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5.オリエンタル・コンチネンタル・ホテル
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「…あらあら」
携帯からの声に由宇子は溜め息をつく。知らされたホテル名にも。
「厄介事吸引器、健在ね」
『急ぎかい?』
ベッドに横座りになった海云(ハイ・ユン)が微笑む。
『いいえ。今から急いでも無駄ね、もう巻き込まれてるみたいだから』
『お前の大事な天災男かね』
くすくすと皺の寄った口元をすぼめて笑う。
『オリエンタル・コンチネンタルに居るらしいわ』
『おやまあ』
『ええそう』
驚きに目を見張る灰色がかった瞳は、ほとんど見えていない。
軽いノックが響いて振り向くと、ドアがゆっくり開いて、明るい空色のポロシャツを着た女性が顔を覗かせた。
「磯崎さん? 昼ご飯ですよ。こちらへお持ちしますか?」
「はい。久しぶりに来た子だから、一緒に食べたいの」
海云(ハイ・ユン)、別名磯崎薫は、施設の職員に呼びかける。
「持って来てもらってもいい? 皆本さん」
「はい、すぐにお持ちしますね。ごゆっくり」
「ありがとうございます」
由宇子は静かに頭を下げる。相手が頷いてドアを閉めると、
「良さそうな所ね」
『まあそれなりに色々あるよ』
海云(ハイ・ユン)が目を細める。
最近開設したばかりの有料老人ホーム『白木蓮』はある程度裕福な層をターゲットにしたせいか、スタッフの接遇研修も行き届いている。24時間介護を謳い、各個室にベッドセンサーを備え、医師の往診、訪問介護や日常生活のヘルパー訪問をセットすることもでき、食事も各部屋で食べるか、1階の食堂で食べるかは自由だ。洗濯機コーナー、面会用リビング、入浴施設も充実、受付にはコンシェルジュが待機し、ちょっと見にはこじんまりしたホテルのように見える。
『昨日、少し向こうの住人が救急搬送されていったよ。部屋で倒れていたらしいが、同居していた夫が認知症を悪化させていて、倒れているのが理解できなかったらしい。食事の声かけにきたスタッフが発見して運び込んだが、死後1時間経っていたそうだ。一昨日食堂で顔を合わせた時に、そんなそぶりはなかったがね、他人のことだ、本当のところはわからない』
『そうね』
やはり中国語の方が話しやすいようだ。この先はもっとそうかもしれない。
由宇子は薄い体にカーディガンを羽織る海云(ハイ・ユン)を手伝う。
程なくもう一度ノックがあって、皆本と呼ばれた職員が食事のトレーを運んで来てくれた。
「ありがとうございます」
卒なく微笑んで受け取る由宇子に、皆本はしっかりと視線を向け、
「先日、食事の時に噎せておられたことがありました。今はお熱もありませんが」
「わかりました。気をつけますね」
遠い親類と説明されたのを覚えていてくれたのだろう。
「年寄り扱いかい、皆本さん。歳は取りたくないね、ほんと」
「ごめんなさい。心配してるんですよ、磯崎さん」
海云(ハイ・ユン)の悪たれ口にも微笑みを返す。
「では、失礼します」
ドアを閉めていった皆本を見送り、由宇子は振り返る。
『本当なの、海云(ハイ・ユン)』
『何が』
『食事に噎せたって』
『たまには老人らしいところは見せとく必要があるだろうよ。急死した時には、ああ高齢だったからと思ってもらえる』
『あらあら』
由宇子は海云(ハイ・ユン)に手を貸し、部屋のテーブルへ移動した。
磯崎薫は戸籍上の年齢では82歳となっている。実際の磯崎が存命ならばそうだろう。海云(ハイ・ユン)は現在65歳、ただし、様々な無理がたたって実年齢よりひどく老けて見えるのは確かだ。それを利用してのすり替わりを、施設の誰も気づいてはいない。
白髪、太いツルの黒縁メガネ、厳しい顔つきに皺だらけの肌、やせ細って枯れ木のような手足と、おぼつかない足取り。どこまでが設えたものなのか、どこからが海云(ハイ・ユン)の本体なのか、由宇子にもわからない。
『ブリの照り焼き、小松菜のお浸し、人参と牛蒡のキンピラ、ネギとお揚げの味噌汁、ごま豆腐、キノコの炊き込みご飯に、イチゴムース?』
