『魔法講座』

19.五日目、ニ時限

　「痛み」がまだ残っている人？
　はい……はい、わかりました。
　その「痛み」はさっきのものと違いますか、同じですか？
　…………ええ。違ってくる場合もあります。
　さっきより奥でじくじくします？
　…………ゆっくりやりましょうね。
　『嘘つき』くん？
　ぎょっとした顔をしなくてよろしい。
　あなたは私が今言ったことばの意味がわかっていますね？
　『ブラックホール』くんは？
　「痛み」自体が途中からわけがわからなくなりました？
　…………なるほど、そういうこともありますね。
　『無限大』くん？
　周囲が気になってうまく追えません？
　…………あなたは集中力を養う必要がありそうですね。
　さて、新たに認識した「痛み」は基本的には過去の「痛み」です。現在の「痛み」の奥にはそれが潜んでいて、「痛み」を複雑にし増幅させていたのですね。
　全体的には「痛み」の種類や程度、範囲などがわかりやすくなったのではないでしょうか。
　では、再びそこに「回復」のステップを始めます。
　………覚えていますか。
　まず「痛み」の状況の認識。
　次に「痛み」が何を語っているのか、そのことばを見つけます。
　そのことばを手がかりに忘れられていた出来事を思い出し、「痛み」と何が重なっているのか、何が違っているのか確認します。
　傷ついたことばでも、成長すれば別の意味が伝わってくるときがあります。
　酷い行為でも、そこから新たに今ならそこから学べるかも知れません。
　大切なのは、それを再体験する理由は自分を哀れんだり、他者への怒りや恨みをかきたてることではないということです。
　その出来事の意味を考えましょう。
　それはあなたの人生にとってどういうものですか。
　それの何が今のあなたに影響していますか。
　それを続けますか、終わらせますか。
　自分の気持ちを確かめて下さい。
　次にその「痛み」にさきほどの色の光、もしくは「痛み」が軽減するイメージを重ねます。
　………………ましになった人。……はい。
　まだ「痛み」が残っている人は、もう一度それを繰り返して下さい。
　「痛み」の場所と感覚、程度を認識し、「痛み」が語ることばを聞き取り、そのことばを繰り返して導きだされてくる記憶に戻ります。目当てのものに辿りついたら、そこで「回復の光（水）」をあてて、「痛み」を軽減させていきます。
　…………はい。
　そうですね、まだ「痛み」があるけど、もう何もでてこない、戻れない人は、そこで中止にしましょう。
　ここで一旦中止します、と宣言して、「回復の光」を十分全身に浴びてから目を開けて下さい。
　……………大丈夫ですか？
　………はい。
　以上のようにして、「痛み」を使い、過去へ遡って回復をはかることで、現在の「痛み」を早期に回復させることが可能になります。
　しかし、これには実は多大な心理的エネルギーを使います。
　方法は熟知していても、上手に運転ができるためには時間と訓練が必要なように、あまり一度にたくさん回復させようと粘りすぎると、現在を生きるための気力が失われてしまいます。
　今日は宿題を出しません。
　そのかわり、十分に眠り、好きなことをし、くつろいで過ごして下さい。
　今回のことで、まだ「痛み」が活性化して落ち着かないようであれば、特別補習を行いますので、申し出て予約して下さい。
　これは個人授業となります。
　また、今したステップを三日以内には再度試みないように。
　また一度に3つ以上戻らないように。現在から二つまで過去に戻ったら、そこで一旦中止しましょう。
　慣れないうちは仲のいい友人に付き添ってもらって歯止めをかけなさい。
　…………時に。
　このステップがあまりにも楽しく面白いため、嵌まってしまって現実生活を忘れる人が居ます。
　くれぐれも忘れてはなりません。
　私達は、肉体を持っているのです。
　精神世界ばかりに暮らす人は一般的には「幽霊」と呼ばれ、人に害悪をもたらす存在となるので注意が必要です。
　………はい？
　ええ、そうですよ。
　そういう意味ではこの講座自体が、両刃の剣なのです。