『segakiyui短編集』

segakiyui

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『過去から来た電車』

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 その電車に乗った時、僕は奇妙な感じを受けました。いつも乗っていた車両なのに、どことなく薄暗くて陰気なのです。
「おい、早く乗れよ」
 後ろの人に急かされて、僕はいやいや中に入りました。吊り革に掴まって辺りをゆっくり見回すと、ぽつりぽつりと人が座っている間に、黒い影が溜まっているようです。それも、よく見ると、僕が立っている右の方は明るいのに、左の方へ行くほど薄暗く、乗っている人は皆俯いています。
 何となく嫌な感じがして、僕は少し右に寄りました。
「あ、ごめんなさい」
「いえ、大丈夫です」
 右に寄った時、電車が揺れて、僕は隣の女の人にぶつかりました。慌てて謝ると、女の人は僕を見て、びっくりしたように言いました。
「私の方こそ、ごめんなさい。気がつかなくて。どうしたんですか?」
「いえ、おかしなことを言うようですが………その、電車のそっち、何か変な感じがして」
「そうですね」
 笑い出すかと思ったのに、真面目な顔で頷いた女の人に、僕は驚きました。
「あなたもそう思うんですか? 僕には薄暗くて嫌な感じに見えるんです」
「そうでしょうね」
 女の人はもう一度頷いて、僕を見つめました。静かな優しい声で、
「そちら側は事故にあって潰れた所です。たくさんの人が亡くなっていますね」
「あなたはわかるんですか。あなた、霊が見えるんですか」
 尋ねた僕に、女の人は悲しそうに笑って頷きました。
「よく見えるし、わかりますよ。確かに大きな事故だったけど、もう随分前のことです。でも、あまり急な事故だったので、亡くなった方は自分が死んだと気づかなかったんでしょう」
「じゃあ…」
 僕はそっと左の方を横目で見ました。
「あの人達は死んでいるのかな」
「いいえ」
 女の人は首を振りました。
「あの人達は元気で、まだ生きています。死んでいるのは、こちらの側の人達ですよ」
 女の人が明るい右側を目で示して、僕はびっくりしました。
「でも、だって、こちらの人はこんなに生き生きしているのに? 向こう側の人の方が陰気で生気がないように僕には見えます」
「それはね…」
 女の人が答えかけた途端、ぎぎぎぎ……と酷い音が響きました。耳の奥が痛むような、体にふつふつ鳥肌が立つような、嫌な嫌な音でした。
「ぶつかるぞ!!」
 誰かが大声で叫んだかと思うと、電車は大きく跳ねて揺れました。僕も女の人も放り出され、床の上に転がりました。ガラスが割れて、座席も何もかもが歪みました。
 気がつくと、電車の中は悲鳴と泣き声で一杯でした。割れたガラスが刺さったり、壊れた座席に挟まれたりした人が、血を流して呻いています。
「大変だ、助けなきゃ」
「待って。あの人達を見て」
 僕を引き止めた女の人が、小さく囁きました。
 女の人が教えた方向は、僕の右の方でした。あれほどの事故なのに、そちらに座っていた人達は、怪我一つせずにぼんやりと同じ所に座っています。その人達の足が霞んでいるのに気づいて、僕はぞっとしました。
「ほんとだ。あんなに元気に見えたのに」
「それはね、あなたが同じ側に居るからよ」
 女の人が答えました。
「もういいでしょう? あなた達が事故で死んだとわからない限り、同じ場所で事故が起こるの。私はそれを教えに来たんですよ」
 女の人が指差した僕の足も、霞んで途中で消えていました。

                          
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