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『遅刻した星』
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その日、いつも遊んでいる公園に行くと、見たことのない奴が砂場にいた。
僕が風邪で三日間来られなかった間に、そいつはすっかり仲間になってて、あつしやひろきと楽しそうに遊んでいる。
僕はなんとなく入りにくくて、滑り台を何度も滑りながら、そいつを眺めた。
お天気続きで真っ黒に日焼けしたあつし達に比べて、真っ白な顔をしている。ひろきより倍ほど大きいきらきらした目をして、笑うと前歯が一本抜けていた。
まるで初めて公園に来たみたいに、夢中で砂を掘っている。
僕は滑り台に飽きて、ぶらぶらと砂場に近づいて行った。
「だからさ、さそりの奴はあわてもんなんだ」
そいつが話している声が聞こえて来た。
「いい加減にしとけって言うのにアキレスを追っかけてる。時々うっかり追い抜かしたりするんだ」
「嘘だあ」
あつしが砂を掘るのを止めて、眉をしかめた。
「星座がそんなに入れ替わったりするもんか。星っていうのは、地球とおんなじで、決まった所を決まった時間に動くんだって、お母さんが」
「へええ、一晩中見てたの?」
そいつはからかうように言った。
「だって……なあ」
「うん」
あつしがひろきを振り返り、ひろきも頷いた。
「学校でも、星が勝手に動くなんて言わなかったよ、せんせえは」
「じゃあ、お母さんも『せんせえ』も知らないんだよ」
そいつはくすくす楽しそうに笑った。
「僕はよおく知ってるよ。いつもじっと見てるからね」
「でもなあ……あ、かずし」
ひろきが僕に気づいてくれた。
「風邪引いたんだって? もういいのか」
「うん…」
僕はちらりと、あつしと座っている奴を見た。ひろきが振り返って、
「ああ、あいつ、かずしは知らないよね。つかさっていうんだってさ。ほしのつかさ」
「つかさ…」
「うん。星のこととか月のこととかよく知ってるんだ。この前なんか、なあ、あつし」
「ええ? ああ、そうだ。この前、夜中に流れ星が出るってつかさが言ったら、ほんとに出たんだ。けどな、オレはやっぱり、星は勝手に動かないと思う」
あつしはちょっと僕を見たけど、すぐにつかさと話し始めた。ひろきも一緒に話し出す。
僕は仲間はずれになってしまった。もう帰ろうかなと思い始めた時、つかさが急に大声を上げて立ち上がった。
「しまった!」
「どうしたの」「どうしたんだ」
「遅刻しちゃった」
「何に?」「塾?」
「ううん、じゃあね、またね、バイバイ!」
僕らに構わず、つかさは跳ね飛ぶように駆け出した。そんなつもりはなかったけど、気がつくと、僕はつかさを追っかけていた。
辺りはどんどん暗くなる。つかさは町外れに駆けて行く。
こっちに家なんてあったかな、工場しかなかったのにな。
そう思った時、つかさがひょいと工場の隅へ入って行った。慌てて後を追ったけど、その辺りは真っ暗で、何があるのかもわからない。
怖くなって後ずさりした僕は、くるくる辺りを見回した。
「あ、つかさ」
工場の煙突の一本につかさが登って行く。シャツやズボンから出ている手足の白さが、暗い中で光っている。光った小さな体が、煙突の上へ上へと登って行く。
とうとう天辺まで登り着いた。でも、つかさはひょいと手を伸ばし、今までと同じようにどんどん上へ登って行った。小さな体がもっともっと小さくなり、見ている間に点になった。いつの間にか、空いっぱいの星の中、つかさの体がぽちりと光る。
ああ、あいつなら見たことがある。
僕は一人呟いた。
つかさは北極星だったのだ。
終わり
僕が風邪で三日間来られなかった間に、そいつはすっかり仲間になってて、あつしやひろきと楽しそうに遊んでいる。
僕はなんとなく入りにくくて、滑り台を何度も滑りながら、そいつを眺めた。
お天気続きで真っ黒に日焼けしたあつし達に比べて、真っ白な顔をしている。ひろきより倍ほど大きいきらきらした目をして、笑うと前歯が一本抜けていた。
まるで初めて公園に来たみたいに、夢中で砂を掘っている。
僕は滑り台に飽きて、ぶらぶらと砂場に近づいて行った。
「だからさ、さそりの奴はあわてもんなんだ」
そいつが話している声が聞こえて来た。
「いい加減にしとけって言うのにアキレスを追っかけてる。時々うっかり追い抜かしたりするんだ」
「嘘だあ」
あつしが砂を掘るのを止めて、眉をしかめた。
「星座がそんなに入れ替わったりするもんか。星っていうのは、地球とおんなじで、決まった所を決まった時間に動くんだって、お母さんが」
「へええ、一晩中見てたの?」
そいつはからかうように言った。
「だって……なあ」
「うん」
あつしがひろきを振り返り、ひろきも頷いた。
「学校でも、星が勝手に動くなんて言わなかったよ、せんせえは」
「じゃあ、お母さんも『せんせえ』も知らないんだよ」
そいつはくすくす楽しそうに笑った。
「僕はよおく知ってるよ。いつもじっと見てるからね」
「でもなあ……あ、かずし」
ひろきが僕に気づいてくれた。
「風邪引いたんだって? もういいのか」
「うん…」
僕はちらりと、あつしと座っている奴を見た。ひろきが振り返って、
「ああ、あいつ、かずしは知らないよね。つかさっていうんだってさ。ほしのつかさ」
「つかさ…」
「うん。星のこととか月のこととかよく知ってるんだ。この前なんか、なあ、あつし」
「ええ? ああ、そうだ。この前、夜中に流れ星が出るってつかさが言ったら、ほんとに出たんだ。けどな、オレはやっぱり、星は勝手に動かないと思う」
あつしはちょっと僕を見たけど、すぐにつかさと話し始めた。ひろきも一緒に話し出す。
僕は仲間はずれになってしまった。もう帰ろうかなと思い始めた時、つかさが急に大声を上げて立ち上がった。
「しまった!」
「どうしたの」「どうしたんだ」
「遅刻しちゃった」
「何に?」「塾?」
「ううん、じゃあね、またね、バイバイ!」
僕らに構わず、つかさは跳ね飛ぶように駆け出した。そんなつもりはなかったけど、気がつくと、僕はつかさを追っかけていた。
辺りはどんどん暗くなる。つかさは町外れに駆けて行く。
こっちに家なんてあったかな、工場しかなかったのにな。
そう思った時、つかさがひょいと工場の隅へ入って行った。慌てて後を追ったけど、その辺りは真っ暗で、何があるのかもわからない。
怖くなって後ずさりした僕は、くるくる辺りを見回した。
「あ、つかさ」
工場の煙突の一本につかさが登って行く。シャツやズボンから出ている手足の白さが、暗い中で光っている。光った小さな体が、煙突の上へ上へと登って行く。
とうとう天辺まで登り着いた。でも、つかさはひょいと手を伸ばし、今までと同じようにどんどん上へ登って行った。小さな体がもっともっと小さくなり、見ている間に点になった。いつの間にか、空いっぱいの星の中、つかさの体がぽちりと光る。
ああ、あいつなら見たことがある。
僕は一人呟いた。
つかさは北極星だったのだ。
終わり
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