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8.夜襲(6)
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『うおおおお…』
獣のような、暗く不吉な叫びが『泉の狩人』(オーミノ)の、くわっと開かれた歯列、闇を呑む口から吐き出される。ユーノを中心にした左右両翼が『穴の老人』(ディスティヤト)の群れを包み込むようになだれ込んで行く。猛る金目馬の足元で、あちらこちらに転がっていた戦士達の体が、骨と言わず肉と言わず容赦無く踏み潰され、砕けて土に埋め込まれる。
『おお、この時を待っておったぞ! 「穴の老人」(ディスティヤト)!!』
『再び「死の女神」(イラークトル)の御膝元へ追い返してやろうぞ!』
『負けはせぬ、もう二度と負けはせぬ!!』
『聖女王(シグラトル)に捧ぐ!』
『ユーノに捧ぐ!』
口々に叫びながら半月形に突進していた『泉の狩人』(オーミノ)の隊列が不意に崩れた。中央のユーノが見る間に一人抜きん出たのだ。真横にいた『泉の狩人』(オーミノ)ミネルバが、すぐに追いすがる。だが、ユーノの頭には残される者に配慮もない、かなりの速度で走る馬の背に吸い付くように身を任せたまま、すらりと剣を抜き放った。蒼みを帯びた剣が空を薙ぎ、露を含むように妖しい光を宿す、や否や、誰より早く『穴の老人』(ディスティヤト)の1人を葬った。遅れを取ったと言いたげに、ミネルバが、カイルーンが、ディーディエトが、各々の配下を引き連れ切り込んでくる。
『穴の老人』(ディスティヤト)も負けてはいなかった。ことばこそ発していなかったが、嘲笑うように紅の口を開いて『泉の狩人』(オーミノ)達を挑発し、確かに最初に不意を突かれた形の1人2人は他愛なく殺られたが、2人1組となって1人の『泉の狩人』(オーミノ)を襲う手段を講じ始め、『泉の狩人』(オーミノ)側にも被害が出てきた。
『カイルーン!』
叫びにユーノが振り返ると、今しも彼女が『穴の老人』(ディスティヤト)の触手に捕まったところ、剣を持った右腕、左脚に『穴の老人』(ディスティヤト)の不気味なぬらぬらとした触手が絡みついている。馬から引き摺り下ろされたのだろう、汚れた青衣、振り乱した髪が荒々しい。
『うっぐっ』
『カイル……くそっ!』
呼んだディーディエトにも、馬をめがけて3人の『穴の老人』(ディスティヤト)が走り寄り、そちらの相手で手一杯となる。ミネルバは少し離れたところで『穴の老人』(ディスティヤト)の囲みを突破中、他の面々も多勢に無勢、いささか苦戦気味だ。
助けに走ろうとしたユーノの耳に、舌なめずりするような音、同時に剣を持った右手首に『穴の老人』(ディスティヤト)の肉の樹根が絡みついて思い切り引っ張られた。かろうじて落馬を堪えたものの、拮抗するのが精一杯、振り返った目に飢粉(シイナ)の黄色い煙が漂う中にのっそりと立つ、『穴の老人』(ディスティヤト)の金の虹彩が映る。
「聖女王(シグラトル)…」
相手は、肉袋のような頭についた金の瞳をこちらに据えて、ぼそりと呟いた。にまりと目を細める。瞳孔が紅に光ってユーノを射る。
「お噂は、かねがね…」
ぬろりとはみ出た舌でゆっくり口の周囲を舐めた。じりじりと相手の手元に引き寄せられるのに、ユーノも腕に力を込めながら言い返す。
「喋れるとは知らなかったよ」
「……わしはディオング……何時ぞやの洞窟では幸運でしてね…」
「……」
「その前に『食べた』のに当たったのか、体調を崩しましてな……あの時は洞窟へはお迎えにいけませなんだ」
『ぐ…っ…うっうっ…』
背後でカイルーンの呻きが大きくなった。チャリン、と剣の落ちる音が続く。だがユーノも振り返れない。少しでも隙を見せれば、一気に引き摺られて飢粉(シイナ)の煙の中へ転げ落ち、そうすれば戦うことはおろか、飢粉(シイナ)で命を落とすという虚しい末路を晒すことになってしまう。
「が…神々は我ら『穴の老人』(ディスティヤト)にも恩恵深く…」
ディオングはふざけたように一礼した。