『ブルーベリーだと思うよ』
向かい合って座り、由宇子は持って来た包みを広げる。
『サンドイッチかね。天災男はあんたのそんな料理で満足してるのかい』
『なんでも美味しいといってくれるわ』
彼にとって不味いものなどこの世にはないのではないか。
由宇子は滝の笑顔を思い出し、微笑する。
世にも不思議なものを見たと言う顔で由宇子を眺め、海云(ハイ・ユン)は箸を取り上げ、味噌汁を啜った。
『それじゃあ、あのホテルは天国みたいなものか』
『それがねえ』
くすりとまた笑みを零した。
『豪奢だから満足する人でもないのよねえ。朝倉家もあっさり出ていけるし、その後に3畳一間、バストイレなしでも普通に暮らせる』
『とんでもない男だねえ』
『だから、ひょっとすると今頃、なぜ周一郎があのホテルに滞在してるのか、見抜いてるかもしれないわね』
『まさか』
海云(ハイ・ユン)はキンピラを片付け、ごま豆腐に取り掛かりながら首を振る。
『王室並みのセキュリティを露ほども見せない鉄壁の城だよ? 泊まった人間の過去数週間の足取りを洗い出すぐらいお茶の子さいさいの代物だからこそ、朝倉の当主が身柄を囮にできると思ったんだろう?』
『周一郎に何かあれば、すぐに関わった人間の調べが付けられるから。でも違うのよ、志郎って言うのは』
由宇子はサンドイッチを噛むのを一旦やめて遠い目になる。
『全く別のラインから、それを見つけ出しちゃうのよねえ、いつも、いつも』
なのに、その稀有な能力には気づいていない。
ふと鞄の中に入れてある文庫本を思い出した。高王ヒカルのデビュー作、『意地っ張り達の結末』。あれが滝の『猫たちの時間』を焼き直したものだと気づいていないと同様に。
『オリエンタル・コンチネンタルに鵲は入り込んでいたんだろう?』
『残念ながら周一郎と接触する前に電車事故に巻き込まれたらしいわ。軽傷で入宮病院に入院した後、インフルエンザの可能性を指摘されて留め置かれている』
『インフルエンザ?』
海云(ハイ・ユン)は訝しげに小松菜を噛み締めた。
『入宮病院は周一郎の息が掛かっている。確保したにしても厳重すぎるわね』
『消されるかも知れないね』
由宇子は小さく頷いた。
携帯からの声に由宇子は溜め息をつく。知らされたホテル名にも。
「厄介事吸引器、健在ね」
『急ぎかい?』
ベッドに横座りになった海云(ハイ・ユン)が微笑む。
『いいえ。今から急いでも無駄ね、もう巻き込まれてるみたいだから』
『お前の大事な天災男かね』
くすくすと皺の寄った口元をすぼめて笑う。
『オリエンタル・コンチネンタルに居るらしいわ』
『おやまあ』
『ええそう』
驚きに目を見張る灰色がかった瞳は、ほとんど見えていない。
軽いノックが響いて振り向くと、ドアがゆっくり開いて、明るい空色のポロシャツを着た女性が顔を覗かせた。
「磯崎さん? 昼ご飯ですよ。こちらへお持ちしますか?」
「はい。久しぶりに来た子だから、一緒に食べたいの」
海云(ハイ・ユン)、別名磯崎薫は、施設の職員に呼びかける。
「持って来てもらってもいい? 皆本さん」
「はい、すぐにお持ちしますね。ごゆっくり」
「ありがとうございます」
由宇子は静かに頭を下げる。相手が頷いてドアを閉めると、
「良さそうな所ね」
『まあそれなりに色々あるよ』
海云(ハイ・ユン)が目を細める。
最近開設したばかりの有料老人ホーム『白木蓮』はある程度裕福な層をターゲットにしたせいか、スタッフの接遇研修も行き届いている。24時間介護を謳い、各個室にベッドセンサーを備え、医師の往診、訪問介護や日常生活のヘルパー訪問をセットすることもでき、食事も各部屋で食べるか、1階の食堂で食べるかは自由だ。洗濯機コーナー、面会用リビング、入浴施設も充実、受付にはコンシェルジュが待機し、ちょっと見にはこじんまりしたホテルのように見える。
『昨日、少し向こうの住人が救急搬送されていったよ。部屋で倒れていたらしいが、同居していた夫が認知症を悪化させていて、倒れているのが理解できなかったらしい。食事の声かけにきたスタッフが発見して運び込んだが、死後1時間経っていたそうだ。一昨日食堂で顔を合わせた時に、そんなそぶりはなかったがね、他人のことだ、本当のところはわからない』
『そうね』
やはり中国語の方が話しやすいようだ。この先はもっとそうかもしれない。
由宇子は薄い体にカーディガンを羽織る海云(ハイ・ユン)を手伝う。
程なくもう一度ノックがあって、皆本と呼ばれた職員が食事のトレーを運んで来てくれた。
「ありがとうございます」
卒なく微笑んで受け取る由宇子に、皆本はしっかりと視線を向け、
「先日、食事の時に噎せておられたことがありました。今はお熱もありませんが」
「わかりました。気をつけますね」
遠い親類と説明されたのを覚えていてくれたのだろう。
「年寄り扱いかい、皆本さん。歳は取りたくないね、ほんと」
「ごめんなさい。心配してるんですよ、磯崎さん」
海云(ハイ・ユン)の悪たれ口にも微笑みを返す。
「では、失礼します」
ドアを閉めていった皆本を見送り、由宇子は振り返る。
『本当なの、海云(ハイ・ユン)』
『何が』
『食事に噎せたって』
『たまには老人らしいところは見せとく必要があるだろうよ。急死した時には、ああ高齢だったからと思ってもらえる』
『あらあら』
由宇子は海云(ハイ・ユン)に手を貸し、部屋のテーブルへ移動した。
磯崎薫は戸籍上の年齢では82歳となっている。実際の磯崎が存命ならばそうだろう。海云(ハイ・ユン)は現在65歳、ただし、様々な無理がたたって実年齢よりひどく老けて見えるのは確かだ。それを利用してのすり替わりを、施設の誰も気づいてはいない。
白髪、太いツルの黒縁メガネ、厳しい顔つきに皺だらけの肌、やせ細って枯れ木のような手足と、おぼつかない足取り。どこまでが設えたものなのか、どこからが海云(ハイ・ユン)の本体なのか、由宇子にもわからない。
『ブリの照り焼き、小松菜のお浸し、人参と牛蒡のキンピラ、ネギとお揚げの味噌汁、ごま豆腐、キノコの炊き込みご飯に、イチゴムース?』
『ブルーベリーだと思うよ』
向かい合って座り、由宇子は持って来た包みを広げる。
『サンドイッチかね。天災男はあんたのそんな料理で満足してるのかい』
『なんでも美味しいといってくれるわ』
彼にとって不味いものなどこの世にはないのではないか。
由宇子は滝の笑顔を思い出し、微笑する。
世にも不思議なものを見たと言う顔で由宇子を眺め、海云(ハイ・ユン)は箸を取り上げ、味噌汁を啜った。
『それじゃあ、あのホテルは天国みたいなものか』
『それがねえ』
くすりとまた笑みを零した。
『豪奢だから満足する人でもないのよねえ。朝倉家もあっさり出ていけるし、その後に3畳一間、バストイレなしでも普通に暮らせる』
『とんでもない男だねえ』
『だから、ひょっとすると今頃、なぜ周一郎があのホテルに滞在してるのか、見抜いてるかもしれないわね』
『まさか』
海云(ハイ・ユン)はキンピラを片付け、ごま豆腐に取り掛かりながら首を振る。
『王室並みのセキュリティを露ほども見せない鉄壁の城だよ? 泊まった人間の過去数週間の足取りを洗い出すぐらいお茶の子さいさいの代物だからこそ、朝倉の当主が身柄を囮にできると思ったんだろう?』
『周一郎に何かあれば、すぐに関わった人間の調べが付けられるから。でも違うのよ、志郎って言うのは』
由宇子はサンドイッチを噛むのを一旦やめて遠い目になる。
『全く別のラインから、それを見つけ出しちゃうのよねえ、いつも、いつも』
なのに、その稀有な能力には気づいていない。
ふと鞄の中に入れてある文庫本を思い出した。高王ヒカルのデビュー作、『意地っ張り達の結末』。あれが滝の『猫たちの時間』を焼き直したものだと気づいていないと同様に。
『オリエンタル・コンチネンタルに鵲は入り込んでいたんだろう?』
『残念ながら周一郎と接触する前に電車事故に巻き込まれたらしいわ。軽傷で入宮病院に入院した後、インフルエンザの可能性を指摘されて留め置かれている』
『インフルエンザ?』
海云(ハイ・ユン)は訝しげに小松菜を噛み締めた。
『入宮病院は周一郎の息が掛かっている。確保したにしても厳重すぎるわね』
『消されるかも知れないね』
由宇子は小さく頷いた。
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