暇もなかった。翌朝、王城のメイド採用面接に向かった。
最初は鼻で笑われた。雑用係からのスタートだった。
でも——前世で叩き込まれた仕事術と、一人ひとりの話を聞く姿勢で、少しずつメイドたちが集まってきた。
厨房が変わった。リネンが変わった。王城全体が変わっていった。
そして就任スピーチで宣言した。
「500人全員の名前を、覚えます」
冷酷と噂される王太子は、静かに見ていた。
悪役令嬢は妨害を仕掛けてきた。
元婚約者は——後悔し始めていた。
婚約破棄された令嬢が、500人に慕われるメイド長になるまでの物語。
なお元婚約者は、私のメイドたちの前で土下座中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる