『segakiyui短編集』

segakiyui

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『夏日』

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 小さな用水路と目を射るほど鮮やかな緑を窓枠の中に閉じ込めた部屋は、外から入ると静かで暗くてひんやりとしていた。
 部屋の隅に積まれている木の机を1つずつ並べていく間に、暑さはじんわり体の内側に籠っていく。机の前に、墨で汚れた座布団がひしゃげた煎餅のようになっているのを置いていく頃には、先生は機械仕掛けで擦った墨汁の具合を覗き込んでいる。
 吊された、書き上がったばかりの手本の乾き具合を確かめ、つるりとした半紙と、少し上等のざらりとした紙を組み合わせて、やってくる生徒達の今日の課題を準備する、先生のこめかみから、すうっと汗が流れていく。
「こんにちはあ」
 間延びした挨拶は、来た道の照り返しに疲れた子ども達の声。てんでに課題を取って、吊された紙の中に囲い込まれたような先生の机の前にもじもじと座る。ぬるついた脚をくっつけたくないから、ぺったりとお尻を落として。チロリ、と先生が眼鏡の向こうから見るのに慌てて脚を直し、背筋を伸ばす。
 小さな子ども達が、醤油差しに入れられた墨汁を各々の机の硯に流し込むと、私は水を入れて墨をゆっくり擦り始める。微かな動き。窓の外で鳴く蝉の声に呑み込まれて混ざり合う。ざわめく子ども達のおしゃべりに踏みつけられて。擦る音は聞こえない。重ねた脚の間から、汗が滲んで座布団へ吸われていくのを感じている間は。
 墨を擦る。
 心を追い詰める筆先に、耐えられるほどの濃さになるまで。

                       終わり
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