『ラズーン』第六部

segakiyui

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6.東の攻防(8)

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 おそらくは、水鏡(カーフィ)で様子を見ていたか、どこかに隠れ潜んでいたシズミーから知らせが入ったのだろう。
 ユーノとジノを背に、ミネルバに手綱を引かれた金眼の馬は、神殿までもう少しというところで、『泉の狩人』(オーミノ)の一団の作った壁に阻まれた。
 道の行く手を遮るようにずらりと並んだ狩人達は、手に手に各々弓を引き絞り、その先をピタリとミネルバの胸元に合わせている。
「待たれよ、ミネルバ」
 普段は重苦しいばかりの暗い声を、磨き抜かれた剣のように尖らせて、一人の狩人が声をかけて来た。
「誰の、どのような許しを得て、この聖域に入られる」
「ウォーグ」
「長の戒律を破り、『氷の双宮』の救いにも応じず、自分勝手に世を騒がせ、『魔』と化した者に呼ばれる名なぞ持っておらぬ。狩人、と呼んで頂こう」
「デーディエト」
「帰られるがいい、そなたの世界に」
「カイルーン」
 ミネルバは一人一人の顔に呼びかけたが、矢の先は動かない。ミネルバは少しためらったが、やがて呻くように、
「……よかろう……その名…『魔』と呼ばれてもな。……私は私の役目を果たすまで……ユーノ」
 振り返られてユーノは頷き、馬の背から飛び降りた。続いてジノも、目の前にいきなり現れた異形の一群に驚いた様子ながら、何とかユーノの後ろへ滑り降りる。
「聖女王(シグラトル)…」
「聖女王(シグラトル)……どうしてあなたが、ミネルバと…」
 そこで初めて、狩人達は馬の背に居た小さな人影が聖なる長だと気づいたらしい。弓の狙いを慌てて下げ、口々に不審そうな呟きを漏らした。
「ラフィンニは?」
「ここに……聖女王(シグラトル)」
 ユーノが馬から降りた時にそれと見極めたのか、いつの間にかラフィンニの姿があった。
「一体何用です……しかもミネルバなどを連れ……」
「東へ出たい」
 ラフィンニの不服そうな口調に気づきはしたが、あえてそれを無視してユーノは言い放った。
「『穴の老人』(ディスティヤト)が『運命(リマイン)』についている」
「何…」
「なんと……あの彼奴等めが…」
「おお…長を死に至らしめた…」
「静かに」
 ラフィンニが思い思いの声を遮る。
「それで……御用は…?」
「できることなら手勢を少々借りたい」
 ユーノは虚ろな眼窩を見据えた。
「ほう…」
 ラフィンニが冷ややかに応じる。
「それがどのようなことか……お分かりか、聖女王(シグラトル)」
 吹雪はいつしか止んでいる。
「我らに『魔』に堕ちよ、と言われているのだ、聖女王(シグラトル)。そこに居るミネルバと同じく、な」
 嘲笑も露わにことばを続ける。
「かつて長に従いながら、長を見捨てた腰抜け、そればかりか、長の命と引き換えの秘薬を真っ先に己に施した卑怯者、其奴のように、己の欲望を御せず、夜毎に『運命(リマイン)』を喰らう、浅ましい化け物になれ、と」
「………」
 ミネルバは無言のままラフィンニを見つめている。
「それをあなたが望まれるのか、聖女王(シグラトル)………幾百年もの辛苦に耐え、あなたを待っていた我らに」
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