『ラズーン』第六部

segakiyui

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8.夜襲(2)

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「夜襲…」
 ユーノのことばに、カイルーンが呆れた声を上げた。
「夜襲をかける…と?」
「戦は明け方から日の暮れまでが常道、ましてや『泥土』を含む広範囲の戦線、夜襲などかけた際には同士討ちは必至…」
 ディーディエトも不服そうにことばを継ぐ。じっと腕を組んで聞いていたミネルバが、
「何か勝算があるのか、ユーノ」
 ぽつりと尋ねてよこした。
 それには答えず、
「戦況を繰り返してみる。間違っていたら教えてくれ」
 ユーノは机の上に広げられた革の地図に屈み込んだ。
「ラズーンの南は『運命(リマイン)』側としてネハルール、レトラデスの下位軍士、こちらは『銀羽根』が出ており膠着状態だ」
 カイルーンが頷く。
「南は『運命(リマイン)』としての動きはまだ見られていないが、ギヌアを中心とする『運命(リマイン)』の中央勢力が控えている可能性があり、手は抜けない。ラズーンのセシ公は、東への応援として南の守りに付いていた野戦部隊(シーガリオン)を移動させ、そのあとへ『鉄羽根』を配置中……東はシダルナン、モディスンの両雄が倒れたとは言え、こちらも『銀羽根』をほとんど失い、残る『銅羽根』の防衛戦も『穴の老人』(ディスティヤト)に突破されたが、グードスの捨て身の攻撃で何とか『泥土』境界まで戦線を東へ戻せた」
 デーディエトが暗い声で、
「が、破られるのも時間の問題じゃ。いくら『銅羽根』が飢粉(シイナ)の扱いに慣れているからと言って、長のグードスを失っては烏合の衆…」
 ユーノは唇を噛んだ。
 アギャン公グードスは、『銀羽根』のシャイラと前後して戦死したとの報告が入っていた。死にざまは壮烈で、アギャン領地に古くから伝わる武器、飢粉(シイナ)を自ら背負って敵陣に切り込み、毒粉でモディスン、シダルナンの兵士を倒すとともに、精錬の兵士に飢粉(シイナ)を背負わせ、『泥土』から泥獣(ガルシオン)を引き摺り出し、それに兵士と『穴の老人』(ディスティヤト)を襲わせると言う策を取った。
 確かにそれは『運命(リマイン)』の侵攻を食い止めはしたが、同時に戦場に飢粉(シイナ)を撒き散らし、泥獣(ガルシオン)の跳梁を欲しいままにし、文字通りアギャン領土を死の土地と化した。シダルナン、モディスンの兵士はもとより、『銅羽根』のかなりが戦死したが、計算違いは『穴の老人』(ディスティヤト)に飢粉(シイナ)が効かなかったこと、今奴らは飢粉(シイナ)散る戦場で敵味方の別なく喰らって英気を養いながら、じわじわと西へ移動しつつあると言う。
 東へ応援に駆けつけた野戦部隊(シーガリオン)も、『穴の老人』(ディスティヤト)、しかも飢粉(シイナ)だらけになり『生ける凶器』となった存在を相手では、手を出すにも出せず、死傷者を増すばかりと言う有様だった。
「このままでは残った『銅羽根』も野戦部隊(シーガリオン)も見殺しになる…」
「そればかりか、ギヌア・ラズーンならこの機を見逃すまい。中央突破に出てくるのは時間の問題…」
「カイルーン、ディーディエト」
「何じゃ?」
「あなた達は自分と『穴の老人』(ディスティヤト)を間違えるか?」
「何っ」
「仲間と『穴の老人』(ディスティヤト)を見分け損なうか?」
「ユーノ!」
 きっとした声でカイルーンが応じる。
「いくら聖女王(シグラトル)とは言え、いや聖女王(シグラトル)ならばこそ、冗談で済まされぬことがある!」
「そうとも! それ以上、我らへの侮辱は許さぬ!」
「大体……ユーノ……?」
 くすくす笑い始めたユーノに、なおも言い募ろうとしたカイルーンが呆気にとられた顔になった。
「何がおかしい?」
「それほど自分達の眼に自信があるなら、同士討ちなんてしないはずだね?」
「当たり前じゃ!」
「カ…カイルーン」
 いきり立ったカイルーンに、ハッとしたようにディーディエトが声を上げた。
「そうじゃ…確かに同士討ちはせぬ……『我らと「穴の老人」(ディスティヤト)のみ』なら…」
「ディーディエト?」
 訝しげにディーディエトとユーノを見比べるカイルーンの後ろから、ミネルバが依然重苦しい声を継いだ。
「同士討ちはせぬ……他に誰もおらねば、な」
「で、では、ユーノ!」
「野戦部隊(シーガリオン)と『銅羽根』を退き……『穴の老人』(ディスティヤト)と我ら『泉の狩人』(オーミノ)のみ、戦場に残す気か?」
 ようやく訳が分かったらしいカイルーン、冷ややかに、けれども面白そうにことばを続けるミネルバに、ユーノはにやりと笑って見せた。
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