「あの時洞窟へ行けなかった代わりに、今夜あなたをお迎えできたと言うわけだ」
『あっ……はうっ!!』
ボキッ、グシュッと言う鈍い音と一緒にカイルーンの悲鳴が響く。それでもユーノは動けない。
獣のような、暗く不吉な叫びが『泉の狩人』(オーミノ)の、くわっと開かれた歯列、闇を呑む口から吐き出される。ユーノを中心にした左右両翼が『穴の老人』(ディスティヤト)の群れを包み込むようになだれ込んで行く。猛る金目馬の足元で、あちらこちらに転がっていた戦士達の体が、骨と言わず肉と言わず容赦無く踏み潰され、砕けて土に埋め込まれる。
『おお、この時を待っておったぞ! 「穴の老人」(ディスティヤト)!!』
『再び「死の女神」(イラークトル)の御膝元へ追い返してやろうぞ!』
『負けはせぬ、もう二度と負けはせぬ!!』
『聖女王(シグラトル)に捧ぐ!』
『ユーノに捧ぐ!』
口々に叫びながら半月形に突進していた『泉の狩人』(オーミノ)の隊列が不意に崩れた。中央のユーノが見る間に一人抜きん出たのだ。真横にいた『泉の狩人』(オーミノ)ミネルバが、すぐに追いすがる。だが、ユーノの頭には残される者に配慮もない、かなりの速度で走る馬の背に吸い付くように身を任せたまま、すらりと剣を抜き放った。蒼みを帯びた剣が空を薙ぎ、露を含むように妖しい光を宿す、や否や、誰より早く『穴の老人』(ディスティヤト)の1人を葬った。遅れを取ったと言いたげに、ミネルバが、カイルーンが、ディーディエトが、各々の配下を引き連れ切り込んでくる。
『穴の老人』(ディスティヤト)も負けてはいなかった。ことばこそ発していなかったが、嘲笑うように紅の口を開いて『泉の狩人』(オーミノ)達を挑発し、確かに最初に不意を突かれた形の1人2人は他愛なく殺られたが、2人1組となって1人の『泉の狩人』(オーミノ)を襲う手段を講じ始め、『泉の狩人』(オーミノ)側にも被害が出てきた。
『カイルーン!』
叫びにユーノが振り返ると、今しも彼女が『穴の老人』(ディスティヤト)の触手に捕まったところ、剣を持った右腕、左脚に『穴の老人』(ディスティヤト)の不気味なぬらぬらとした触手が絡みついている。馬から引き摺り下ろされたのだろう、汚れた青衣、振り乱した髪が荒々しい。
『うっぐっ』
『カイル……くそっ!』
呼んだディーディエトにも、馬をめがけて3人の『穴の老人』(ディスティヤト)が走り寄り、そちらの相手で手一杯となる。ミネルバは少し離れたところで『穴の老人』(ディスティヤト)の囲みを突破中、他の面々も多勢に無勢、いささか苦戦気味だ。
助けに走ろうとしたユーノの耳に、舌なめずりするような音、同時に剣を持った右手首に『穴の老人』(ディスティヤト)の肉の樹根が絡みついて思い切り引っ張られた。かろうじて落馬を堪えたものの、拮抗するのが精一杯、振り返った目に飢粉(シイナ)の黄色い煙が漂う中にのっそりと立つ、『穴の老人』(ディスティヤト)の金の虹彩が映る。
「聖女王(シグラトル)…」
相手は、肉袋のような頭についた金の瞳をこちらに据えて、ぼそりと呟いた。にまりと目を細める。瞳孔が紅に光ってユーノを射る。
「お噂は、かねがね…」
ぬろりとはみ出た舌でゆっくり口の周囲を舐めた。じりじりと相手の手元に引き寄せられるのに、ユーノも腕に力を込めながら言い返す。
「喋れるとは知らなかったよ」
「……わしはディオング……何時ぞやの洞窟では幸運でしてね…」
「……」
「その前に『食べた』のに当たったのか、体調を崩しましてな……あの時は洞窟へはお迎えにいけませなんだ」
『ぐ…っ…うっうっ…』
背後でカイルーンの呻きが大きくなった。チャリン、と剣の落ちる音が続く。だがユーノも振り返れない。少しでも隙を見せれば、一気に引き摺られて飢粉(シイナ)の煙の中へ転げ落ち、そうすれば戦うことはおろか、飢粉(シイナ)で命を落とすという虚しい末路を晒すことになってしまう。
「が…神々は我ら『穴の老人』(ディスティヤト)にも恩恵深く…」
ディオングはふざけたように一礼した。
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