『ラズーン』第六部

segakiyui

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6.東の攻防(9)

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「…そうだと言ったら?」
「!」「なんと!」「何を言われる、聖女王(シグラトル)!」
 堪えかねた叫びが上がった。互いを見交わし、再びユーノに眼窩を向ける。
「聞き捨てならぬ、ユーノ・セレディス」
「我ら『泉の狩人』(オーミノ)を愚弄する気か」
 殺気立つ狩人達を、ラフィンニがまとめた。
「ユーノ、我らはそのようなことのために、幾百の年を耐え忍んだのではない…」
「……では、何のためだ」
 唐突にミネルバが口を開いた。
「何のために『狩人の山』(オムニド)に籠り、聖女王(シグラトル)の帰還を待った」
 秘めた激しさをことばの端々に閃かせながら、
「聖女王(シグラトル)と共に、この山で消えていくためか」
「我らは長を待ち…」
 ラフィンニがたじろいだように呟くのに、ミネルバは被せた。
「長を待ち…それからどうするのだ、ラフィンニ。我らは『泉の狩人』(オーミノ)、狩こそが定め、獲物を仕留めてこそ、我らは己の生き様に誇りを持てる。長を待ち、再び敗退するのか、誇り高き我ら狩人が、あの『穴の老人』(ディスティヤト)の前に! 再び!」
「っ!!」
 ミネルバの白い手が、遙か東、宿敵の蠢く彼方の地を指し示した。ギクリとしたように、ラフィンニを始めとする『泉の狩人』(オーミノ)の面々が口を噤む。なおもミネルバは叩きつける。
「狩人にその者ありと言われた『死の長』が、みすみす獲物を見逃すのか!」
「………」
「私は嫌だ。あの想いを二度とは繰り返さぬ。長を敵地に残し、なおかつ秘薬を己が口にした愚かさ情けなさ、『魔』と化した今も、あの口惜しさは心を離れぬ。他の何が許そうとも、仮にも長より『生の勇者』と名付けられた、その長の心をこそ、これ以上裏切りたくはない。相手が『穴の老人』(ディスティヤト)ならば、なおのこと!」
 ミネルバの口調からは気怠い憂いが吹き飛んでいた。己の全てを賭けて宿敵に対面し、今度こそ勝敗をひっくり返そうという気概に満ちて、ラフィンニを見つめる。
 ゆら、とディーディエトの体が動き、向きを変え、ラフィンニの前に膝を突いた。
「長……ラフィンニ……どうか、私に追放を」
「ディーディエト…」
「…かつてセールは聖女王(シグラトル)の危機に『狩人の山』(オムニド)を抜けました。死ぬ寸前までセールが後悔していなかったことが、今、私にはわかります。……東へ向かいます、長ラフィンニ」
「…私も、長」
 カイルーンが身を翻し、頭を下げる。
「『穴の老人』(ディスティヤト)とは古い馴染み……あの時の決着はこちらの勝利だったはず。失うものとてない今こそ、思い知らせてやりたく思います」
「長…私も…」「…長」 
 続く声に、ラフィンニはしばらく沈黙していたが、やがて一歩、ユーノの方へ足を踏み出した。
 見下ろす。
「聖女王(シグラトル)よ」
「…」
 ユーノは無言のまま、しっかりと相手を見返した。
「…『今度こそ』……お帰りをお待ちいたしております」
「では長!」
「長ラフィンニ!」
 上がる歓声に厳しい声を放つ。
「カイルーン、ディーディエト! 両名手勢を連れ、『狩人の山』(オムニド)を降り、聖女王(シグラトル)をお助けせよ! 私は……この地を守る」
 くるりと背中を向けた。
「万が一の砦を失うわけには行かぬ」
「…懐かしい隊だ、ラフィンニ」
 ミネルバが低く呟いた。
「昔、長の元、よくこの隊を組んだ……私が先陣、そなたが守り…」
「言っておくが、ミネルバ」
 ラフィンニの声が、苛立たしげな、切なげな震えを帯びた。
「私はそなたを許したわけではない。今もただ、腹が立つばかりじゃ」
 ようやく半身振り返りながら、
「そなたばかりがいつも、聖女王(シグラトル)のお側におる!!」
「ラフィンニ…」
「皆の者! 用意をせよ! 『泉の狩人』(オーミノ)の名に懸けて、二度の負け戦は許さぬ!!」
「お、おう!」
 弓を突き上げて沸き起こった叫びに、『狩人の山』(オムニド)が微かに揺らいだ。
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